第4章気付き
昭和でのミッションもあと一つを残すところまで来ていたが、信次郎はこれまでのミッションを振り返っていた。すると、ある事に気付く。
相野光に関するものと誰かに会うと言った任務の二種類に分けられる、と。今の段階では確かな確信は無いが、どうやら時空支配人は信次郎の何かを試している。そう信次郎は思った。
あくまでも推測の域を出るものではないものの、何らかの意図をもって自分は動かされている事は分かって来た。これはもしかすると時空支配人の狙いが分かるかも知れないと淡い期待を持ったが、やはりどうあがいても時空支配人の掌の上で転がされている事を知る事になる。
戦争が終わり、相野光の自由な采配で経営されるFREE食堂は、狙い通りしっかりと進駐軍の兵士の胃袋を掴んでいた。風変わりなアメリカンスタイルはアメリカ万歳の日本人にも受け入れられ、店は盛況であった。
進次郎は相野光の手伝いをするそんな毎日の中で、やはり最後のミッションである巣鴨プリズンに行け。と言うミッションが気になって仕方が無かった。信次郎の無い頭で考えても巣鴨プリズンが巣鴨にある事位は分かるし、それが敗戦した責任をとる日本軍の将校が収容されている事位は知っていたが、巣鴨に近いはずのFREE食堂にあっても、その情報は一切入って来なかったのは不思議な事であった。
毎日の様に東京の街を探し回ったが、その様な施設は一切見当たらなかった。米兵や連合国軍人相手の商売を、しているFREE食堂に来る米兵士に、通じる英語で何とか聞いてみたが、下っ端の兵士からは巣鴨プリズンの有力な情報等たかが知れていた。
目標物が無いと言うのは、ちょっとした事件である。まさか自分の存在が歴史を狂わせてしまったのか?そんな事まで考えてもいたが、巣鴨プリズンが無いと言う事実だけは、揺るがなかった。日々の暮らしに困る事も無くなりつつあり、それなりの生計が立てられる様になったが、それ以上の変化は無かった。
ここから先に進む為にはどうすれば良いのかが分からない。相野光の手伝いをしているだけでは何も変わらない。時空支配人からのセンスの悪い手紙も来なくなってしまった。あれほどウザったいと思っていた物でも、先に進む為ならバンバン来て欲しい。そう思ってしまう信次郎もいた。動かない情勢の中にあって信次郎はコンパスを失った漂流者の様な心境であった。




