5話 ゴーレムとの戦闘後
「くそっ……まだ立ち上がってくる!」
智也の叫びが空気を裂く。岩石ゴーレム──残された最後の一体が、膝をついたまま重い拳を再び振り上げる。倒したはずの仲間たちの残骸を踏みしめ、冒険者たちへと迫っていた。
「……時間を、稼がないと!」
智也は火精霊を再召喚。ふらつく足元を踏みとどめながら、赤熱の火球を放った。火球はゴーレムの肩を焼き焦がすが、その巨体を止めるには至らない。
「魔法の効きが……薄い!?」
「もう、やるしかねぇだろッ!」
血まみれの光貴が咆哮する。全身に【自己強化】を重ね掛けし、限界を超えて加速する筋肉を総動員しながら駆ける。拳を固め、振り抜いた。
「潰れろッ……潰れてくれッッ!!」
鋼のような拳が、ゴーレムの胸部に叩きつけられる。鈍く低い音とともに亀裂が走り、岩の表面が崩れ落ちる。だがゴーレムはまだ止まらない。反撃の拳が光貴の腹を穿つ。
「ぐあああっ……!」
吹き飛ばされ、壁に激突する光貴。だが、その衝撃でさらにゴーレムの内部にあったコアが露出した。
「そこだ──!」
美月がスキル【時限爆破】を発動、露出したコアに爆破の印を刻み込む。
「っ、爆ぜろ!」
轟音が響き、コアごと胸部が砕け散った。
ゴーレムの動きが止まり、重力に逆らえず崩れ落ちる。その衝撃で床が震え、埃が舞う。
静寂──
「……終わったの、か?」
遥が震える声で呟く。血と汗にまみれ、全員が限界寸前だった。
「……勝った、んだよ、智也……!」
光貴がうつ伏せのまま微笑む。
《戦闘終了──報酬を付与します》
《全員のレベルが上昇しました》
【梶原 光貴】Lv:3 → 7
体力:42 → 82/魔力:11 → 22
攻撃力:27 → 53/防御力:18 → 36
【榊原 智也】Lv:2 → 4
体力:18 → 36/魔力:39 → 78
攻撃力:8 → 16/防御力:10 → 20
【如月 美月】Lv:5 → 6
体力:30 → 60/魔力:66 → 132
攻撃力:14 → 28/防御力:12 → 24
【野中 涼】Lv:3 → 5
体力:34 → 68/魔力:8 → 16
攻撃力:22 → 44/防御力:16 → 32
【結城 遥】Lv:4 → 6
体力:22 → 44/魔力:52 → 104
攻撃力:10 → 20/防御力:10 → 20
「これが……生き延びた代償かよ……」
智也が肩で息をしながら、浮かぶウィンドウを睨みつけた。
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第六階層:白き群狼の夜
「……寒い」
吐き出した息が白く凍り、智也の声すらも空気に溶けそうになる。第六階層──そこは一面、雪と氷に覆われた極寒の世界だった。
「体感、マイナス十度以下……霧も濃くて、視界が悪すぎる」
美月が魔力で霧を調べながら呟く。足元はガラスのように滑る氷面、風は鋭利な刃のように肌を裂いた。
そんな中、不意に──氷の霧の向こうから、足音が響いた。
「来る……!」
遥の声と同時に、五体の白銀の影が現れる。ホワイトウルフ。真紅の目に鋭い牙、毛皮から立ちのぼる冷気は視界すら凍らせる。
【ホワイトウルフ】
体力:70/攻撃力:55/防御力:42/魔力:35
スキル:【連携】【俊敏】【咆哮】【寒気耐性】
「……なんだ、このプレッシャー……ゴーレム並み……いや、それ以上か……!?」
光貴の背筋に氷の芯が走る。彼らの強さは、あの岩石ゴーレムに匹敵する。だが、動きはこちらの数倍速い。
ゴーレムとの戦闘で疲弊している5人にとって脅威となる存在。ゴーレムより早いホワイトウルフが群れとして襲う。
「……散開ッ! 囲まれるな!」
智也の叫びを皮切りに、冒険者たちは各々のポジションを取る。しかし──
「速すぎッ!」
咆哮と共に一斉に跳躍するウルフたち。三体が前衛に、残る二体が側面へ回り込む。
「くっ……美月、右ッ!」
涼が叫ぶが、すでに美月の背後には一体のウルフが──
「くっそ!」
光貴が飛び込んで庇う。牙が肩を食いちぎり、血が吹き出した。
「光貴ッ!」
「いいから……動けっ!」
光貴は痛みに歯を食いしばりつつ、片腕で狼の体を押し返す。その間に、美月がスキル【念動】でウルフの動きを封じた。
「智也、今よ!」
「応ッ!」
炎精霊を召喚し、智也が火球を発射。炸裂した炎がウルフの毛皮を焼き払うが、それでも動きを止めない。咆哮と共に二体目が突撃してくる。
「耐えろ……!」
遥の【幻影生成】が時間を稼ぎ、涼が短剣を逆手に持って突進する。
「ッ、もらった……!」
だが、ウルフは寸前で身を捻り、反撃の爪が涼の腹を裂く。
「ぐっ……!」
血が飛び散る。涼は転がりながらも、地面に落ちた雪を掴むように踏ん張った。
「こんな連中……ただの六階層モンスターの強さじゃない……!」
「俺たちが弱いわけじゃない……けど、こいつらは“何か”が違う」
