信次郎の意外な過去
「おい!しっかりしろ!」
信次郎はその女性を川まで運ぶと、持っていたハンカチを濡らし額にあてた。手の辺りからは少し出血していた為、拭いてあげた。それから30分後位経って、その女性が目を覚ました。
「ここは…川?」
「おう!気が付いたか?」
「貴方は…誰?」
「通りがかりに君が倒れていたから介抱してあげたのさ。」
「それはどうもありがとうございました。」
「君の名は?」
「相野光と申します。」
「俺は米田信次郎!よろしく。」
「では信さんと呼ばせて下さい。」
「構わないよ。」
「それより君はこの辺に住んでいたのかい?」
「はい。そうです。助けてもらったお礼に泊まって行かれませんか?」
「良いの?」
「私一人で暮らしていますので。」
「本当か?それはありがたい。」
「でもさっきの空襲でやられているかも?知れませんが?」
「何、すぐこの米田信次郎が修復してやるよ。」
相野光…。その人物の名に信次郎は運命を感じずにはいられなかった。相野の案内で住宅に戻ると、やはり空襲の被害でほとんど原型をとどめていなかった。
そこからは信次郎の腕の見せ所であった。木材を近くの山から拝借し、相野光の家で奇跡的に無事だったノコギリやトンカチで雨露をしのげる仮住まいを急ごしらえで再建した。相野光の意見も踏まえ作った。
何故こんな事が出来るのか?それは信次郎が大学生の時まで話は遡る。彼は建築学部の出身であり、2級建築士の資格を持ち大手ゼネコンに営業職だが勤めていた…。本来なら一級建築士の資格を取り自分のやりたい様に仕事をするのが夢だったが、ゼネコンの営業職はガチで忙しく、まぁ、それも人生かと半ば諦めかけていた。そんな矢先の新宿shock であったが、それがこの様な形で役に立つとは人生何があるか分からない。
突貫工事で相野光の自宅を一週間で完成させたので、相野光は喜び半分驚き半分と言う具合だった。しかし、今は戦時中の日本である。いつまた爆弾の雨が降ってくるやも分からない。信次郎は相野光を守る為に彼女に許可を取り同居する事にした。
相野光としても、家を再建してもらった手前同居をするのが嫌とは言いづらく、一緒に暮らすのは嫌とは言えない空気があった事は確かであった。




