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25話 赤ちゃんの姿のままは嫌だね、ふん。by黒崎四


Aランク冒険者たちが《死の聖騎士(デス・パラディアン)――静と紫苑――に敗れてから、もう一ヶ月が過ぎた。


彼らの戦いの記録は、冒険者ギルドを通じてあっという間に広まり、今やこの《竜の迷宮》は公式に“危険迷宮”と認定されている。


それでも、挑みに来るやつは後を絶たない。


……つまり、リスクを承知で来るってことは、それ以上の価値があるって思ってるわけだ。


経験値、希少アイテム、高レベル魔物――。命を懸けるだけの見返りが、ここにはある。

そう判断した者たちが、この迷宮に足を踏み入れていく。


冒険者ってのは、結局、そういう連中なんだ。



【黒崎 くろさき・あづま

種族:上位竜種グレーター・ドラゴン

称号:魔王/竜の魔王/ダンジョンの支配者

レベル:40

体力:3450/魔力:4120

攻撃力:2581/防御力:2136/運:1012

スキル:炎・風・水・雷・土・闇魔法/俊足/転移/残像/影移動/竜化/竜人化/音速移動/竜眼/時止め/成長促進

装備:竜鱗の服/魔導の靴

アクセサリー:魔力障壁の指輪/斬撃の指輪

スキルポイント:5600



ステータスは、我ながら悪くない。むしろ、順調すぎるほど上がってる。

でも……そのぶんスキルの方が伸び悩んでるのが気になる。

ドロップ率が悪すぎるんだよな、スキルも魔法もろくに出やしない。運が悪いのか、それとも単にそういう仕様なのか。


まあ、それでも、強くなったって実感はある。何より、ダンジョンの規模を大幅に拡張できたのが大きい。


現在の《竜の迷宮》は、最大60階層。

五階層ごとにボスを設置し、それぞれに固有のテーマや構造も追加した。文字通り、ダンジョンらしいダンジョンってやつだ。


「まあ、こんなもんかな――」


◆ボス配置(現在)

・5階層 :ゴーレム(Lv.1)

・10階層 :ホワイトベア(Lv.16)

・15階層 :ストーンガーディアン(Lv.23)

・20階層 :死の聖騎士(デス・パラディアン)(Lv.31)

・25階層〜60階層:???


まだ誰も20階層以降には到達していない。

あのAランク十人が敗北したという記録が、他の冒険者の足を止めている。


「意気地なしめ……。運営側の苦労も考えろってんだ」


こっちは、せっせと魔物の配置もしてるってのに。


モンスター同士を戦わせて経験値を稼がせたり、強いやつだけを上層に残したり、調整だってちゃんとしてるんだ。

でもなかなか、ステータス4桁超えの個体は生まれない。


「……はあ、そろそろ別の成長方法も検討しないとな」


肩肘ついてぼんやり考え込んでいたそのとき、不意に――


「実に残念ですね。我が主人様」


「――って、え?」


背後から響いた声に、思わずびくりと肩が跳ねた。


振り返れば、金髪ロングのハイ・エルフ、ユリがいつの間にか部屋の中にいた。


「……なんでいるの?」


「ふふっ。私は魔王様のメイドですから。この部屋に“入ってはいけない”とは、言われておりませんし?」


「……そうだっけ。いや、そうか」


この女、ほんと図太い。


だけど――この迷宮内で、俺がもっとも信頼してる存在でもある。


初期のガチャ召喚で出たレアユニット、ハイ・エルフのユリ。戦闘力も高いし、知性もあって、何より落ち着いてる。言ってしまえば、“大人”。


「魔王様は随分と強くなられましたね。レベルも、魔力も、戦闘スキルも……でも」


「でも?」


「お身体のサイズは、相変わらず可愛らしいままです」


「……それ、今わざわざ言う?」


苦笑しながら俺は頬をかいた。


そう、そこが最大の悩みなんだ。

レベルが上がっても、体の成長には反映されない。見た目は依然として、“赤ん坊”のまま。魔王って名乗ってるのに、この姿じゃ威厳もくそもない。


「……ユリ。竜って、成長するまでにどんくらいかかるんだっけ?」


「そうですね……成体になるまでには、通常であれば数十年単位です。魔力や環境によって多少は早まりますが、基本的には長期的な成長になります」


「……はあ。そっちのスパンで話されると、心折れるわ」


この体に転生してきた俺の心は、高校生だった前世のまま。

成長しないこの体に、時々妙な違和感を覚える。

鏡を見るたび、「ああ、俺ってこのままなのかな」って、胸の奥がざらつく。


――これから先も、この姿のままで、ずっとこの迷宮を支配していくのか?


「成長って、なんなんだろうな……」


ふと、口にしたその言葉に、ユリが一瞬だけ静かになる。


「……生きるということは、失うということでもあります。記憶も、人も、時間も。長く生きれば生きるほど、そういう喪失を経験しますから」


「……お前、なんか重くない?」


冗談めかして返したつもりだったけど、どこかで、胸がきゅっと締め付けられていた。


俺は――俺のままで、いられるのか?


記憶も、気持ちも、全部このまま保持して。

成長と変化の狭間で、何かを見失わないでいられるのか。


分からない。

でも、たぶん――


「ま、まだまだ時間はある。……少なくとも、俺のダンジョンに踏み込んでくるアホどもを迎え撃つくらいにはな」


「ふふっ。はい。そのために、今日もお茶を淹れさせていただきますね。魔王様♪」


「……だから、結局お前、何しに来たんだよ……」


思わず笑いながら、俺はユリから差し出されたカップを受け取った。


温かな香りが、ふと心を落ち着かせる。


この世界でも、俺は俺として、生きていく。

それが――魔王としての、最初の覚悟なのかもしれない。

次回の投稿は明日の21時にします

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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