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26話 魔王会談

【竜の迷宮/地下深くにて】


「……最近、暇だな〜。地上って、今どうなってんのかな?」


俺――黒崎四は、ダンジョンの主でありながら、見た目は赤ん坊。けど、中身は元・高校生。だからこうやって、ぼやくこともある。

膝の上にアイスを乗せて、ぺろぺろ舐めながら、天井を見上げてため息をついた。


「冒険者って職業があるんだし、他にもダンジョンはあるんだろうなとは思う。でも……今、外がどうなってるか、さっぱり分からない」


西暦何年なのか。日本は今、どうなっているのか。地上の文明は? 社会は?

考えれば考えるほど、情報不足を痛感する。知りたい。でも、知る術がない。


「……この姿じゃ、出歩いたら即・保護案件だしなあ」


誰が見たって、言葉を話す赤ん坊なんて異常だし、迷子扱いされて、どっかに保護されて終わり。

まったく、転生特典ってやつも、もうちょっと考えてくれればいいのに。


「地上ですか?」


隣で座っていたハイ・エルフのユリが、俺の言葉に耳を傾ける。


「うん。もう何ヶ月も地上出てないからさ、外のニュースとか知りたいなって思って。ま、この姿じゃ外出ても保護ルートしか見えないし、出られないんだけどさ」


「そうですね……それは、確かに……」


ユリは少し困ったように笑って、俺の膝のアイスを見つめる。


「ところで、魔王様。アイスばかり食べていると、お腹を壊しますよ?」


「竜がアイスで腹壊すかよ。っていうか、俺の中身は高校生なんだからアイスくらい食わせろよ〜」


「ですが見た目は……」


「赤ちゃんだけどな。ほんと、俺の人生どこで間違ったんだか……」


アイスをひとくち。冷たくて甘い味が口の中に広がる。

ダンジョンでこんな贅沢できるのは、支配者だからこそ――だけど、何だろう、この物足りなさ。


(地上、か……早く出たいな。アイスを食べながら、コンビニの前とかでだらっとしたい)


そんなことを考えながら、アイスの棒を舐めていると――


「ん?」


突然、空気が震えた。魔力の波。気配が一瞬で濃くなった。


「……誰だ?」


俺がそう呟くよりも早く、ユリが俺を抱き上げる。優しく、けれど本気で守るように。


「魔王様、お下がりください!」


「ちょ、ちょっと!抱きしめるなって!むぎゅってすんな、アイス落ちるってば!」


「申し訳ありませんが、守るのが第一です!」


真剣な顔のユリが、俺を抱えて後退する。

すると、空間が歪み、淡い光と共にゲートが開いた。


現れたのは――色白の、落ち着いた印象の女性。だが、その身体から放たれる気配は魔物そのもの。


「初めまして。私は“悪魔の迷宮”――新宿のダンジョンに仕える者。サキュバスの魔王《榛名佑月》様の配下にして、八十階層のボスを任されております、“東”と申します」


「……え、サキュバスの魔王? ってことは、他のダンジョンにも“魔王”がいるのか?」


「はい。あなた様――《竜の迷宮》の魔王、黒崎四様に、魔王会談へのご招待をお伝えしに参りました」


「魔王会談……?」


俺、ついさっきまでアイス食ってたんだけど?

状況の変化が激しすぎる。でも、こういう非日常こそ“魔王”って立場なんだろう。


「……俺に、会談の“資格”があるってことか」


アイスの棒を口から抜いて、ぽつりと呟いた。


(どうやら……俺のダンジョン、無視できないレベルまで来たってことか)



【魔王会談 会場】


黒曜石のように磨かれた大円卓。その周囲に、4人の“魔王”が集っていた。


「さて……今回の議題、分かるわよね?」

艶やかな声。露出の激しい黒ドレスに、艶やかなツノを持つ女性が、艶然と笑う。


「“渋谷”……第五の迷宮の誕生について、だろう?」

応じたのは、眼帯をつけた長身の男。着崩したジャケット、無精ひげ、なのにどこか凛とした存在感。


「最近話題になってるじゃないか。生まれて間もない迷宮で、Aランク冒険者10人が《死の聖騎士》に壊滅させられたって。あんなの、俺たちクラスでも無視できる話じゃない」


「……確かに」

低く呟くのは、仮面を被った男。黒のローブに身を包み、静かに頷く。


「プロの冒険者が油断して負けた、とは思えない」

彼の言葉には感情がない。でも、だからこそ“重み”があった。


「私はね〜、どんな子なのか、すっごく気になってるの」

吸血鬼のような服装をした少女が、くるくると髪を指に巻きながら微笑む。


「まだ若くて、新しい迷宮の魔王。ふふっ、可愛い子だったら嬉しいな〜」


悪魔の女性――榛名佑月が微笑みながら、提案する。


「我々の議会に、“渋谷・竜の迷宮”の魔王を招待すること。議決に移りましょう。賛成か反対か、過半数で決まります」


「……俺は賛成」

仮面の男が静かに言う。


「俺も。今のうちに顔くらいは見ておきたい」

眼帯の男も頷く。


「私も賛成〜。興味津々よ♪」


「満場一致、ね。決まり」


榛名佑月は妖艶な笑みを浮かべ、傍らに控えていた部下に命じた。


「“竜の迷宮”の魔王を、こちらに連れてきてちょうだい」



【竜の迷宮・再び】


「……ってわけで、俺、呼ばれたらしい」


その場にいたユリに報告しながら、俺はまだ残っていたアイスをぺろりと舐める。


「魔王の会談に出席……これは、とても重要な話ですね」


「うん。まさか、こんなに早く注目されるとは思ってなかったけど。ま、行くしかないか」


俺はアイスの棒を舌で弄りながら、ゲートに視線を向けた。


(魔王としての“自覚”を、試される時が来たんだ)


それとアイスゆっくり食べたかったな〜って思っているのもあるがそれは嘘ではない。

次回の投稿は明日の21時半にします

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