息を切らしながら、美月が呟く。
氷の霧の中、戦いは泥沼となった。五体のホワイトウルフは互いに連携し、まるで知性を持っているかのように動く。単独では到底太刀打ちできない──だが、だからこそ連携が必要だった。
「智也、援護して!」
「火球、いっけぇええ!!」
炎が狼の進路を遮り、涼が短剣で斬りつけ、美月が【強制拘束】を発動。1体目、2体目をなんとか撃破。
だが残り3体、彼らも戦いのダメージで瀕死だった。
「はぁっ……くそっ……足が……!」
光貴の足元がふらつく。体力は限界を超えていた。だが、倒れるわけにはいかない。
「行ける……まだ……!」
遥が幻影を囮にし、ウルフの動きを撹乱。その隙に、美月が回復魔法を唱えた。
「頼むから……間に合って……!」
最後の一体が、倒れた涼に跳びかかろうとした──その瞬間、光貴の拳がその顎を打ち砕いた。
「終わった……のか……?」
誰からともなく、そう呟いた。
《戦闘終了──経験値加算》
《全員のレベルが上昇しました》
【梶原 光貴】Lv:7 → 10
体力:82 → 115/魔力:22 → 30
攻撃力:53 → 74/防御力:36 → 50
【榊原 智也】Lv:4 → 6
体力:36 → 50/魔力:78 → 110
攻撃力:16 → 22/防御力:20 → 28
【如月 美月】Lv:6 → 8
体力:60 → 84/魔力:132 → 180
攻撃力:28 → 38/防御力:24 → 34
【野中 涼】Lv:5 → 7
体力:68 → 90/魔力:16 → 22
攻撃力:44 → 60/防御力:32 → 46
【結城 遥】Lv:6 → 8
体力:44 → 62/魔力:104 → 140
攻撃力:20 → 28/防御力:20 → 30
「……レベルがまた、ステータスが倍近く上がってる……」
智也の声は震えていた。達成感ではなく、“恐怖”の混じった震えだった。
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凍れる洞窟:静寂の安堵
戦いの後、彼らは第六階層の奥に存在する、氷の洞窟にたどり着いた。ここだけは魔物の気配がなく、かすかにだが保護結界のような力が感じられた。
「ここなら、休めそう……」
全員が座り込み、無言で体を寄せた。焚き火の炎がわずかに照らす中、ようやく“生きている”という実感が胸を満たしていく。
傷を癒すために回復魔法を使用する。完全に癒すことは不可能だが動いても支障しない程度には回復することができる。回復魔法は冒険者にとって大事な魔法。
「……俺たち、よく死ななかったな」
涼が呟く。その声は驚きというより、自嘲に近かった。
「スライム、ゴブリン、ゴーレム……それに今のウルフ。全部が全部、普通のダンジョンの敵じゃない」
美月が、懐から地図を取り出す。だがその地図には、第六階層以降の情報は何もなかった。
「政府の資料じゃ、この新宿ダンジョンはCランク表記。でも、今のホワイトウルフ、少なくともEランク以上。ゴーレムはD寄り。私たちの成長速度も、異常よ」
本来、レベルアップというのは1日で上がるようなものではない。レベルアップするのに魔物を倒す回数は大きく増えていく。
しかし、今回潜っている迷宮は一体の魔物付き、経験値が多い。他の迷宮とは比べ物にならないほどに魔物一体に付き、経験値が豊富。
「……このダンジョン、明らかに異世界側と“繋がってる”」
遥の声が、静かに響く。
「スキルも、ステータスも、成長の仕方も……全部、ゲームとかファンタジーに近い。現実じゃない……でも、確かにここにある」
「政府も、この迷宮の真実を掴んでいない可能性があるな。公式のデータと食い違いすぎる」
智也がノートを開いた。
「これまでのフロア構造、魔物、戦闘記録は全部書いてある。生きて帰れたら、組合に提出しよう」
「生きて……帰れれば、だけどな」
光貴が笑いながら言うと、皆も小さく笑った。その笑みは重く、それでも温かかった。
「……でもな、なんか思うんだ。これだけ死線を越えたのに、俺たち、まだ“生きてる”んだよ」
焚き火の火が、ひときわ高く揺らいだ。
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再出発──第七階層へ
休息を終えた五人は、再び立ち上がった。氷の階段が、薄く青白い光を放ちながらその先へと続いていた。
「今の動き、悪くなかった」
「俺も傷は浅い。行ける」
光貴の言葉に、皆がうなずく。
「──行こう」
その先に何が待つのかは分からない。それでも、彼らは進む。
ダンジョンの主──黒崎 四が待つ、次なる戦場へ。
──続く。
次回の話は21時半に投稿します!
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