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『娘はクラスメイト 〜パパになっちゃったら、好きって言えないじゃん!!〜 』  作者: NEXT


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第23章:卒業式、答辞の震えと「半分背負う」約束

 3月1日。

 この地方の高校では、一斉に卒業式が行われる。

 空は突き抜けるような青空。けれど空気はまだ冷たい。


 体育館には、厳粛な空気が流れていた。

 俺、雨宮 聖次は、在校生席のパイプ椅子に座り、真っ直ぐに演台を見つめていた。


 隣の席では、同じクラスの瑠奈が退屈そうに手遊びをしているが、その視線はしっかりと壇上の姉に向けられている。

 そして、遥か後方の保護者席では、遥さんが一人でボロボロと泣き崩れているのが見えなくても分かった(時折、鼻をすする大きな音が聞こえてくるからだ)。


 壇上には、黒澤 詩織がいた。

 卒業生代表。答辞を読む彼女の声は、凛として美しく、体育館中に響き渡っている。

 完璧な生徒会長。誰もが彼女をそう称賛していた。


 だが、俺だけは気づいていた。

 マイクを握る彼女の指先が、微かに、けれど小刻みに震えていることを。


 まだ、国立大学の合格発表は終わっていない。

 彼女は今、「未来が確定していない」という恐怖と戦いながら、立派な卒業生を演じているのだ。

 俺は拳を握りしめた。今すぐ駆け寄って背中を支えてやりたいが、在校生の俺には、ここから見守ることしかできない。


 ***


 式が終わり、校庭は写真撮影をする生徒たちで溢れかえっていた。

 俺たちは人混みを避け、校舎裏の静かな桜の木の下(まだ蕾だが)に移動した。

 詩織さんは、卒業証書を入れた筒を抱きしめ、どこか力なく空を見上げていた。


「……お疲れ様です、詩織さん」

「……聖次さん」


 彼女は俺に気づくと、弱々しく微笑んだ。


「……疲れました。演じるのは」

「立派な答辞でしたよ」

「……嘘つきです。気づいていたでしょう? 私が震えていたこと」


 彼女は筒を強く握りしめた。


「……怖かったんです。みんな私を『才色兼備の生徒会長』だと褒めてくれます。進路も完璧だろうと信じて疑わない。……でも、もし落ちていたら?」


 彼女の声が震え始める。


「もし不合格だったら、私はただの『口だけの女』です。黒澤の家を守るなんて言いながら、結果も出せない無様な長女です。……それが怖くて、怖くて……」


 彼女の目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。

 式の間、ずっと堪えていた不安が決壊したのだ。

 遥さんと瑠奈が駆け寄ろうとするのを、俺は手で制した。

 今、彼女に必要なのは慰めじゃない。


 俺は一歩踏み出し、彼女の正面に立った。


「……詩織さん」

「……ごめんなさい。めでたい日なのに、こんな……」

「詩織さん」


 俺は彼女の肩に手を置き、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめた。


「……もう、一人で完璧になろうとしなくていい」

「……え?」

「結果がどうあれ、あなたは黒澤家を守ってきました。十分に戦ってきました。……でも、これからは違います」


 俺は言葉に力を込めた。ずっと、この日のために用意していた言葉だ。


「俺がいます。遥さんがいます。瑠奈がいます。……俺たちが家族です」

「……家族……」

「そう、家族です。家族ってのは、辛いことを分け合うためにいるんです」


 俺は彼女の手から、卒業証書の筒をそっと受け取り、その空いた手を強く握りしめた。


「あなたの背負っている荷物、重すぎるなら……俺が半分背負います」


「……ッ!」


 詩織さんが息を呑んだ。

 時が止まったようだった。


「黒澤という名前も、将来への不安も、全部。……半分、俺に預けてください。俺はそのために、あなたの父親になるんですから」


 詩織さんの瞳が大きく揺れ、やがてくしゃりと歪んだ。


「……いいん、ですか……? 重い、ですよ……?」

「望むところです。鍛えてますから」


 俺がニッと笑うと、彼女は「……ばか」と泣き笑いをして、俺の胸に飛び込んできた。


「……うぅ……っ! 聖次さん……お父さん……っ!」


 彼女は子供のように声を上げて泣いた。

 俺の胸元が涙で濡れていく。

 俺は彼女の背中を、赤ん坊をあやすように優しく叩き続けた。


「……ずるいぞお姉ちゃん! アタシも!」

「私も〜! みんなで背負えば怖くないわよ〜!」


 隠れていた瑠奈と遥さんも飛び出してきて、俺たちごとかき抱いた。

 校舎裏の桜の木の下。

 まだ花は咲いていないけれど、俺たち家族の絆は、満開の花よりも強く結ばれた気がした。


 ***


 帰り道。

 泣き腫らした目の詩織さんは、スッキリとした顔で空を見上げた。


「……お腹、空きましたね」

「ですね。今日は卒業祝いのご馳走ですよ」

「……聖次さん。合格発表の日、一緒に画面を見てくれますか?」

「もちろんです。どっちの結果でも、俺が受け止めます」


 彼女は「はい」と力強く頷いた。

 その横顔にもう、迷いはなかった。


 そして10日後。

 運命の合格発表の日を迎えることになる。


(続く)

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