第13章:偽装ダブルデートと、ホームセンターの新婚ごっこ
文化祭の準備期間に入ったある日の放課後。
俺たちのクラス、2年B組は「装飾材料の不足」という危機に直面していた。
「あー、ペンキと布、あと細かい金具が足りねーな。誰か買い出し行ってきてくんね?」
実行委員の声に、教室が静まり返る。面倒な買い出しになんて誰も行きたくない。
その沈黙を破ったのは、あの「悪徳商人」だった。
「はいはーい! 俺、行きまーす! 荷物持ち必要だし、誰か手伝ってよ!」
達也が元気よく手を挙げた。
そして、獲物を狙う鷹のような目で俺を見た。
「雨宮、お前ガタイいいから決定な。あと、女子のセンスも必要だよな〜。美咲、お前暇だろ?」
「えー? ダルいけど、達也のおごりでアイスなら行く〜。あ、じゃあ瑠奈も行こ!」
流れるような連携プレー。
気づけば俺、瑠奈、達也、美咲の四人が選抜されていた。
「……ハメられた」
「……帰りたい」
俺と瑠奈がボソリと呟くが、時すでに遅し。
こうして俺たちは、駅前のバス停からホームセンター行きのバスに揺られることになった。
***
ホームセンターに到着するなり、達也と美咲は示し合わせたようにニヤリと笑った。
「んじゃ、効率よく回るために二手に分かれようぜ! 俺と美咲は木材・金具コーナー行くから、雨宮と瑠奈ちゃんは塗料とインテリア系頼むわ!」
「は? おい待て、なんでそのペアに……」
「じゃ、一時間後にフードコート集合な〜!」
言うが早いか、二人は脱兎のごとく走り去ってしまった。
残されたのは、俺と瑠奈。そして巨大なカートが一台。
制服姿の男女がカートを押す。完全に「放課後デート」の配置だ。
「……あいつら、絶対わざとだ」
「……サイテー。呪ってやる」
瑠奈は顔を赤くして悪態をついたが、しぶしぶ俺の隣を歩き始めた。
だが、インテリアコーナーに差し掛かった時、彼女の足が止まった。
「あ、これ可愛い。ウチのリビングに合いそう」
彼女が手に取ったのは、お洒落なクッションカバーだ。
「ダメだろ。遥さんが先週買ったばかりだぞ」
「えー、でもママのセンス微妙に子供っぽいじゃん? こっちの方がシックで良くない?」
「確かに。じゃあ、こっちのネイビーにするか? 今のソファの色に合うし、汚れも目立たない」
「あ、それイイ! 聖次にしてはナイスチョイス! あとさ、ついでに洗剤も見ていい? 柔軟剤切れそうだし」
俺たちは自然に盛り上がり、カートに商品を入れていく。
……ハッとした時には、すでに遅かった。
「……ねえ、見てあの高校生カップル」
「仲いいね〜。会話の内容が完全に『熟年夫婦』だけど」
すれ違う主婦たちのクスクス笑う声が聞こえてくる。
俺たちは顔を見合わせ、凍りついた。
制服姿の初々しいカップルかと思いきや、交わしている会話は「家のソファとの色合わせ」や「柔軟剤の詰め替え」について。
これではまるで、長年連れ添った夫婦が若作りしているだけみたいじゃないか。
「……ち、違うし! これクラスの出し物用だし!」
「そ、そうだぞ瑠奈! さっさとペンキ選ぶぞ!」
俺たちは慌てて塗料コーナーへ逃げ込んだ。
心臓がうるさい。
家族として暮らしすぎて、二人の距離感がバグっている。
なんとか買い物を終え、レジへ向かおうとしたその時だ。
「――あら。奇遇ですね」
背後から、聞き覚えのある、けれど絶対に聞きたくなかった冷徹な声が降ってきた。
ギギギ、と首を回す。
そこにいたのは、生徒会腕章をつけた制服姿の詩織さんと、大量の文具を抱えさせられている副会長の神崎だった。
「し、詩織さん……? なんでここに」
「生徒会の備品買い出しです。……で、あなたたちは?」
詩織さんの眼鏡が、俺と瑠奈、そしてカートの中身(なぜか紛れ込んだクッションとお揃いのマグカップ)をスキャンする。
「……デートですか? それとも、ままごと?」
「ち、違います! これはクラスの買い出しで、達也たちも一緒で……!」
「ふーん……」
詩織さんは冷ややかな笑みを浮かべたまま、一歩近づいてきた。
「……ずるいですね」
「え?」
「家でも一緒なのに、外でも制服デートなんて。……お父さんは、不良娘に甘すぎるんじゃないですか?」
小声で囁かれたその言葉には、明確な嫉妬が滲んでいた。
横で神崎が「あ、雨宮! 会長を困らせるなよ!」と的外れな威嚇をしてくるが、詩織さんの視線は俺だけをロックオンしている。
「……帰ったら、覚えていてくださいね。生徒会の仕事、手伝ってもらいますから」
そう言い残し、詩織さんは神崎を引き連れて去っていった。
遠くから、隠れて見ていた達也と美咲が「うわ〜、修羅場〜」と爆笑しながら戻ってくるのが見えた。
俺と瑠奈はへたり込んだ。
「……もうヤダ、この学校」
「……俺もだ」
偽装ダブルデートは、生徒会長という名の検問に引っかかり、俺の「家での残業」を確定させただけで終わったのだった。
(続く)




