17話 絶望、そして強さの境界
──日本・冒険者組合、戦術情報局。
かつて戦場で名を馳せ、今は戦術官として情報分析に従事する男が、重たい表情で資料を机に広げた。集まっていたのは、上級分析官、魔法学者、現役の高ランク冒険者、そして研修中の若者たち。
先ほど公開された《死の騎士》の映像に、全員が沈黙していた。
「……数値の暴力だな」
低く響いた声に、数人がうなずく。
「《デス・ナイト》のステータス、再確認するぞ。攻撃力6018、防御力3107、魔力2571──全ステータスが、既存のランク評価を超えている」
ホログラムに映し出されたデータが、部屋の空気をさらに凍らせた。
「これって……どのくらいヤバいの?」
若き訓練冒険者の一人が、勇気を出して口を開いた。実感がないのかどれくらい異常なのか分かっていない様子だった。
年配の学者が頷き、静かに口を開く。
「基礎的なランクの話からしよう。魔物も冒険者も、総合的なステータスの平均値で評価される。以下が現在の公式基準だ」
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《魔物のランク基準》
•Gランク:ステータス10〜30程度(スライム、野犬など)
•Fランク:ステータス30〜70(ゴブリン、オオカミ系)
•Eランク:ステータス70〜100(下位のオーガ、低位スケルトンなど)
•Dランク:ステータス100〜250(強化型ゴーレム、通常のホワイトベアなど)
•Cランク:ステータス250〜300(通常のストーンガーディアン、魔法型リザードなど)
•Bランク:ステータス300〜400(群れを率いる指揮官クラス)
•Aランク:ステータス400〜750(通常のボス級、ドラゴンの幼体(個体差による)など)
•Sランク:ステータス750〜1000(上位悪魔、古代魔獣など)
•魔王種:ステータス1000〜3000(人智を超えた力を持つ存在)
•魔王級:ステータス3000〜5000(災害指定対象、都市一つを滅ぼす力)
•魔王:ステータス5000以上(国の軍隊でも抑えきれない存在)
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「今回問題になっている《死の騎士》は“魔王級”に該当する。あのような存在が、十六階層という位置に出現するのは、本来ならありえない。上位階層、または迷宮ボスとして強さにされる。S級迷宮に出てもおかしくない強さであることは分かるだろう?」
そう語る声に、他の者たちも深くうなずく。
「じゃあ……冒険者側は? 俺たちは、どこまでなら太刀打ちできるんだ……?」
質問に、戦術官が資料をめくる。
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《冒険者のランクとステータス傾向》
•Gランク:初心者。平均ステータス30未満
•Fランク:訓練済みの冒険者。平均ステータス50〜80
•Eランク:実戦経験が増えた者。平均100〜150(一般討伐任務対応)
•Dランク:小隊指揮が可能。平均150〜200
•Cランク:中堅の精鋭。平均200〜300
•Bランク:高位の冒険者。平均400〜500
•Aランク:国家戦力級。ステータスが700〜1500
•Sランク:伝説的冒険者
S−ランク ステータス1500〜3000
S+ランク ステータス3000〜5000
・Sランクオーバー:神的冒険者
ステータス 5000以上
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「つまり……今回、全滅したBランク冒険者たちは、平均しても500〜600程度のステータスを持っていたがAランクレベルまで上昇していた。しかし──《デス・ナイト》の一撃は、その十倍近い力だったというわけだ」
「ステータスがすべてではないが、確実に“開きすぎた力”は存在する」
沈痛な沈黙が流れる中、一人の若者がぽつりと呟く。
「じゃあ、俺たちがあれに勝つには……どうすりゃいいんだよ」
「勝てるとは言ってない」
戦術官の声は鋭かった。
「だが、“知る”ことはできる。魔物の強さ、特性、出現階層……すべての情報を蓄積し、未来に備える。それが、今残された者たちにできることだ」
老学者がゆっくりと立ち上がる。
「この世界は、数値では測れぬ異常を孕んでいる。そして──《死の騎士》は、そのほんの一例にすぎない。恐れるな、だが、忘れるな。我々に"真の敗北"はないこと。我々が"冒険者"であり、冒険する少年少女だとな」
その言葉に、若き冒険者たちは深く頷いた。
この瞬間、新たな目標が生まれた。
《デス・ナイト》を超える力を持ちうる者──次なる英雄の登場を、世界は待ち望んでいた。
明日の21時半に投稿します
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