4話 侵入者ー日本からの来訪者たち
都内、深夜二時──
新宿の裏通り。ビルの谷間にひっそりと佇む、古びた雑居ビル。その地下奥深くに、“異世界へ繋がる扉”が存在するという都市伝説が囁かれていた。
最初は誰も信じなかった。SNSに流れる粗い画像、曖昧な目撃情報──それらは虚構に思えた。しかし10年前、現実は幻想を凌駕する。
世界各地に突如出現した“迷宮”。
理不尽な空間と魔物が満ちる異界の構造体は、物理法則すら歪め、世界の常識を変えた。
迷宮に適応するため、人類は新たな職業──「冒険者」を生んだ。
政府や企業も調査に乗り出し、迷宮は経済、軍事、宗教にすら影響を及ぼし始める。
そして今、新宿地下で発見された“黒い扉”が再び人々の運命を狂わせようとしていた。
その扉へと向かう影が五つ──
「……マジでこんなとこに扉あんのかよ」
梶原光貴、17歳。喧嘩早く、無鉄砲。高校を中退し、街をふらついていた不良気質の少年だ。
「信じるも信じないも、ここまで来た時点で君もオカルト好き認定だろ」
スマホ片手に笑うのは榊原智也、21歳。やや肥満体でメガネをかけた、根っからのゲーマーかつネット探偵。
画面には、黒い金属のような質感を持つ異様な扉の写真が映っている。
「これ、俺が撮った。位置もピンポイントでGPSログに残してある。……間違いなく、このビルの地下に“扉”はある」
その背後に立つのは、無口な少女。如月美月、18歳。学業優秀、表面上は完璧な優等生だが、どこか人と距離を置く冷たい眼差しが印象的だ。
残る二人は──
「うお、マジでここから入るのか。これ、異世界転生じゃなくて異世界侵入じゃん!」
叫ぶのは野中涼、19歳。バイトを転々とするフリーターで、好奇心旺盛。
そして隣には、黙ったまま付いてくる女子大生・結城遥、20歳。文芸サークル所属、オカルトとファンタジーに目がない文学少女。
五人は無言のまま地下へと進み、雑居ビルの最深部で立ち止まる。
「……これだ」
美月が低く呟いた瞬間、壁が波打つように揺れ、黒光りする異界の扉が出現する。
《ダンジョンへのアクセスを確認中》
《接続条件:クリア済み》
《招待完了──ようこそ、“竜の迷宮”へ》
その言葉とともに、彼ら五人は光に包まれ、異世界へと吸い込まれていった。
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第一階層:暗き洞窟と最初の血
「……う、うあっ……!」
光貴が呻きながら目を覚ます。周囲は暗い。鉱石が淡く光る、岩壁に囲まれた洞窟だ。湿った空気が肌にまとわりつき、不快感が全身を包む。
「っ……ゲームのUI?」
智也が目の前に浮かぶ半透明の画面を見てつぶやいた。
【梶原 光貴】種族:人間(適応者)/Lv:3
体力:42/魔力:11/攻撃力:27/防御力:18
スキル:【武器術】【戦闘本能】【自己強化】
【榊原 智也】種族:人間(観察者)/Lv:2
体力:18/魔力:39/攻撃力:8/防御力:10
スキル:【解析】【召喚術・初級】【魔力感知】
【如月 美月】種族:人間(異能者)/Lv:5
体力:30/魔力:66/攻撃力:14/防御力:12
スキル:【念動】【強制拘束】【時限爆破】
【野中 涼】種族:人間(軽戦士)/Lv:3
体力:34/魔力:8/攻撃力:22/防御力:16
スキル:【短剣術】【反応強化】【回避術】
【結城 遥】種族:人間(術士)/Lv:4
体力:22/魔力:52/攻撃力:10/防御力:10
スキル:【詠唱術】【精神干渉】【幻影生成】
「……くるよ!」
美月の声と共に、通路奥からスライムとゴブリンの群れが現れた。
光貴は本能的に突っ込む。スキル【自己強化】で筋力を上げ、素手のままゴブリンの顔面を砕く。だが、異様な硬さに拳が痺れる。
「ぬるくねぇな……!」
涼は二刀の短剣でスライムを切り裂き、回避術で攻撃を軽やかにかわす。遥は【幻影生成】で敵を攪乱し、美月が【念動】でゴブリンの武器を空中に浮かせて弾き飛ばす。
智也が後方から【召喚術】で火精霊を呼び出し、火球を敵に浴びせる。
「ひぃ……っ、マジでゲームじゃねぇ……これ、死ぬやつ……!」
遥が震える中、光貴の目に強烈な覚悟が宿る。
「だからこそ、死なねぇ! 全員、生きて帰るぞ!」
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第二〜第四階層:飢え、罠、恐怖
第二階層は霧に包まれた湿地帯だった。視界が狭く、動くものの気配が濃い。
「……踏んだら終わるぞ。罠だ」
涼が草むらの地雷を見破り、慎重に進む。だが待ち伏せていた猛獣型の魔物に結城が襲われ、腕を裂かれた。
「はるか!」
光貴が跳びかかり、敵を殴り飛ばす。血が止まらず、焦る智也が必死に【解析】で回復法を探す。
第三階層では、洞窟の迷路に閉じ込められ、精神的に追い詰められた。
「……もう、ダメかも……」
遥が膝をついた瞬間、美月が彼女の手を握る。
「あなたは生きる。それでいい」
美月の冷静な声に、全員の士気が戻る。
第四階層は崩れかけの神殿。天井から落ちる瓦礫、襲いくる石像の罠。
「この階層……出血が止まらない。ヤバいな」
智也が呟く中、皆の身体は限界に近づいていた。
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第五階層:ゴーレムとの死闘
【岩石ゴーレム】
体力:20/攻撃力:25/防御力:35/魔力:11/運:12
スキル:【防御壁】
ゴーレム2体現れる。
それは理不尽な敵だった。
石の巨体、圧倒的な硬さ、そして人間を殺す意志。
光貴の拳が岩に弾かれる。美月が【強制拘束】で一体を止めるが、もう一体が突進してくる。
「ぐあっ……!」
涼が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「死ぬかもしれねぇ……それでも……!」
光貴は叫ぶ。
「俺は生きる! ここで終わってたまるかッ!」
全員が限界を超えて力を振り絞る。遥が詠唱を短縮し、智也の火精霊がコア部分を焦がし、美月が石の動きを封じる。
そして──ついに一体が崩れ落ちた。
「……あと、一体……!」
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迷宮の主、黒崎 四
「──やるじゃん、マジで」
迷宮の最奥、巨大な竜の玉座に座る赤ん坊の姿。それがこの迷宮の支配者──黒崎 四。
彼は元・高校生。事故死して異世界に転生し、気づけばグレーター・ドラゴンの赤子となり、迷宮の主として覚醒した。
「まぁ、レベル的に無理ゲーだけど……連携で突破するとはな」
呟く声は若者らしく、ややだるそう。
それでも、目は鋭く、冷静に侵入者の戦いぶりを見つめていた。
「にしても……なんか、こう、感情揺れるよな。あいつら……まだ人間だし」
寂しげに笑い、小さな指を鳴らす。
《第十階層、解放条件確認──》
《次なる守護者:ホワイトベア×3、戦闘準備中》
「さあ、俺の迷宮で生き残れるか? かかってこいよ、日本人冒険者ども──」
続く
次の話は明日の7時半に投稿します!
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