第12章:祭りの後の尋問と、悪徳商人の顔
体育祭の熱狂から一夜明けた、放課後の教室。
俺、雨宮 聖次は、自席で四面楚歌の状態にあった。
逃げ場はない。
前方の席には、椅子を反転させてニヤニヤと笑う悪友・達也。
周囲には、聞き耳を立てるクラスメイトたちの気配。
「……おい、雨宮」
「……なんだよ」
達也が、時代劇に出てくる悪徳商人のような、あるいは獲物をいたぶる蛇のような、なんとも言えないネットリとした悪い顔を近づ
けてきた。
「いい加減、認めたらどうだ? ん〜?」
「な、何をだよ……」
俺が視線を逸らそうとすると、達也はさらに顔を近づけ、一音一音を区切って、その名前を口にした。
「た、ち、ば、な」
「ッ……!?」
「『家族』のお題で借り出されたんだろ? 幼馴染? 兄貴分? ……へえ〜、そういう設定で通すんだ?」
達也がヒヒヒ、と下品に笑う。
「無理があるだろ。あの時の瑠奈ちゃんの顔、見たか? あれはどう見ても『頼れる男に助けを求める乙女』の顔だったぜ?」
「だ、だから、あいつはテンパってただけで……」
「嘘つけ。美咲情報によると、瑠奈ちゃん今日も一日中、お前のこと見ながらため息ついてたらしいぞ」
俺は思わず、教室の反対側を見た。
そこでは、瑠奈が机に突っ伏し、親友の美咲に背中をバシバシ叩かれていた。
「もう認めちゃいなよ瑠奈〜! 『パパ』とか呼んでたんでしょ? 何それ新しいプレイ?」
「ち、違うし! あれはあだ名だし! ていうか美咲、声デカい!!」
瑠奈の顔は、茹でダコのように真っ赤だ。
俺と目が合う。
彼女は「ヒィッ!?」と肩を震わせ、バッと教科書で顔を隠してしまった。
(……あちゃあ……)
俺は天を仰いだ。
体育祭の緊急避難措置は、結果として「俺たちが特別な関係である」という噂を、事実として確定させてしまったようだ。
「で? いつから付き合ってんの?」
「付き合ってない」
「またまた〜。じゃあ、今度ダブルデートしようぜ? 俺と美咲、お前と橘で」
「断る。……あと達也、その顔を戻せ。夢に出る」
俺は達也の顔面を手で押し返し、カバンを掴んで席を立った。
これ以上ここにいたら、あることないこと(あながち間違いでもないが)自白させられそうだ。
***
逃げるように帰宅すると、リビングには静寂が広がっていた。
ダイニングテーブルには、参考書を広げた詩織さんが座っている。
「……おかえりなさい、聖次さん」
「ただいま戻りました、詩織さん」
詩織さんは参考書から目を離さず、ページをめくりながら淡々と言った。
「……学校、騒がしかったようですね」
「う……。耳に入ってましたか」
「副会長の神崎くんが、わざわざ報告に来ましたよ。『妹さんと雨宮くん、公認カップルになったそうですね。おめでとうございます』と」
詩織さんの指先が、参考書の端を少し強く握りしめる。
「……否定しておきましたけど。『ただの腐れ縁です』って」
「あ、ありがとうございます。助かります」
「……でも」
彼女はようやく顔を上げ、俺を見た。
その表情は怒っているようにも、拗ねているようにも見えた。
「……少し、羨ましかったです」
「え?」
「……公衆の面前で、堂々とあなたを『私の人』だって主張できて。……瑠奈は、ずるいです」
詩織さんはそう呟くと、再び視線を参考書に戻し、耳を赤く染めた。
「……ココア、お願いします。今日は甘めで」
「……はい。喜んで」
(続く)




