第35章:18歳の解禁日と、三人の「尽くしたい」美女たち
5月27日。
俺、雨宮 聖次、18歳の誕生日。
法律上、成人となった。
つまり――美咲が言っていた通り、**親の同意なしで結婚できるようになった**、記念すべき日だ。
もう誰の許可もいらない。俺が「結婚する」と言って、相手が頷けば、その瞬間に夫婦になれる。
その事実が持つ重みに、俺は朝から武者震いのようなものを感じていた。
だが、リビングに入ると、そこには重苦しさとは無縁の「違和感」があった。
「……おはよう、聖次」
「おはようございます、お父さん」
「おはよう、聖次さん! お誕生日おめでとう!」
テーブルには、完璧な朝食が並んでいた。
味噌汁の湯気、焼き魚の焦げ目、ふっくらとした白米。
いつもなら俺が作るはずの景色が、そこにあった。
「……えっと、これは?」
「今日は聖次の誕生日でしょ? だから家事禁止」
瑠奈がエプロン(俺があげたやつじゃない、自分用の派手なやつ)姿で、フライ返しを突きつけてくる。
「アンタは座ってて。全部ウチらがやるから」
「そうですよ。……いつもお世話になりっぱなしですから、今日くらいは『王様』でいてください」
詩織さんもコーヒーを淹れながら微笑む。
JDデビューを果たし、少し大人びた彼女のコーヒーは、俺が淹れるより香りが良い気がした。
***
学校でも、受難(?)は続いた。
「よっ! 18歳! 解禁おめでとう〜!」
教室に入るなり、達也がニヤニヤしながら肩を組んでくる。
「これでアレだな、マジで役所に紙一枚出せば、瑠奈ちゃんと夫婦になれるわけだ」
「……出さねーよ。まだ高校生だ」
「でもさー、瑠奈ちゃん今日、朝からソワソワしてんぜ? 『聖次の誕生日だし……』とかブツブツ言って、メイク気合い入ってるし」
見ると、瑠奈は美咲と何かヒソヒソ話をして、時折こちらを見ては顔を赤くしている。
美咲が「ほら、同意ナシで行けちゃうよ〜? 既成事実作っちゃいなよ〜」と煽っているのが聞こえて、俺は頭を抱えた。
***
そして夜。
帰宅すると、リビングはちょっとしたパーティー会場になっていた。
遥さんが腕によりをかけた(一部、焦げているが愛嬌だ)ご馳走を囲み、俺たちは乾杯した。
「聖次さん、18歳おめでとう! ……うぅ、もう私の許可がなくてもお嫁に行けちゃうのね……感無量だわ……」
「遥さん、誰がお嫁に行くんですか。俺が貰う側です」
「あ、そうだったわ! てへへ」
まだ乾杯のジュースを一口飲んだだけなのに、遥さんはすでに涙目だ。
「じゃあ、プレゼントタイムね!」
トップバッターは瑠奈だった。
彼女は少し照れくさそうに、ショッピングバッグを渡してきた。
「……はい、これ。アタシから」
中に入っていたのは、**お洒落なスニーカー**だった。
俺が普段履いている安物とは違う、雑誌に載っていそうなブランドものだ。
「アンタさ、いっつも自分のこと後回しじゃん? 服とか適当だし、パパくさいし」
「……パパくさいは余計だ」
「……だから。これ履いて、もっとカッコよくなりなよ。……隣歩くんだからさ」
最後の方はボソボソと言って、彼女はプイッと横を向いた。
「娘」としてではなく、「隣を歩くパートナー」としての注文。
18歳になり、法的なハードルが消えた今、その言葉は以前よりも現実味を帯びて響いた。
続いて、詩織さん。
彼女が渡したのは、細長い箱だった。
開けると、**重厚感のあるボールペン**が入っていた。
「……これから受験勉強も本格化しますし、大学に入ってからも使えるものをと」
「おお、すごく書きやすそうだ。ありがとう」
「……それに、そのペンを見るたびに思い出してください」
「え?」
「私が……私たち家族が、いつもあなたを応援していることを。……試験会場でも、一人じゃないってことを」
彼女は真っ直ぐに俺を見て言った。
かつて俺が彼女に言った「半分背負う」という言葉を、彼女なりの形で返してくれたのだ。
その瞳は、もう眼鏡がなくても十分に強かった。
そして最後は、遥さん。
彼女はニコニコと笑いながら、小さな箱を差し出した。
「はい、私からはこれ!」
開けてみると、そこにあったのは――**革製のキーケース**だった。
使い込むほどに味が出そうな、上質な革。
そしてよく見ると、遥さんが持っているものと色違い(ペア)だった。
「……これ」
「家の鍵、今まで裸で持ってたでしょ? だから、ちゃんとした居場所を作ってあげたくて」
遥さんは俺の手を包み込むように握った。
「聖次さんは、この家の『鍵』よ。あなたがいないと、この家は開かないし、守れない。……これからも、私たちの帰る場所を守ってね、パパ」
その言葉に、俺の涙腺が緩んだ。
スニーカー(足元)、ボールペン(未来)、キーケース(現在/家庭)。
三人がそれぞれの視点で、俺という人間を見て、選んでくれた。
「……ありがとうございます。最高に幸せな18歳です」
俺が頭を下げると、三人は「顔を上げてください」「大袈裟ねぇ」「パパ、泣いてんの?」と笑った。
18歳。大人への入り口。
その第一歩は、世界一温かい家族の愛に包まれて始まった。
この幸せを守るためなら、どんな苦労も背負い込める。そう改めて誓った夜だった。
(続く)




