第31章:入学式のツーショットと、深まる勘違い
4月某日
日本最高峰の学び舎、T大学の入学式。
正門前に掲げられた『入学式』の看板の前には、記念撮影をする新入生と保護者たちで長蛇の列ができていた。
「……ううっ、詩織ぃ……! 大きくなってぇ……!」
「母さん、泣くのが早いです。まだ門の前ですよ」
看板の前で、ベージュのスーツにトレンチコートを着こなした詩織さんが、ハンカチで目元を抑える遥さんをなだめている。
今日の詩織さんは、先日俺と一緒に選んだ「勝負服」だ。
そしてもちろん、**「裸眼」**である。
知性と美貌が溢れ出ており、周囲の新入生男子たちが「おい見ろよ、すげぇ美人」「モデルか?」とざわついているのが分かる。
「聖次さん! カメラ! 詩織の晴れ姿、逃さないでね!」
「任せてください。連写モードでいきます」
俺は一眼レフを構えた。
遥さんは「私も入る〜!」と詩織さんの隣に並ぶ。
若々しい遥さんと、大人びた詩織さん。親子というよりは、美人の姉妹にしか見えない。
「はい、撮りますよー。チーズ!」
カシャッ。
満開の桜の下、最高の笑顔の二人が撮れた。
「次は聖次さんの番よ! ほら、詩織の隣に立って!」
「え、俺もですか?」
「当たり前でしょ! 父親なんだから!」
遥さんが俺からカメラを奪い取る。
俺は苦笑しながら、詩織さんの隣に立った。
すると、詩織さんが俺の袖をキュッと掴んだ。
「……聖次さん」
「ん?」
「……もっと、寄ってください」
彼女は上目遣いで言うと、俺の腕にしっかりと自分の腕を絡ませ、頭を少し俺の肩に預けてきた。
甘えるような、そして独占するような距離感。
どう見ても「父と娘」ではなく、完全に**「仲睦まじいカップル」**のそれだった。
「あらあら〜! 熱いこと! ママ、妬けちゃうわ〜♪」
遥さんがニマニマしながらカメラを構える。
「じゃあ撮るわよ〜! はい、ラブラブ〜♪」
カシャッ。
遥さんの掛け声と共に、俺たちのツーショットが切り取られた。
「……ありがとうございます。後でデータ、全部くださいね」
「もちろんよ! 大きく引き伸ばしてリビングに飾りましょう!」
嬉しそうに画像をチェックする詩織さんと、それを冷やかす遥さん。
俺たちは幸せな空気の中、講堂へと向かった。
――だが。
俺たちは気づいていなかった。
その光景を、少し離れたイチョウ並木の影から、血迷…血走った眼で見つめる男がいたことに。
「……やはり、見間違いではなかった……ッ!」
無駄に整った顔立ちに、銀縁眼鏡。
T大法学部に首席で合格した男、神崎 蓮だ。
彼はギリリと奥歯を噛み締め、木を殴りつけた。
「卒業式で抱き合っていたかと思えば……神聖なる入学式にまでついて来るとは!」
彼の中では、物語はこう構築されていた。
『純真無垢な詩織さんは、あの軟派な男(聖次)に騙されている』
『あいつは高校生の分際で、わざわざここまでついて来て、ツーショットを見せつけてマーキングしているに違いない』
ちなみに、カメラを構えていた遥さんのことは、彼の視界には入っていなかった。
彼にとって、詩織と聖次のイチャつきがあまりにも衝撃的すぎて、撮影者が**「通りすがりの親切な人」**か**「雇われカメラマン」**程度にしか認識されていなかったのだ(あるいは、若すぎて母親だと思わなかったのかもしれない)。
「おのれ……許さんぞ、雨宮……!」
神崎は眼鏡をクイッと押し上げ、漆黒の炎を瞳に宿した。
「僕が必ず、詩織さんを救い出してみせる。……このT大キャンパスで、貴様の魔の手からなッ!!」
彼の熱すぎる正義感(とトンネル視界)が、今後のキャンパスライフを波乱に巻き込むことになるのを、俺たちはまだ知らなかった。
(続く)




