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『娘はクラスメイト 〜パパになっちゃったら、好きって言えないじゃん!!〜 』  作者: NEXT


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第37章:証拠写真と、オープンキャンパスの約束

 翌日。

 教室に入った瞬間、俺は自分の机に座っている「妖怪」と目が合った。


「おやおやぁ〜? おはよう、雨宮『ダーリン』聖次くん?」


 小野田 達也だ。

 彼はニタリと笑うと、俺がカバンを置くよりも早く、スマホの画面を突きつけてきた。


「聞かせてもらおうか。昨日の放課後の、この『決定的瞬間』についての言い訳を」


 画面に映し出されていたのは、雨煙る路上で、相合傘をしている俺と瑠奈の後ろ姿。

 それだけならまだいい。問題なのは、瑠奈が俺の右腕(写真では左側)をガッチリと抱き込み、身体を密着させている様子が、高画質で激写されていることだ。


「……ッ! お前、いつ撮ったんだよ!」

「『駅まで送るだけ』? 『風邪引かせたくないだけ』? ……ハッ、笑わせるねぇ!」


 達也はねっとりとした口調で、写真の「接合部」を指差した。


「見てみろよ、この距離感。ゼロセンチどころか、肉が食い込んでマイナス距離じゃないかぁ。……これはもう、ただのクラスメイトの距離じゃあない。完全に『デキてる』男女の距離だねぇ?」

「ち、違う! あれは瑠奈が寒がってたから……!」

「ヒューッ! 寒がってた彼女を体温で温める! ご馳走様ですぅ〜!」


 隣から美咲も割り込んできて、囃し立てる。

 弁解すればするほど、泥沼にハマっていく感覚だ。


 そこへ、当の瑠奈が教室に入ってきた。


「……なに騒いでんの? 朝からウザいんだけど」

「あ、瑠奈〜! 見て見て、昨日のラブラブ写真!」


 美咲が画面を見せる。

 瑠奈は一瞬ギョッとして俺を見たが、すぐにフイッと顔を背けた。


「……べ、別にいいじゃん。……寒かったし。聖次が『くっついていいぞ』って言うから……」

「おい! 俺はそんなこと言ってないぞ!?」

「言ったもん! 心の中で言ってたもん!」


 瑠奈の理不尽な反論に、達也たちが「ヒュ〜♪」と沸く。

 もうダメだ。完全に外堀が埋まっている。


 達也は満足そうに頷くと、話題を変えた。


「ま、熱いのは結構だがよぉ。……今週末の日曜、どうすんだ?」

「日曜?」

「オープンキャンパスだよ。瑠奈ちゃん、服飾系の大学に見学行くんだろぉ? 美咲から聞いたぜ?」


 そういえば、そんな時期か。

 俺が瑠奈を見ると、彼女は少し気まずそうに視線を逸らした。


「……うん。行こうかなって思ってるけど。……一人だと心細いし」

「おやおやぁ? 心細い乙女がいるねぇ、聖次くん?」


 達也が俺の肩を組んでくる。


「愛する彼女の一大事だ。……当然、彼氏ダーリンとして付き添ってやるのが男の甲斐性ってもんだろぉ? んん?」

「いや、俺は……」

「行くよね? 聖次」


 瑠奈が、上目遣いで俺を見つめてきた。

 その瞳は、クラスメイトへの演技ではなく、本心からの「お願い」の色を帯びていた。

 ……父親として、娘の進路選択に関わらないわけにはいかない。

 それに、東京の大学まで一人で行かせるのは心配だ。


「……分かったよ。俺でよければ付き合う」

「やった! 言質とった!」

「ヒューッ! 日曜デート確定! お土産よろしくな〜!」


 達也たちの冷やかしをBGMに、瑠奈は小さくガッツポーズをした。


 ***


 日曜日。

 俺と瑠奈は、表参道の交差点に立っていた。

 今日の瑠奈は、淡い黄色のオフショルダーのトップスに、デニムのロングスカート。髪も緩く巻いていて、高校生とは思えないほど大人っぽい。

 対する俺は、襟付きのシャツにチノパンという、いわゆる「保護者スタイル」だ。


「……ねえ聖次。歩くの速い」

「悪い。人が多くてさ」


 俺が歩調を緩めると、瑠奈は当たり前のように俺の腕に手を回してきた。


「はぐれたら困るでしょ。……ちゃんとエスコートしなさいよ」

「はいはい」


 周囲からは、どう見ても「休日のデートを楽しむカップル」に見えているだろう。

 すれ違う男たちが「うわ、あの子可愛くね?」「彼氏羨ましいな」と囁くのが聞こえる。

 俺は父親としての誇らしさと、周囲の誤解に対する申し訳なさで複雑な気分だった。


 目的の大学キャンパスは、洗練されたオシャレな空気に包まれていた。

 模擬授業を受け、施設を見学し、カフェテリアでランチをとる。

 瑠奈は終始、真剣な眼差しでメモを取っていた。


「……どうだ? 気に入ったか?」

「うん。……設備も凄いし、先輩たちもオシャレだし。……でも」


 瑠奈はパンケーキを突きながら、ふと表情を曇らせた。


「……アタシなんかが、ここに入れるのかな」

「え?」

「だってお姉ちゃんはT大だし、ママも……昔は優秀だったんでしょ? アタシだけバカだし、取り柄ないし」


 優秀な姉へのコンプレックス。

 彼女はずっとそれを抱えて生きてきたのだ。

 俺はコーヒーカップを置き、彼女の目を真っ直ぐに見た。


「何言ってるんだ。瑠奈には瑠奈の才能があるだろ」

「……才能?」

「ああ。今日だって、その服の合わせ方とか、俺じゃ逆立ちしても思いつかない。お前には『好き』を形にする力がある。……それは詩織さんにも真似できない、お前だけの武器だ」


 俺の言葉に、瑠奈がパチクリと目を瞬かせた。

 やがて、彼女の頬が朱色に染まっていく。


「……なによ。急に真面目ぶって」

「本心だよ。……俺も遥さんも、お前なら絶対に大丈夫だって信じてる」

「……バカ。……調子狂う」


 瑠奈は照れ隠しに俯き、それからテーブルの下で、俺の足をコツンと蹴った。


「……じゃあさ」

「ん?」

「……もしアタシが合格したら」


 彼女は顔を上げ、少し潤んだ瞳で俺を見つめた。


「……またこうやって、デートしてくれる?」

「デートって……今日は保護者の付き添いだぞ」

「うるさい! アタシの中ではデートなの!」


 彼女は身を乗り出し、俺の小指を自分の小指で引っ掛けた。


「……約束だからね。合格したら、ご褒美デート。……その時は、保護者じゃなくて、一人の男としてエスコートすること。絶対だから」


 真剣な眼差し。

 それは、ただのワガママではなく、未来への自分自身への誓いのようにも見えた。

 俺はこの指切りを断ることなどできなかった。


「……ああ。分かった。合格したらな」

「よし! 言ったね! 録音したから!」

「えっ、いつの間に!?」


 瑠奈はニシシと悪戯っぽく笑い、スマホを掲げた。

 その笑顔は、梅雨空を吹き飛ばすような、眩しい夏の日差しのようだった。


 こうして、俺たちは「合格後のデート」という爆弾……もとい、約束を抱えたまま、本格的な夏を迎えることになった。

 その先に待つ、花火大会でのさらなる波乱を知る由もなく。


(続く)

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