絞首台の主3
神々の主は深い虚空に根ざしている森の中にさまよい出ました。
神の中の神は冷たい印象を受ける下生えに見たことのない草や花を見つけました。
しかしオーディンがそれをよく見ようと近づいてみると途端に凡庸な、見慣れた草や花に変わるのです。
「最初の頃は驚きだった。」
とオーディンは言いました。
「青春の青い花よ。近づいてみれば全ては見知ったものだ。」
「みゃあ。」
木の陰から声がしました。
一匹の黒猫が、新鮮なチーズの様な色合いをした瞳を輝かせていました。
「こんにちは。黒猫さん。」
神々の王はそう言って小さな獣に近づきました。
さっと黒猫は身を翻して逃げます。
「何故逃げるのか?」
「だってボクから見たあなたはとても大きいんだもん。」
猫は答えました。
オーディンは、当たり前のことに気付いていなかったことに驚きました。
そして小さな生き物に更に尋ねました。
「大きいから小さくしているのかい? 離れればより小さく見えるね?」
黒猫は笑い、森の中の木の根を飛び越え、下生えをかいくぐって走っていきました。
オーディンはおぼつかない足取りですばしっこい獣の後を追いかけました。
やがて川のせせらぎの音が聞こえてきます。
旅人の守護者は、月光を浴びて銀色に輝く小川を見つけました。
小さな獣の2つの輝く眼が、向こう岸から彼を見つめていました。
「浅いな。渡れるぞ。」
オーディンは自分の長い髭を生やした顔を川に向け、マントを脱いで肩に掛けました。
そして一歩一歩慎重になりながら川を渡り始めました。
その時、
5つの頭を持つ怪物“窮奇”が風に乗ってやって来ました。
そして、オーディンを殺そうと襲いかかったのです。




