第5章現代へ
気が付くと、そこには見慣れた風景があった。TVにスマホに携帯音楽プレイヤー、と言ったデジタル機器に囲まれた現代人の当たり前。
信次郎は思う。自分は現代に戻って来られたのか?その疑いを晴らしてくれたのは、新聞記事の日付であった。2012年11月2日…って事は俺が電車に乗ってタイムスリップした日ではないか?
自分は悪い夢でも見ていたのであろうか?とも、思った。しかしそれは、夢ではなかった。タイムスリップしていた間毎日つけていた日記が確かに信次郎のカバンの中には入っていて、毎日の様子が鮮明に記憶・記録されていた。
信次郎は時計をを見た。しかし、自分の時計はタイムスリップの影響かデタラメになっていた為、公の場所にある時計を見るしかなかった。それを確認すると、まだ午前11時位だった。電車はいつも午前9時頃乗って、30分位で会社に着く。この時間なら確実に会社はやっているはず。
信次郎は直感的に会社に行くべきであると思った。様々な意味においても何がどうなっているのかを信次郎は、理解出来ず把握も出来ていなかった。
先ずは正しき判断を得る為には、自分の上司に報告して指示を仰ぐのが、民間会社いや、社会人としての鉄則である。オフィスに着いても、昨日までと変わらず、同僚も先輩後輩問わず一生懸命、一心不乱に仕事をこなしていた。大きな会社だから、若手の一人が遅刻してきた位では、何とも思われないが、この人だけは違った。
「うわ、やべ、チーフ!?」
タイミング悪く、信次郎は直属の上司と鉢合わせになってしまった。その男の名は俵屋総右衛門と言う。まるで江戸時代の大地主であるかの様な現代日本には珍しい名前の人間だが、その名前には不釣り合いな、お洒落さと、カジュアルさと、先進技術への深い造形を持った男であった。
「信次郎?貴様、無断遅刻とは若いくせに肝が座っているな?」
「いえ。これには少々訳がありまして、聞いてもらえますか?」
「そうだな。理由があると言うのであると言うのなら、それを聞かずに怒るのは合理的ではないな。よし、聞かせてみろ!」
信次郎は、信じてもらえないかも知れないがと前置きしてからこの二時間の間に起こった事を全て包み隠さず話した。




