絞首台の主6
長い旅の果てに神オーディンはその賢者を見つけました。
大きな樹の下で座り、静かに目をつぶっています。
オーディンは彼に語りかけました。
「尊者よ、あなたの心は落ち着きを持ち知恵を持っておられる。さぞかし高貴な生まれの方なのでしょう。その血こそが知恵の証しなのですか?」
「旅人よ。」
賢者は目をつぶったまま答える。
「私が王族の生まれであることと、この心が落ち着きを得ている事には何ら関係がない。私が例え、僧侶であっても、庶民であっても、奴隷であっても同じである。その者の心が高貴であることと、その者の身分が高貴であることは何の関係もない。」
「失礼しました。太陽の末裔に再び問います。あなたは魔法の力をご存知ですか?火に水をかけるかの如く、苦しみを消し去る方法を?」
「苦しみに直面し、悩むことを恐れるあまり自分が知らないことを頼ってはならない。」
「私が求める第二の魔法をご存知ですか?医者になろうとするものが知るべき癒しの魔法です。」
「老い、身体の力が衰え、病を得る事を恐れるあまり自分が知らないことを頼ってはならない。」
「第三のものをご存知か?この身を害そうとする剣でも、槍でもそれはなまくらになり、何も傷つけることが出来なくなる。」
「死を恐れてはならない。誰でも最後には死に連れて行かれる。」
「あなたは解放の術を知っているか?たとえロープで縛られ、手には枷をはめられたとしても、この呪文を唱えるといましめはポンと外れ、縄がほどける。」
「自由を失うことを恐れてはならない。縛り付けられ、監禁されても心は平安を見出だせるのだ。」
「矢が、槍が飛んできても私は死なない。この目で睨んだものは止められぬほどに速くは飛ばぬ。」
「死を恐れるがあまり、学ぶべき事柄から目を背けてはならない。」
「魔法の仕掛けで私を害そうとするものは後悔することになる。その者に呪いの力が返るのだ。」
「他者から向けられる悪意を恐れてはならない。自分の意思を信じなければならない。」
「燃え上がる館から、私は脱出できるだろうか。火と煙の勢いを止めるあの魔法なしに?」
「旅人よ、生への執着と欲で、あなたの心は燃えているのだ。」
「魔女が自分の魂のみを切り取って、私に乗り移ろうとしている!今一度分断の術を行使し、彼女らの生霊を切り刻んでやる!」
「旅人よ、死を恐れるがあまり、そのことばかりを考えてはならない。人道は受けがたい。天道は尚のことである。あなたの一生を無駄にしてはならない。」
「海は荒れ、突風が、我が一生が乗る舟を振り動かす。奇跡を起こす一言を発して、凪を呼ぶことが出来るだろうか?」
「旅人よ、」
と賢者は目を開いて言いました。
「あなたの道は苦難に満ち、そして学ぶことが多い一生である。受けがたき一生を自らを灯火として他の物事を頼ることなく、一人で歩め。」
オーディンは言います。
「あなたも苦難の道を歩まれたのですね。苦痛と苦悩から、あなたは何を学びましたか。」
「何もなかった。行き過ぎた苦痛から、学ぶことなど何もないと分かった。だから私は帰ってきたよ。」
オーディンは、話をしてくれた賢者に対し無上の感謝の言葉を贈りました。
そして自らの考えを、人々に説いて回るよう懇願します。
賢者は何度も拒みました。
静かに消え行くことを望んでいたからです。
しかし熱心に神の中の神であるオーディンが頼むので、最後にはその願いを聞き入れました。
オーディンは緑の大地の国へと。
帰路を歩みながら次の冒険のことを考えるのでした。




