18話 新たな挑戦者
──日本・冒険者組合、本部第二支部。
竜の迷宮が突如として現れてから、早くも一ヶ月が経過した。その間、幾多の冒険者たちが挑戦を試みたが、九階層を越えた者はほとんどいなかった。中には十階層にてホワイトベアとの激戦を制し、更に進んだ者もいたが──十二階層以降、ガーディアンと呼ばれる魔物の群れによって進行は止まりつつあった。
そして今、集まったのはAランク冒険者たち十名。
平均レベルは60を超え、名実ともに国家戦力級とされる精鋭たちだ。その背に宿る気迫は、まさしく英雄の風格を漂わせている。
「ようこそ、竜の迷宮討伐に興味を持ってくれて感謝する」
穏やかな声で語りかけたのは、冒険者組合本部第二支部の支部長、仁科豪士。元Sランク冒険者であり、今は前線を離れ、組合の指揮を担っている。
「だが、その前に──見てほしいものがある」
彼が指先で軽く操作すると、部屋の壁一面に映像が映し出された。
画面には、数週間前、迷宮へ挑んだ二つのBランクパーティの姿があった。
最初は順調だった。十階層でのホワイトベア戦。巨大な獣が咆哮を上げ、冒険者たちが連携して魔法と物理の攻撃を叩き込む。まるで教科書のような完璧な連携だった。
「うおおおっ! このまま一気に押し切れぇっ!」
勝利の歓声。勝者の気配。しかし、映像が切り替わる。
──十二階層。複数のガーディアンが立ちふさがる。
「くそっ、硬すぎる……!」
防御力に優れた石造りの巨人たちに、攻撃が弾かれていく。魔法すら通らないその存在に、冒険者たちの顔から笑みが消える。
回復魔法も、援護射撃も、すべてが追いつかないがなんとか勝利し、15階層ボス、ストーンガーディアンまでに戦闘勝利。
そして、映像は十六階層へと切り替わった。
──《死の騎士》が現れる。
その姿は凍てつく黒鎧を纏い、赤黒い魔力を纏っていた。無言で大剣を振り下ろすと、前衛の戦士が一瞬で消し飛んだ。
《デス・ナイト》
【Lv:???】
【体力:3403】
【攻撃力:6018】
【防御力:3107】
【魔力:2571】
【スキル:騎士道/腐敗人間支配/忠誠心】
「う、嘘だろ……?」
映像越しでも分かる、圧倒的な力。放たれた斬撃は、回避する間も与えず、後衛すら巻き込んでいく。やがて映像は白く光り、すべてが途絶えた。
会議室の空気が凍りつく。
「……これが、現実だ」
支部長の声が重く響いた。
「レベル60を超えた君たちでも、この存在に勝てる保証はない。だが……それでも、挑むというのなら、組合は全力で支援しよう」
沈黙の中、青年の冒険者──風間涼が一歩前へ出た。
「……怖いさ。正直、あの映像見たら震える。でも……」
彼は拳を握る。
「それでも、俺たちは冒険者だ。仲間を失ったまま、黙って見てるわけにはいかない。行こう、竜の迷宮へ。あの《死の騎士》を超えるために」
仲間たちが次々に頷く。
「同感だ」
「ここで退いたら、俺たちの誇りが泣く」
支部長がわずかに微笑んだ。
「ならば、道は一つだ。君たちに期待している──この迷宮の真の攻略者として」
こうして、Aランク冒険者たちは決意を固め、竜の迷宮へと進む。次にその名を刻むのは、彼らか。それとも、さらなる強敵か。
そして、迷宮の奥で、あの《死の騎士》は──静かに、次なる戦いを待っていた。
__________
──竜の迷宮・地上拠点、前哨キャンプ。
集結したAランク冒険者たちは、迷宮入口前の作戦用テントに静かに腰を下ろし、互いの顔を見つめていた。先ほど見せられた《死の騎士》の記録映像が、誰の胸にも重く沈んでいる。だが、それでも彼らはここにいる。
「……俺たちがやるしかない」
