2話 50連ガチャ
主人公は簡単な服を着ています
全裸じゃないです
ゴブリンとスライムを合わせて五体。
古びた扉と古びた椅子が二つずつ。
武器は古びた剣が五つ、古びた鎧が二つ、それに銅の鎧が一つ。
おまけに、仮面がひとつ。
――どうしろっていうんだ、これで。
「いや、ほんとに、どうしろと?」
提示されたスキルポイントの獲得条件を、俺はもう何度目かの確認をする。
・魔物の撃破
・侵入者の討伐
・称号の取得
・ダンジョン支配領域の拡張
……なんて言われても困る。
生まれたばかりの竜の赤ん坊――いや、今の俺――にどうしろと。
この身体で戦えって? それともこのショボい装備で戦術を組み立てろと?
……現実味がない。
とはいえ、ただ考えていても状況は変わらない。
試しに、手近にあった古びた扉を、壁に立てかけてみる。
すると――
「ん? 動かないぞ……?」
扉は、その場にピタリと止まり、まるで壁に張り付いたようにびくともしない。
さっきまでは、この赤ん坊の体でも運べた古びた扉が、今やまるで地面に根を張ったように動かない。
なんだこれ、固定装置でもあるのか?
いや、そんな高機能なものがあるような場所には見えない。
そもそもここは……いや、やはり、異世界、かもしれない。俺が転生したということを考えれば、現実世界の常識が通じるわけもない。
俺の理解を苦しめ、狂わす、この現象の異常さは異世界の法則。地球という確立している法則とは異なっている。そうと考えれば今、起きている常識外れのこの状況に説明できる。
「異世界かどうかも分からないけど……もう何が起きても驚けないな」
興味がわいてきた。
扉は開けられるのか?
試しにノブに手をかけて引いてみると――
「……は?」
その向こうには、まったく別の空間。
真っ白で、何もない、静かな部屋のような空間が広がっていた。
また、同じ部屋。扉の先も無なのか。
「……なんだこれ??」
困惑していると、ふと思い出してステータス画面を開いた。
【スキルポイント:500】
「……増えてる?」
ああ、そういえば「部屋の拡張でポイント獲得」って書いてあった気がする。
つまり、扉を設置して部屋を増やしたからポイントがもらえた……ってことか。
ふと視線を感じて振り返ると、スライムが二体、その白い部屋に入ってきていた。
後に続いて、ゴブリンたちもぞろぞろと入ってくる。
「……優先すべきは、やっぱガチャか」
ガチャ画面を開く。
表示された「50回500ポイント」のボタンを押すと、カラフルな演出とともに、いよいよ運命の瞬間が始まった。
【10連目】
1回目:ゴブリン×1
2回目:ゴブリン×1
3回目:銅の剣×1
4回目:スライム×2
5回目:スライム×2
6回目:草原の部屋×1
7回目:鋼の刀×1
8回目:スライム×2
9回目:古びた机×1
10回目:古びた椅子×2
「……なんだろう、地味に当たりな気がするけど、感動は薄いな」
【20連目】
1回目:ゴーレム×1
2回目:ゴブリン×1
3回目:ゴブリン×1
4回目:スライム×2
5回目:古びた鎧×2
6回目:高級な机×1
7回目:ホワイトウルフ×3
8回目:古びた椅子×2
9回目:古びた剣×5
10回目:古びた鎧×2
「ちょっと待て、ホワイトウルフ……なんか強そうなの出たぞ?」
【30連目】
1回目:スライム×2
2回目:高級な鎧×2
3回目:ホワイトウルフ×3
4回目:小さな小屋×10
5回目:古びた剣×5
6回目:銅の鎧×1
7回目:銅の剣×1
8回目:銅の刀×1
9回目:普通の椅子×5
10回目:普通の机×2
「家が……10軒!? 何だこの団地計画……」
【40連目】
1回目:高級なコート×1
2回目:草原の部屋×1
3回目:古びた扉×1
4回目:古びた扉×1
5回目:普通の扉×1
6回目:魔王の部屋×1
7回目:出口の洞窟×1
8回目:炎魔法
9回目:普通の剣×1
10回目:スライム×2
「魔王の部屋!? やばいの引いたかもしれん……!」
【50連目】
1回目:古びた椅子×2
2回目:ゴブリン×1
3回目:ゴブリン×1
4回目:古びた剣×5
5回目:古びた鎧×2
6回目:古びた扉×1
7回目:古びた鎧×2
8回目:ダンジョンの階段×2
9回目:ゴーレム×1
10回目:風魔法
「……ファンタジー素材、一通り揃ってきたな」
■ガチャ結果まとめ
【モンスター系】
ゴブリン:8体
スライム:12体
ゴーレム:2体
ホワイトウルフ:6体
【構造物・部屋】
草原の部屋:2
魔王の部屋:1
出口の洞窟:1
小さな小屋:10
古びた扉:4
普通の扉:1
ダンジョンの階段:2
【家具系】
古びた机:1
高級な机:1
普通の机:2
古びた椅子:6
普通の椅子:5
【装備品】
銅の剣:2
銅の刀:1
鋼の刀:1
古びた剣:15
普通の剣:1
古びた鎧:8
高級な鎧:2
銅の鎧:1
高級なコート:1
【スキル/魔法】
炎魔法:1
風魔法:1
結果としていいのか悪いのか分からない。
「さて、まずは試してみるか」
俺は、「草原の部屋」の箱を取り出し、白い空間の部屋に置いてみた。
「……!? マジかよ」
白い空間が、瞬く間に緑の草原へと変化した。風がそよぎ、遠くで小さな虫の羽音が聞こえるような、そんなリアルな自然空間に。
「なら、こっちも……」
同じように、いま自分が生活している部屋に「魔王の部屋」を置いてみた。
すると、部屋の空間は一気に暗転し、禍々しい装飾に彩られた玉座の間のような空間へと変わっていく。
……演出が本格的すぎて、ちょっとビビる。
次は階段だ。
それを部屋の隅に運んで設置すると、床が開き、下へと続く階段が現れた。
「下の階層が……生まれた?」
興味に駆られて降りてみると、やはりそこも真っ白な部屋。
試しにもう一度、「草原の部屋」を設置すると、再び自然空間が出現した。
さらに、そこにも階段を設置。下へ降りてまた草原を作る。
同じ要領で、四層まで部屋を拡張することに成功した。
「これで四階層分のダンジョンが完成……ってわけか」
試しにステータス画面を確認してみると――
【スキルポイント:3500】
「……なんかめっちゃ増えてる」
どうしてここまでポイントが増えているのか。考えられることは部屋の数×500、階層の数×1000、と設定されているということ。
とりあえず、拡張したことでスキルポイントを大量に入手できたのは大きい。
「でも、まだ戦いって感じじゃないな……」
ポイントを稼ぐには、戦闘で魔物を倒したり、ダンジョンを活性化させたりしないといけない。
でも今は、それ以前に基盤を作る必要がある。
小屋を設置してモンスターの住居を整備し、家具を配置して環境を整え、徐々に支配領域を拡張する――
「……なんか、先が長そうだな」
ため息混じりに呟いた俺は、次に何をするべきか考えながら、ぼんやりと緑の草原を見渡した。
――これが、俺の“始まりのダンジョン”。
先は遠いが、退屈はしなさそうだ。
次回の話は18時半に投稿します
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