13話 ガーディアンを倒せ!
──竜の迷宮・第十二階層、白き草原。
「……二十体、すべて倒したはずだよな」
フェリスが荒い息を吐きながら、真っ赤に焼けた剣を雪へと突き立てる。血と氷の匂いが混じり、吐息は白く宙に溶ける。冒険者たちは皆、疲弊しきっていた。
「動き……止まらないっす。まだ来る……!」
バルドの声に、全員が振り返る。その先──雪煙の奥、白い巨影が再び姿を現す。
「また、ホワイトベア!? ……数が……っ、20体以上いるぞ!」
ラグナが顔を歪める。さっきの群れが最後だったはず──そう信じたかった。しかし、迷宮はその願いを無情に打ち砕く。
「くそっ、やるしかねぇ! 生き残りたきゃな!」
ガロスが咆哮し、魔剣を振るって地を割る。
「戦闘配置! 絶対に崩れるな!」
ユズの号令に、皆が動く。ヒルダが短剣を構え、セリスが拳を握る。
──ホワイトベア、追加の20体。
彼らは1体、また1体と確実に討ち取るが、代償として傷は深まり、魔力と気力は限界に迫る。
「《烈火断・双牙》!」
「《雷縫の咆哮》!」
「《爆炎穿突》!」
スキルが交錯し、空間が震える。召喚獣たちは消耗しきり、魔法使いたちの詠唱も途切れがちになっていく。
──それでも、誰一人諦めなかった。
30分……1時間……。
「……これで、最後だっ!」
ラグナの剣が最後のホワイトベアの喉を裂き、巨体が地に沈む。
──静寂。
「……終わった、か?」
誰かが呟いたその言葉は、雪原に吸い込まれていった。
「ふぅ……マジで、死ぬかと思った……」
フェリスがへたりこみ、肩で息をする。
「合計……40体。あんな化け物を、俺たち……」
リヴィアが記録用紙に震える手で数字を書き込む。
「……もう、襲ってこないようだな」
ユズが周囲を見回し、ようやく剣を収めた。
──数分後。冒険者たちは結界室へ到着し、休息の椅子へと倒れ込むように腰を下ろした。
「ホワイトベアが、まさかここまで群れるとは思わなかったな」
ガロスがため息を吐く。
「俺たちはなんとかなったけど……Cランク以下のパーティじゃ、全滅必至だ」
セリスが静かに言った。
「この階層から先、冒険者組合は立ち入り制限を真剣に検討するべきね」
リヴィアの言葉に、誰も異を唱えなかった。
「さて──次は、第十三階層だ」
バルドが新しい地図を広げながら言った。
⸻
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──迷宮・第十三階層。
扉を開いた瞬間、そこには異様な風景が広がっていた。
「……廃村、か?」
雪に埋もれた木造の家屋。崩れかけた柵。割れた井戸。すべてが白く覆われ、時間の流れが止まったかのようだ。
「なんか、嫌な感じするな」
カイが肩の火狐を撫でながら呟く。
──その時だった。
「来るぞ!」
ガロスの声と同時に、金属音が響く。廃屋の影から現れたのは、二体のゴーレム。
【ゴーレム】
体力:20/攻撃力:25/防御力:35/魔力:11/運:12
スキル:防御壁
「軽くいこうか!」
ラグナが跳ねるように飛び出し、爆裂剣で一体を粉砕。ヒルダの短剣がもう一体の関節を砕き、即座に行動不能に追い込む。
「ゴーレムなら慣れてる。問題ないね」
セリスが余裕の表情で拳を払った。
──しかし、真の脅威はそこではなかった。
「……あれは……!」
村の中心、雪原に埋もれた巨大な影が、ゆっくりと立ち上がる。
全長ホワイトベアを凌駕する巨体。黒鉄の装甲、そして光る赤眼。
「複数反応! ……ガーディアン!? 10体以上!」
リヴィアが青ざめながら結界球を握る。
【ガーディアン】
体力:1080/攻撃力:580/防御力:1040/魔力:1500/運:15
スキル:防御壁/鉄壁の盾/破壊光線/鉱物吸収
「ステータス、バグってんだろ……!」
バルドが思わず叫ぶ。
「全員、集中しろ! 一瞬の油断で死ぬぞ!」
ユズが叫び、戦闘が始まる。
「《雷撃・散弾弧》!」
「《焔嵐烈波》!」
魔法が装甲に弾かれ、破壊光線が地面をえぐる。
「この硬さ、マジで化け物かよ……!」
ラグナが叫び、ヒルダが歯を食いしばる。
──それでも、諦めない。
カイの召喚獣が拘束し、バルドとリヴィアが支援に徹し、ユズの指揮で一点集中攻撃。
ようやく、一体が膝をついた。
「今だ!」
ガロスが魔剣を突き刺し、装甲を貫く。
──撃破、成功。
「あと9体……!」
誰もが疲弊しながらも、斬り、砕き、貫いた。
──1時間後。
「……全滅、確認」
リヴィアが報告し、その場に全員が座り込む。
「……本当に、Aランクなのか……?」
セリスが呆然と天井を見つめる。
──その時。
「……熱い……来る!」
ラグナの胸に炎のような熱が走る。
【ラグナのレベルが1上昇しました】
【ステータス変化】
体力:751/攻撃力:710/防御力:410/魔力:397/運:292
新スキル《烈煌剣・天閃》を獲得しました
次々に、仲間たちにも変化が走る。
【フェリスのステータス上昇】
体力:715/攻撃力:720/魔力:154
【セリスのステータス上昇】
体力:696/攻撃力:745/防御力:521
【ヒルダのステータス上昇】
体力:629/攻撃力:601/魔力:146
【カイのステータス上昇】
体力:724/魔力:641/召喚獣上限+1
【ユズのステータス上昇】
体力:591/攻撃力:701/統率力+スキル効果強化
【リヴィアのステータス上昇】
体力:715/魔力:521/分析・支援魔法強化
【バルドのステータス上昇】
体力:641/攻撃力:431/耐久力+自動回復強化
「この成長……普通じゃない……」
リヴィアが結界球を見つめながら呟く。
「迷宮が……俺たちを強化してる。これは試練か、あるいは……」
ガロスが目を細める。
「報酬、なのかもな」
ユズが静かに言った。
──人間の限界を超える成長。しかし、それは同時に、死のリスクすら跳ね上がることを意味する。
「でも……もう、後戻りはできない」
ラグナが立ち上がり、剣を肩に担ぐ。
──再び、安全地帯に戻った冒険者たちは、静かに腰を下ろす。
「竜の迷宮。これがAランク? 冗談じゃない……」
カイが呟く。
「この先は、Sランクすら超えてるかもしれない」
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──そして、その様子を遠くから見下ろす者がいた。
黒の玉座に座る赤子──竜の魔王・黒崎 四は、小さく微笑む。
「うん、やっぱり君たちはいいね。まだまだ、いけるよね?」
彼が指を鳴らした瞬間、迷宮の奥が音を立てて動き出した。
「だって──ここからが、本当の本番なんだから」
次回の投稿は21時半にします
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