最初に言葉を発したのは、剣士・神谷涼。逆立つ黒髪と鋭い眼光を持つ青年で、今回の遠征部隊の指揮を任されている。
「Bランクの仲間たちが、命を賭けて道を切り開いた。あのまま黙って見てるなんて、俺にはできない。だが無策で突っ込めば、あの死神に一瞬で斬り捨てられる」
「十六階層……《死の騎士》か」
氷のような口調で呟いたのは、魔術師・月城梨花。長い銀髪を背に流し、端末を操作するその指先が止まる。
「遠距離でも範囲魔法、近距離では剣の一閃。加えて召喚魔法まで備えている。どこにも隙がない」
「真正面から叩くしかねえな!」
歯を剥いたのは、斧戦士・嶋田剛士。全身を重装甲に包み、腕には巨大な戦斧を担ぐ。
「でもよ、相手がどれだけでかくても、弱点はあるはずだろ?」
「ええ。解析してみましょう」
梨花が表示したのは、再び《死の騎士》の情報だった。
⸻
【死の騎士】
体力:5403/攻撃力:6018/防御力:3107/魔力:2571/運:284
魔法:闇魔法、死魔法、召喚魔法
スキル:騎士道、腐敗人間支配、忠誠心
⸻
「正直……怖い」
神谷は呟いた。だが、顔を上げると、全員の視線を一身に受けた。
「けど、俺たちならいける。一人じゃなく、十人いる。どれも国家級の実力者だ。今ここに、最高の布陣が揃ってる」
そして、彼らのステータスが一覧で示される──
⸻
【神谷涼】Lv:64
体力:1420/攻撃力:1246/防御力:1158/魔力:1023/運:156
魔法:雷撃魔法、風刃魔法
スキル:瞬歩、剣技【雷閃】、統率
【月城梨花】Lv:63
体力:1340/攻撃力:768/防御力:930/魔力:1412/運:153
魔法:氷結魔法、解析魔法、結界魔法
スキル:マナ視認、魔法陣展開、知識の書庫
【嶋田剛士】Lv:65
体力:1243/攻撃力:1059/防御力:950/魔力:640/運:140
魔法:強化魔法、火炎魔法
スキル:挑発、怪力無双、怒涛斬
【春日井聖】Lv:61
体力:1059/攻撃力:1048/防御力:1120/魔力:1475/運:161
魔法:聖光魔法、浄化魔法
スキル:再生祈祷、祝福、精神耐性
【佐伯亮真】Lv:62
体力:923/攻撃力:1007/防御力:1094/魔力:1104/運:149
魔法:火炎魔法、光魔法
スキル:二刀流、背撃、熱意
【香坂美佳】Lv:60
体力:1098/攻撃力:1080/防御力:1220/魔力:1350/運:152
魔法:幻影魔法、束縛魔法
スキル:迷彩、影歩、錯乱
【野崎拓人】Lv:66
体力:1435/攻撃力:1194/防御力:1003/魔力:731/運:147
魔法:地裂魔法、強化魔法
スキル:不動、絶壁防陣、反撃
【志摩綾音】Lv:61
体力:1430/攻撃力:1345/防御力:1380/魔力:934/運:155
魔法:雷鳴魔法、加速魔法
スキル:高速詠唱、魔力連鎖、瞑想
【羽田悠人】Lv:64
体力:1383/攻撃力:1110/防御力:1083/魔力:988/運:158
魔法:武装魔法、回復魔法
スキル:集中、連撃、護衛
【榊真】Lv:62
体力:1355/攻撃力:955/防御力:1252/魔力:1267/運:158
魔法:風魔法、毒霧魔法
スキル:奇襲、戦術眼、弱点看破
⸻
「怖くないって言ったら、嘘になる。でも……俺たちはAランクの誇りを背負ってる」
神谷の声に、全員が頷いた。
そして、迷宮の扉が軋んだ音を立てて開く。黒き深淵は、再び冒険者たちを迎え入れる。
次なる死闘の火蓋が、今、切って落とされる──。
次回の投稿は明日の21時にします
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