頑丈な箱
数日後、信次郎は白村教授に呼び出された。きっと何か進展があったのだろう。
「おお!来たか。遂に完成したぞ!まずはこれを見てくれ。」
白村教授は信次郎にある映像を見せた。
「これは!?」
「実験台のマウスにセットしたカメラの映像だよ。100年前にタイムスリップさせて、そのまま一週間いて戻ってくる。このマウスにはカメラをつけていて、これはその映像だ。間違いなく100年前にタイムスリップしている。そして今しがた戻って来たところである。」
「と、言う事は自由自在にタイムスリップする事が、可能になったと言う事ですか?」
「あくまでこれはマウスの話だ。人間でやれるかは、確実な事は言えないが、かなり高い確率で、人間にも応用出来ると私は見ている。そして、このマウス実験で重大な事実が判明した。」
「重大な事実!?」
「時空を移動するには、ホールストーンだけでは不充分だった。このマウスの場合は、小さな箱で済んだが、人間ともなると、棺桶サイズの頑丈な箱が必要になる。と言うのも時空移動と言うものは、大きな時空のねじれの中を瞬時に移動するものであり、凄まじいパワーがかかる。実際に箱なしでタイムスリップさせたマウスは全て行方不明になっている。だから、信次郎君が入れる頑丈な箱を君自身で探し出して来て欲しいんだ。」
「その箱さえあれば、自分もタイムスリップ出来るんですね?」
「ああ。嘘は言わんよ。頑丈な箱さえあれば、後は私が何とかする。それと、時空支配人の居場所は特定出来そうかい?」
「実は箱よりもそっちの方が難解なんです。実際あれから分かった事なんてほとんど無いですし。箱は何とかします。」
「出来るだけ頑丈な箱を頼むよ。」
「分かりました。また何かあれば連絡ください!」
そう言うと、信次郎は取引先である金属加工会社を片っ端から当たった。広告代理店勤務だっただけに顔が広い。大手の会社で格安で信次郎が入れる頑丈な箱を作ってくれる会社を探すのは雑作もない事であった。問題はどの時代に時空支配人が居るかと言う事であった。それは出口や糸口の見えないまま、時だけが過ぎて行った。信次郎にとってはやっと辿り着ける手段を手に入れても、目的地が無いのではまるで意味の無い事に感じられた。




