第30章:粘着探偵とエスパー級の包囲網
新学期初日。
ホームルームが終わり、教室がざわめき始める放課後。
俺、雨宮 聖次は、帰り支度をしながら大きなため息をついた。
(……なんで、よりによってコイツらと一緒なんだ)
チラリと横を見る。
そこには、新しいクラスメイトたちと早速談笑している金髪ギャル――義理の娘(予定)である瑠奈と、その親友の美咲。
そして、俺の視線に気づいたのか、ニチャアと粘っこい笑みを浮かべて近づいてくる男が一人。
「……なあ、聖次」
名前で呼ばれた。
2年生までは「雨宮」だったくせに、最高学年になった途端、妙な親近感を出してきやがった。
俺は嫌な予感をひしひしと感じながら、愛想笑いを浮かべた。
「……なんだよ、達也」
「今週末の日曜さ、クラスの親睦会兼ねて**『花見』**行かねーか? 駅前の公園で」
花見。
その単語が出た瞬間、俺の脳内で警報が鳴り響く。
今週末は、家族(遥さん、詩織さん、瑠奈)と花見に行く約束をしている日だ。遥さんが張り切って重箱を用意しているし、詩織さんも楽しみにしている。絶対に外せない。
「いやぁ……悪い。その日はちょっと」
「ああん? なんだよ、付き合い悪いなぁ」
「ほら、俺の両親、海外赴任中だろ? その日は向こうとビデオ通話する約束しててさ。時差があるから、時間厳守なんだよ」
俺は咄嗟に、以前使った「架空の両親設定」を持ち出した。
これなら角も立たないし、家族行事だと言えば無理強いはされないはず――。
そう思った、次の瞬間だった。
「……嘘つけ」
達也の目が、スッと細められた。
まるで獲物を追い詰める蛇のような目だ。
「……は?」
「お前そのネタ、去年のクリスマスの時にも使っただろ? 『両親とビデオ通話するからパーティーには行けない』って」
ギクリとした。
こいつ……そんな前の言い訳を覚えてやがったのか!?
「い、いや、あれだ! 回線の調子とかあるし、家にWi-Fi環境が……」
俺がしどろもどろになっていると、達也はさらに一歩、距離を詰めてきた。
「ビデオ通話ぁ〜? んなもん、スマホがありゃ何処ででも出来るだろ〜ぅ?」
「うッ……」
「ましてや、せっかくの春だぜぇ? 花見もせず、薄暗い部屋でスマホに向かって喋る寂しい息子の姿なんて……親は見たくないと思うんだがぁ?」
達也の手が、俺の肩を這うように掴む。
「……違うかぁい? 聖次くんぅ?」
(し……しまった……!! 俺、この場面知ってる!)
(よりによってこの男に、クリスマスと同じ手を使うなんてどうかしてるぜ……なんでだ? 悪徳商人改め粘着探偵がまた同じクラスになったせいで、脳がバグったのか……?)
(お、落ち着け聖次……ちょ、誰か助けて……! w)
俺が冷や汗まみれでパニックに陥っていると、達也は喉の奥から「ハッハァ〜ン?」と愉快そうな声を漏らした。
「……ふふん。図星みたいだなぁ? ……まぁた、瑠奈ちゃんだなぁ〜? はぁ〜ん?」
「……ち、違うって言ってるだろ」
「ウケる〜! またデート〜? 聖次、瑠奈のこと好きすぎじゃね?」
いつの間にか美咲も背後に立っていた。
完全に包囲されている。
「あ、聖次! 帰ろ!」
そこへ、何も知らない瑠奈がカバンを持ってやってきた。
救世主かと思いきや、彼女の一言が俺にとどめを刺した。
「週末のお花見の買い出し、行かなきゃじゃん! ママ……じゃなくて、みんな待ってるし!」
(瑠奈ちゃあぁぁぁん!? 今それ言う!? タイミング悪すぎて逆に神懸かってるよぉぉ!!)
俺の心の絶叫虚しく、教室が一瞬、静まり返る。
達也が「ほ〜ら見ろ」と言わんばかりのドヤ顔で、俺の肩をバンバン叩いた。
「いやぁ〜、熱いねぇ! 親公認で『家族ぐるみ』のお花見デートってか? お前ら、進みすぎだろぉ?」
「ち、違う! これは……!」
「はいはい、邪魔しないって。……行こうぜ美咲ちゃん。俺たちはのんびり、負け犬同士で花見と洒落込もうぜぇ」
「だね〜。頑張ってね〜パパとママによろしく〜」
達也と美咲は、ニヤニヤしながら手を振って去っていった。
残された俺は、頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
「……聖次? どしたの? お腹痛い?」
「……いや、胃が痛い。主にお前の友達のせいで」
瑠奈は不思議そうに首を傾げている。
この「誤解」という名の既成事実は、卒業まで俺を苦しめ続けるに違いない。
俺は重い足取りで立ち上がり、無邪気な「娘」と共に、週末の買い出しへと向かうのだった。
(続く)




