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『パパ』って誰?


 色々な意味で散らかりきっている小出の部屋にて、

白衣の老人の高笑いが響いている。

 焦点の合っていない目は見開いており、口から覗いた前歯も数本なくなっている。

 まさに、マッドサイエンティストのステレオタイプだ。


 すると……

 天から、なんとも形容し難い……キーキーキーという音が響いてきた。

 これ以上、どんな面倒臭い事件が起きるのだと、小出は目を回して倒れそうだったが、

 実際に天からやってきたのはそんな小出の想像の範疇外からの使者だった。


「あれは……」


 片腕を失った長田がつぶやくと、キーキーキーと高い周波数の音の発生源から……

 雲を突き破って大量の飛行体が現れたのであった。

 小出もソボロコフも、ただあんぐりと、阿呆みたいに空を見上げるしかなかった。


「マズイ……」


 突然動きが機敏になったのは、金歯のスーツ男だった。


「マズイマズイマズイマズイ……」


 スーツは、足元に散らばっている札束を、改めて回収している。


「オメーは何やってんだよ」


 ソボロコフが、屈んでいるスーツ男の背中を蹴り、スーツは情けない声を出して床に突っ伏した。


「痛い! やめて! マズイんだって!」


「オメー、やっぱり昨日のこと何か知ってるんだべ?」


「し……し……」


 『知らない』というと、ソボロコフからまた手をあげられると感じ、

スーツ男は口をつぐんだ。


「知ってる! 後でちゃんと説明するから! 今はほっといて!!」


「ああ!?」


 ソボロコフとスーツが揉み合っている間にも、飛行物体は小出のマンション頭上までやってきており、

 マンションを包囲せんとしていた。

 ……どことなく、コタツに突き刺さっているUFOに形が似ている。


「……どうなるんだ……俺達は……」


 長田が混乱していると、もうサイボーグの部分は残っていないはずの彼の体から、

ピコピコピコ……と、何か電子的な音が聞こえる。


 長田が隣に目をやると、また白衣の老人がリモコンを操作している。


「グフフフフフ。さあ、出番だぞ! ノース99号!!」


「なんだそれは!!」


「それはな、お前のことだノース99号!!」


 老人が、リモコンの起動ボタンらしきものを大袈裟に押すと、

長田の中の機械音が大きくなっていく。

 そして、体が変形していく。

 背中から二基のエンジンが生え、肩からは翼が展開した。

 そして、足の裏からも激しい煙を出し、長田の体は宙に浮いた!!


「おおお!?」


「行ってこいノース99号! 」


 そして白衣の老人がリモコンを操作すると、長田の体は天高く飛んでいった。


「長田ちゃん!?」


 小出の呼びかけも虚しく、長田は今や地上を離れ、そのままUFOの群れの中に飛んでいく……。


「ハハハハハハハ!!! みたか!! これこそ天蘭!!

 脱腸三角定規がうちなる小学七年生をバルベックの巨石にダイバーシティーするこそが!

 唯一の教団の救いなのだ!! 乗り遅れるな!! 大臀筋マイコプラズマ特急に! 耕せーーー!! ハハハーー!!」


 博士は、一通り発狂すると、部屋を飛び出して行った。


 取り残される三人。


「あーー……Aqui é Mother Goose 21. Temos uma emergência」


 気がつくと、スーツ男がスマホで誰かとしゃべっている。


「何電話してんだよ!」


 今日何度目かもわからない、ソボロコフからの蹴りを、

スーツ男は片腕で受け止めた。

 スーツ男は、何者かとの対話を続けた。


「Aqui é Mother Goose 21. Situação crítica. Os 'visitantes' perceberam e estão enviando tropas.

 Minha posição está cercada. Local: Edogawa, Tóquio.

 Desloquem as unidades de prontidão na área. Câmbio……」


「ああ!? 宇宙人語かそれ!」



 ソボロコフが足を受け止められたまま怒鳴ると、スーツは受け止めた足をそのままひねる。


「いーーてててて!! 離せ!!」


 スーツ男は言われた通り足を離す。


「てんめえこの野郎!!」

 

 ソボロコフがスーツにつかみかかろうとして、動きが止まった。

 スーツは、いつの間にか拳銃を構えている。そして、さらに内ポケットから、起爆スイッチを連想させるものを取り出した。


「ごめんね? 吹き飛びたくなかったら、じっとしてて?」


「て……俺がそんな脅しにビビるとでも」


 ソボロコフが、興奮すると、スーツは天井に向けて発砲した。


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!!」


 ソボロコフは今までの態度を一変させてスーツに土下座した。今までで一番俊敏な動きだった。

 そこからややあって、また空から、今度は小型機のジェット音が響いてきた。

 おそらくこのスーツ男が招集したのであろう。

 

 ドーーン!! と、既に交戦している音が響いている。

 スーツは一度空を眺めると、今度は小出に向けて……


「……君の家だろここ? ちょっと……シャワールーム覗いていいかな?」


 スーツ男は小出に言うと、小出はただ頷いた。


「どうも。君はー……ちょっとついてきてもらおうかな?」


 スーツはソボロコフに命じると……


「ハイ!! お供します!!」


 ソボロコフは従順に従った。

 スーツとソボロコフが部屋から出ていき、小出が部屋に残された。

 空は、既に戦争状態である。


「ん…… ……」


 すると、寝ていた女優、藤峰が起き上がった。


「あ、おはようございます……なんかごめんなさい。あいにくのお目覚めのようです」


 小出が言うと、藤峰は空をぼーっと眺めながら、さして驚くわけでもなく、


「パパ遅い!」

 

 と大声を出した。



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