第52章:始業式の朝、三馬鹿の沈黙と「女王」の箝口令
3学期の始業式。
久しぶりに登校した俺、雨宮 聖次は、教室に入った瞬間に違和感を覚えた。
「……おはよう」
俺が声をかけると、いつもなら「よっ! 聖次ぃ!」と騒がしく絡んでくるはずの小野田 達也が、ビクッ!と肩を震わせ、直立不動になった。
「あ、ああ……おはよう、聖次……さん」
「……『さん』?」
隣にいる美咲も、なぜか俺を見て、そっと手を合わせている。拝んでいる?
「……なんだよ、お前ら。朝から変だぞ」
「い、いいや! 何でもない! 俺たちはただ、お前の……その、無事を祈っているだけだ!」
「そーそー! 聖次ってホント、愛されてるな〜って! 命だけは大事にしなよ?」
達也と美咲の顔は引きつっていた。
俺は首を傾げながら、自分の席――瑠奈の隣へと向かった。
「……おはよう、瑠奈」
「……ん。おはよ」
瑠奈は頬杖をつき、窓の外を眺めていた。
その横顔はいつも通りクールだが、達也たちが怯えている理由が全く分からなかった。
――俺は知らなかったのだ。
今朝、俺が登校する少し前に、**校門の外で「血の粛清(口止め)」が行われていたことを。**
***
(時間を少し遡る――始業式前の校門付近)
校門の少し手前、電柱の陰。
そこには、詩織さん(大学生)の登校姿を拝もうと待ち伏せしていた**大学生・神崎 蓮**の姿があった。
そして、登校してきた達也と美咲が彼を見つけ、合流していた。
「おい見ろよこれ! 正月の絵馬の写真!」
「『パパを辞めさせる』……やはり聖次のことだよな!?」
「ふむ。雨宮を社会的に抹殺する意味なのか、それとも……。同じ大学の詩織さんにこの画像を見せれば、雨宮の評価は地に落ちるのでは?」
神崎が邪悪な笑みを浮かべた、その時だった。
「……楽しそうね、アンタたち」
ヒュッ。
三人の喉が鳴った。
振り返ると、そこには腕を組み、ゴミを見るような冷ややかな目で彼らを見下ろす、**橘 瑠奈**が立っていた。
「げっ、瑠奈ちゃん!?」
「これは違うんだ! 俺たちはただ、二人の愛の行方を……」
達也が言い訳しようとすると、瑠奈は無言でスマホを取り上げた。
そして、手慣れた操作で画像を削除し、ゴミ箱からも完全に消去した。
「……ああっ! 貴重なスクープが!」
「……で?」
瑠奈が一歩踏み出す。
その背後に、どす黒いオーラ(覇気)が見えた気がして、高校生の達也たちはもちろん、年上の神崎でさえも後ずさった。
「……聖次に言ったら、どうなるか分かってるわよね?」
「い、言いません! 誓って!」
「神に誓うか!?」
「神なんて信用できない。……アタシに誓いなさい」
瑠奈は三人の顔を順番に睨みつけた。
「……これは、アタシの戦争なの。外野が余計なことして聖次の耳に入れたら……」
彼女はニッコリと笑った。
目が全く笑っていない、美しくも恐ろしい笑顔で。
「……卒業式まで、アンタたちの『黒歴史』、校内放送で流してもいいのよ? 達也が美咲の机の匂い嗅いでたこととか」
「やめてえぇぇッ!!」
そして、瑠奈の視線が神崎に向く。
「……神崎先輩。詩織お姉ちゃんと同じ大学だからって調子乗ってると……『キャンパス内で詩織のストーカーをしてる変質者がいる』って、お姉ちゃんに直接通報するわよ?」
「ヒィッ!! それだけは!! 詩織さんに嫌われたら僕は死んでしまう!!」
三人はその場に土下座した。
完全に急所を握られている。この女子高生、強すぎる……!
「……よろしい。聖次には『絶対に』内緒。……アタシが直接、引導を渡すまではね」
瑠奈は満足そうに頷き、校門をくぐっていった。
残された三人は、冷や汗まみれでアスファルトに突っ伏していた。
「……ヤベェよ。あの娘、本気だ」
「聖次のやつ、とんでもない猛獣を飼ってやがる……」
「……雨宮。君の冥福を祈るよ……」
***
(現在に戻る)
ホームルームが始まる。
俺は隣の席の瑠奈を見た。
彼女はシャープペンを回しながら、黒板を見つめている。
(……なんか、達也たちが大人しいな。受験前だからか?)
俺は何も知らないまま、教科書を開いた。
隣の猛獣が、牙を研いでその時(受験前夜)を待っていることなど、露知らずに。
(続く)




