3話 1週間後の成果
白い空間に出てきてから、もう一週間近くが経った――ような気がする。
……まあ、正確な日数なんて分かりようがない。ここには時計もなければ、朝も夜も存在しない。空の色が変わるわけでもなく、太陽らしきものがぼんやりと草原のようなエリアを照らしているだけだ。時間の流れがあるのかさえ怪しい。体内時計が狂うってよく言うけど、今の俺なら実感として頷ける。頭の中がふわふわして、眠いのか疲れてるのか、それすら判別できない。
そんな“空白の時間”の中で、俺がやっていたのは――ひたすら、ガチャ。
もうね、自分でも驚くくらい回しまくった。何回、何十回と回したのか正確な数字は覚えてないけど、初日だけで数百回は余裕だった。それを一週間近く続けてたんだから……まあ、軽く四桁は超えてる。回した回数に制限が50回までなのが大変だったがガチャに必要はスキルポイントが尽きる気配はない。無限にあるっぽい。ありがたいやら、地獄やら。
でも、正直に言う。結果は微妙。
レアなスキルやモンスターも確かに出てるけど、大当たりとは言い難い。明らかに“ハズレ枠”のゴブリンとかスライムがめちゃくちゃ出てくるあたり、俺の運のなさは健在らしい。前世でもソシャゲのガチャでSSR引けなくて泣いてたもんなぁ……。
さて、そんな俺の現状を整理しておこう。姿は相変わらず、赤ん坊。ハイハイすら怪しい乳児サイズ。ただし、中身は違う。
俺は上位竜種として転生した存在。そして、現時点でのステータスはこうなっている。
名前: 黒崎 四
年齢: 0(中身は高校生)
種族: 上位竜種
称号: 魔王/竜の魔王/上位竜種/ダンジョンの支配者
レベル: 1
体力: 12
魔力: 14
攻撃力: 6
防御力: 4
運: 9
スキル:【魔法】炎魔法、風魔法、水魔法、雷魔法、土魔法、闇魔法
【スキル】俊足、転移、残像、影移動、竜化、竜人化、音速移動、竜眼、時止め、成長促進
スキルポイント: 0
服装: 竜鱗の服、魔導の靴
アクセサリー: 魔力障壁の指輪、斬撃の指輪
うん、スキルのラインナップだけ見たら、チート。間違いなくバランスブレイカー。
でも、問題は数値。体力12、攻撃力6って……中学生の腕相撲レベルじゃないか? これで魔王とか笑わせんなって話だ。
ステータスの低さは、まあ、赤ん坊ってことにしておこう。いずれレベルが上がればきっと……いや、きっと……!
それはさておき、俺の拠点――つまりこの“ダンジョン”の話をしよう。
当初は小ぢんまりとした5階層だけの空間だった。それが今では、俺の努力とガチャの成果で、40階層まで拡張されている。俺、がんばった。ほんとに。ずっと寝ずに作業してたわけじゃないけど、赤ん坊の体でできる範囲でめちゃくちゃ頑張ったんだ。
体と結果が釣り合っていないが世の中、そんな釣り合うようなことはない。ってなわけで赤ちゃんの肉体でかなり頑張ったってわけさ。
それと魔物の数も増えた。現在、1000体超え。そのうちの三割はゴブリンとスライムで構成されている。もはや定番の雑魚枠。とはいえ、俺はそのゴブリンたちに鉄製の武具を与えて、立派な戦力として育成中。スライム? あいつらは放置中。装備もできないし、意外と役に立たないんだよね……。
その他には――
ゴーレム、ホワイトウルフ、ポイズンスネイク、ホワイトベア、ツリーフォーク、ストーンガーディアン……などなど、30種類以上の魔物を召喚済み。それぞれの魔物は、適切な階層に配置してある。
ようやくダンジョンらしい防衛陣が整ってきた、ってところだ。
……とはいえ、俺自身はまだレベル1。まともに戦えば、まず間違いなく冒険者に殺される。最悪、ゴブリンにも負けるかもしれない。だって攻撃力6だぞ? 6て。
「……まあ、なんとかなるっしょ」
強がりじゃない。本気でそう思ってる。いや、そう思い込もうとしてるだけかもしれないけど……でも、この世界は俺が作った“城”だ。簡単にやられてたまるかっての。
さて、各階層には5階ごとにボスを配置してある。代表的なやつを紹介しておこう。
■5階層:ゴーレム(2体)
体力:20/攻撃力:25/防御力:35/魔力:11/運:12
スキル:防御壁
物理防御がめっちゃ高い。俺よりはるかに硬い。というか、素で俺より強い。魔法が封じられたら完封される自信ある。
■10階層:ホワイトベア(3体)
体力:105/攻撃力:86/防御力:74/魔力:61/運:52
魔法:炎魔法、氷魔法
スキル:切り裂き
……これ、レベル1って本当? 俺の10倍以上の数値なんだけど? ガチャの悪意を感じる。
■15階層:ストーンガーディアン(2体)
体力:258/攻撃力:156/防御力:124/魔力:281/運:86
魔法:土魔法
スキル:なし
圧倒的な壁。なんかもう「どこにこんなバランス取れたやつ隠してたんだよ」って感じ。こいつらだけで防衛戦できそう。
■20階層:死の聖騎士(2体)
体力:402/攻撃力:510/防御力:412/魔力:618/運:154
魔法:闇魔法、死魔法、召喚魔法
スキル:騎士道、属性反射、属性反転、腐敗人間支配、忠誠心
笑うしかない。なんだよこのステータス。ラスボスか? っていうか、俺の50倍以上とかおかしいだろ。
「全くお前ら、チートすぎるだろ……」
ダンジョン最深部で、《デス・パラディアン》の巨体を見上げながら、俺は現実逃避気味に独り言を呟いた。
「ってことは、30階層や35階層のやつら……もっと強いってことだよな……」
ガチャの深淵、恐るべし。
でもまあ、こいつらは“俺の”仲間。防衛戦力だ。頼りにしてるぞ。
そして――ついにその時が来た。
40階層、最奥。中央の祭壇に立ち、俺は手を掲げる。空間がきしみ、螺旋状に灰色の光が広がっていく。そして――“それ”は現れた。
黒く歪んだゲート。ダンジョンと外界を繋ぐ門。
「これで……つながった、のか」
このゲートは一方通行。外界からの侵入だけが許されている。俺の意思でのみ開閉可能。完璧じゃないが、今の俺にできる最善のセキュリティだ。
「さあ、誰が来る? 勇者か? 冒険者か? それとも、ただの好奇心か?」
わからない。だけど、来る者すべてが“敵”だ。
そして、俺にとっては“最初の戦場”だ。
「ようこそ――《竜の迷宮》へ」
その瞬間、脳内に電子音のようなノイズが走った。
《外界との接続が完了しました》
《侵入者を検知。ダンジョンへのアクセスを開始します》
「……って、早すぎない!?」
準備どころか、罠の確認も途中だし、ボスの配置も仮状態。マジで来るの!? 今!?
「おい、ちょ、マジかよ……!」
心臓が跳ねる。赤ん坊の体だけど、気持ちは完全に高校生。心の中で叫びながら、俺は必死にステータスを確認した。
まだレベル1。装備も初期。身体能力も赤ん坊レベル。
だけど――逃げない。
「……笑いたきゃ笑えよ。こっちは、本気だ」
これは、俺のダンジョン。俺の命を懸けた、戦場。
そして、俺の“物語”の――第一幕だ。
次回の話は21時半に投稿します!
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