表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/6

その人は誰?


 屋根が壊れて埃っぽい室内。シャワーの音と、数人分の寝息と、モーター音が響く部屋。

 三人の男が、羽毛布団のこたつで頭を抱えている。

 状況が改善されたとするなら、流石に二日酔いが覚めてきたところぐらいではないだろうか。

 ソボロコフは、さっきまで自分が枕にしていた出どころのわからない札束を、なんとなく壁に寄せて遠ざけていた。

 長田は、口をあんぐりとしながら、自分の右腕を見て、手をグーパーしている。


「おおいい……どうすんだこれどうすんだこれ」


「ああ……。(ウィィィン……)どうしようか(ウィン、ウィン、ウィン)」


 小出の両隣でわちゃわちゃしているが、言いたいことはつまり、「どうするんだ」である。

 

「うーーん……」


 小出の左隣で横になっている、有名女優らしい女性が、流石に目を覚ました。

 不機嫌そうに小さい体を持ち上げ、細い黒髪が顔の前でぱらついている。


 男三人の空気が固まった。


「ん……」


 まだ開ききってない目を擦りながら、むすっとしているが流石に三人に比べて『場慣れ』しているのか、

こんな状況でもいきなり取り乱してはいない。が……目の前の割れたこたつテーブルを見て……。


「サイアク……壊れてんじゃん」


 と漏らした。


「「「え……」」」


 小出、長田、ソボロコフは声を揃えてしまった。


「……藤峰さんの……コタツ……なのですか?」


 ソボロコフは、女優の名前を思い出して聞いてみた。


「…… …… ……誰?」


 女優はソボロコフの顔をみて、低い声で聞いてきた。

 完全に男三人はテンパっている。長田は咄嗟にサイボーグの腕を隠した。


 藤峰と呼ばれた女優は机に突っ伏し、UFOの羽を指で何回か叩くと、


「今何時?」


 と聞いた。


 男三人は弾けるように自らのスマートフォンを確認した。


「じ……10時っす!」


「朝の10時っす!」


 藤峰も二日酔いのようで、頭を抑えている。まだぼんやりしているのかもしれない。

 そして徐にこたつから立ち上がった。


「ちょっとシャワー借ります」


 そう言って藤峰はヨロヨロと部屋を出て行った。

 男三人は、背筋を伸ばして固まっている。


「……本物か?」


 ソボロコフが聞くと、


「……(ウィィィン)俺の腕と、お前の後の金と、このUFOと、どれのことだ?(ウィン?)」


「あの女の子だよ! あれ人気女優だろ!?」


 ウィィィィイン…… と、部屋に長田のアームの音が響いている。


「小出ちゃん……藤峰楓と知り合いなの?」


「え、知らない。俺紅白より第九派だし」


「(ウィン、ウィン)じゃあなんで、小出の部屋にいるんだ?

 有名女優が」


「知らないよ……お前らが呼んだんじゃないの?」


「ばか!! ……知り合いでも男しかいない鍋パに、声なんかかけられるかよ! 有名女優なんて」


「(ゥイイイイイン)じゃあ、そっちの(ゥインー)寝てる人は、マネージャーさんか?」


 機械の腕で長田は、一番端で寝ている中年男性を指差した。

 髭面で、趣味の悪いスーツを着ている。

 寝たら起きないタイプなのか、一番大きないびきをかいている。


「そうであってほしいけどよ……。こういう時、一緒につぶれちゃっていいのか? マネージャーって……」


 一番近い場所に座っているソボロコフが不安そうに答える。


「じゃあ……誰だよ(ウィィィィン……)」


「どうにも手詰まりだね」


 小出が『手詰まり』というと……


「お前、(ウィィィィン……)楽しそうだな?」


「え? そんなことないよ?」


 すると、リビングの扉が乱暴に開く。

 藤峰がTシャツ姿で入ってきた。

 いくらか目が覚めたようにみられる。



「ねえ……シャワールームのあれ、なに?」


 小出、長田、ソボロコフは顔を合わせて、一様に部屋を出て行った。


 ……


 ……


 ……


 ややあって、


「なんだあれーーーー!!」


 ソボロコフがリビングに入ってきて、混乱と絶望感から壁に頭を打ち付けた。

 残りの三人もリビングに入ってくるが表情が固く、信じられないと言ったふうな目で、シャワールームの方を見ている。


「お前……小出お前よ!! ここペット可なのかよ!」


「可じゃねえよ……」


「(ウィィィン……)信じられんな……。鹿と、熊とは」


「正確にいうと、エゾシカとツキノワグマな」


「(ゥイン!!)そうじゃなくて! (ゥインウィン!!)なんでお前の風呂場でエゾシカとツキノワグマがシャワーを浴びてるんだ!?」


「わかんねえよお……お前らが連れてきたんじゃないのか?」


「お前は俺らを、そんな楽しいやつだと思ってたのか?」


 そこに、藤峰の咳払いが聞こえて、男三人は黙る。


 ソボロコフが頭を掻く。


「あ……なんか……スンマセン。その……コタツと、シャワー?」


「いいです。(ため息)家で浴びますから」


「あ……うす」


 藤峰はスマホを操作して、メールを送信すると、またその場に横になった。


「「「え」」」


「パパに迎えにきてもらうので。しばらくここで寝かせてもらっていいですか?」


 と、寝た後で言う。


 男三人は顔を合わせた。


 所在なく、なんとなくコタツに戻る三人。その温もりだけが、安心できる要素に思えた。


 しばしの沈黙の後……


「うお!?!? なんだこりゃあ!!」


 と、聞き覚えのない男の声が響いた。


 三人が視線を向けると、いつの間にかいびきをかいて寝ていた、スーツの中年男性が起きている。


「……あ、失礼」


「「「…… ……いえ」」」


 すると中年男性は、ハッハッハと笑って見せた。前歯が派手派手な金歯だった。


 小出、長田、ソボロコフは、男を見て(誰ーーー? )と思っていた。


 男は、そんな三人を見て、こう言った……。


「いやあ、昨日は楽しかったね!!」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