科学者の心理
相野時雄教授をタイムスリッププロジェクトに入れる事は重要な意味があった。
現在のプロジェクトメンバーは、ほとんど全員がタイムスリップに肯定的な人間ばかりで、否定する立場をとる者は皆無であった。
しかし、そこに相野時雄教授が入る事により比較研究が可能になる。あくまでもどちらの主張が正しいかを競わせるものではない。二方向からの目線を持つ事でより、多角的・多次元的に見る事が出来る訳である。
とは言え、相野教授と白村教授は犬猿の仲である。その二人が手をとる事は、タイムスリップ学界にとって、画期的な事でもある。勿論、対立する点もあるだろう。
しかし、それはそれで意味のある対立なのである。御互いがつまらぬ意地をはらなければそれで良い。例え議論が平行線に終わったとしても、まずやってみようという議論になる。その確証は信次郎にはあった。経験則として、対立している両者が歩み寄る為には、実験により実証してみると言う方法が一般的であり、そんな事は信次郎の様な素人でも分かる。
タイムスリップと言うと、遠い未来の技術だとタカをくくってしまいがちであるが、そうではない。今やれる事はきちんとやるべきであり、初めから無理だと思っていても、それを言ってしまえば、元も子もない。今現実に進行中のタイムスリッププロジェクトに必要なのは、相野時雄教授の様なタイムスリップ否定論者のような者の考えも重要である。
無論、それで解決する事の方が多い。多いけれども、目線が増えるという事はマイナスにはならない。タイムスリップが出来るか出来ないかと言う事はこの際、どうでも良い。どうしてタイムスリップ出来るのか出来ないのか、を実証する事が求められるだけの事なのである。
理論を実験で証明すると言う事は科学の基本である。相野時雄教授を招き入れる事が出来れば、確実に前に進む事が出来る。無論、相野時雄教授が、ここでOKの返事を出してくれればの話ではあるが…。
しかし、信次郎には言葉に出来ない自信があった。相野時雄教授は、必ずこの誘いに応じる。そして、きっとタイムスリップの為に尽力してくれるだろうと。何故なら相野時雄教授は、誰よりもタイムスリップの実現を心の底では、願っているからである。その様な事を相野時雄教授は口には出さないだろう。しかし、信次郎には分かる。否定をしたい時は肯定を用いて、肯定をしたい時は、否定から入る。と言う科学者の心理がある事を。




