12話 Bランクの冒険者としての力
第十二章:牙を越えし者たち、雪降る地へ
──竜の迷宮・第九階層、ポイズンスネイクの巣窟。
「……これで、最後だ!」
ラグナの剣が火花を散らしながら蛇の巨体を斬り裂く。焼け焦げた鱗がはじけ、苦悶の叫びを残してポイズンスネイクが地に崩れた。
「撃破完了。被害軽微」
ヒルダが短く報告する。周囲には切り裂かれ、焼かれた大量のポイズンスネイクの死体が転がっていた。
「数は多かったけど、まぁ……今の俺たちなら問題ないな」
フェリスが肩を回しながら笑う。
「これで第十階層だな。……あの、“問題の場所”だ」
ガロスの目が鋭く光る。気配を探りつつ、周囲を警戒する。
「いったん、安全地帯に戻ってまとめよう。無理に進んでも意味はない」
ユズの提案に誰も異論はなかった。
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──迷宮・第九階層、安全地帯・結界室。
休息を兼ねた円卓が用意され、11人が輪になって腰を下ろす。小さな魔石灯が部屋をぼんやり照らしている。
「……改めて、これまでの戦闘記録と、問題の第十階層について整理しましょう」
リヴィアが記録用紙を広げ、静かに語り出す。
「第十階層には、Aランク相当の魔物が三体、同時に出現したとのことです。先行したパーティは一名が戦死。残る四名も重傷でした」
「……まるで、戦場のような被害だな」
セリスの声は低く、重かった。
「俺たちは、第九階層までは対応できるが、それ以上は“未知”だった……だから、今回こうして集まった。正解だな」
ユズが腕を組み、真剣な表情を浮かべる。
そのとき、バルドがぽつりと口を開いた。
「魔物の質が違うんすよ。明らかに、狩るために進化してる。特にあの蛇たち……連携までしてた」
「私も感じた。あの蛇たちは、私の召喚獣を狙って行動していた。意図的に、ね」
カイが肩をすくめながら、雷狼の頭を撫でる。
「つまり……“迷宮そのもの”が、こちらの戦術を分析している、ってことか?」
フェリスの問いに、全員が沈黙する。
「だとしても、私たちは止まれない」
ヒルダが目を閉じ、短剣の柄を握る。
「そう。前に進むしかない」
ユズの言葉が、全員の意志をまとめた。
「今日はもう休みましょう。明日、十階層へ」
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──翌朝。迷宮・第十階層、結界門前。
冒険者たちは武器を整え、静かに結界門が開くのを待っていた。淡い光が消え、風が吹き込む。
「……ここが、問題の階層か」
「草原……そして、あれが──」
森の奥、岩の影から姿を現した三体の巨獣。毛並みは白く、鋼のように固く、爪は短剣以上の大きさ。赤く光る瞳が、敵意をはっきりと示していた。
──ホワイトベア。
【ホワイトベア】
体力:618/攻撃力:881/防御力:416/魔力:487/運:262
魔法:炎魔法・氷魔法
スキル:切り裂き
「……こりゃ、確かに迷宮階層ボスだな」
ラグナが剣を構えながら呟く。
「全員、戦闘配置! 絶対に一人も死ぬな!」
ユズの号令で戦闘が始まった。
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──轟音。咆哮。氷柱が炸裂し、炎が舞う。
「近づかせるな! 距離を保て!」
バルドの矢が一点を貫き、カイの火狐が火柱を上げる。フェリスとセリスが正面から肉弾戦で押し合い、ガロスの魔剣が輝きを放った。
「《重圧のエクリプス》、発動!」
斬撃が空気を引き裂き、ホワイトベアの肩を裂く。
「一体、ダウン!」
ヒルダが後方から喉元を斬りつけ、止めを刺す。
「まだ二体残ってる! 気を抜くな!」
ラグナの爆炎突が地を抉り、雪のような毛を焼き払う。
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──そして、30分後。戦いは、終わった。
「……終わった、な」
全員が息を整え、武器を収める。
ホワイトベアの残骸の近くには数多くの冒険者の遺体と武器の残骸が落ちていた
その先には、打ち捨てられた冒険者の遺体──冷たくなった仲間が一人。
「……この人が、あの時の犠牲者か」
リヴィアが静かに目を閉じる。
「せめて、眠りの中では安らかに」
誰からともなく、祈りが捧げられた。
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──迷宮・第十一階層。
扉を開けた先。そこには──またしても草原。そして。
「っ、あれ……ホワイトベア!? 何体……いや、10体以上いるぞ!」
バルドの声に全員が凍りついた。
「なんで……あいつら、群れで来るんだよ!」
「下がれ! 隊列を組み直す!」
だが逃げ場はない。11人は陣形を整え、迎え撃つ。
「まとめてかかってこい……!」
セリスが拳を構え、突撃する。
「《魔拳・爆砕連撃》!」
「《烈火断》!」
「《影縫》!」
矢と斬撃、爆炎と雷撃が交錯する。
──戦闘は30分以上続いた。誰もが疲弊し、傷も負ったが、犠牲者はゼロ。
「……勝った、な」
倒れ伏したホワイトベアの群れを前に、ユズが言葉を絞り出す。
「これが、Aクラス迷宮……納得だわ」
カイが膝に手をつき、荒い息を吐く。
「……次が、十二階層だ」
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──迷宮・第十二階層。扉がゆっくりと開かれる。
「……雪……?」
草原の大地に、白い雪が降っていた。静かに、冷たく、誰の足跡も残さぬまま。
「……美しいけど、嫌な予感しかしない」
ガロスがぼそりと呟く。
「この景色……まるで“別の世界”だな」
フェリスが白い息を吐き、警戒を強める。
──そしてその奥、雪の中から巨大な影が立ち上がる。
「敵だ! 戦闘準備!」
「来るぞ!」
氷を踏み割る音が響き、またしても戦いが始まった。
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そのとき、玉座に座る赤ん坊──黒崎四は、満足そうに笑みを浮かべた。
「うん、いいね。ここからが本当の“迷宮”だよ」
指を一振り。
「命をかける覚悟、できてるなら──楽しませてよね」
静かに、雪が舞う。
次回の投稿は7時半にします
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