第3章昭和へ
気が付くとそこは明らかに江戸時代では無い事は分かった。身に付けていたものはそのままだったが、信次郎は持ち歩いていたスーツに着替えた。
街が見渡せる小さな山の中にいた。(投げ出されていた)様で、そこから街らしきものを見た時に何か懐かしい様な感じを受けた。ここがどこかも分からないまま、信次郎が街へ行こうとした時であった。
急にサイレンの様なものが鳴った。何かの警報であるのは間違い無いが、大した事ではないとタカをくくっていたら、何やら戦闘機の様な鉄の塊が、街に爆弾の様な物を次々と投下しているのを見て、そのサイレンが初めて空襲警報だと言う事が分かった。
どうやらここは戦時中の日本(昭和16年~20年の間)であると言う事も信次郎は理解出来た。江戸での経験やソノカワとの出会いにより、江戸~昭和にタイムスリップした様だが、全く驚きは無かった。
それよりも、先ずは現状把握と本当にここが戦時中の日本である事を確める必要があった。情報収集の必要性はいつの時代も変わらない。しかし、敵国戦闘機により街は壊滅状態に陥っていた。火の手は瞬く間に街中を包み込んでいた。
水をかけて消火にあたっている人もいたのであるが、文字通り焼け石に水であり、火の勢いは止められなかった。そんな中で信次郎は、街から逃げる民衆がある場所へ向かい流れていく事に気が付く。その先に何があるのかは分からなかったが、どうやらその地区で決められた避難場所的な場所へ逃げている事が分かった。
信次郎もその流れに沿おうとしている時の事であった。道端で倒れている女性を発見した。どうやらまだ息はありそうだったが、街人は自分の事で精一杯で、その手負いの女性には目もくれる余裕は無かった様だ。
信次郎は近くに川があるのを山の上から確認していた為、そこへ女性を運ぶ事にした。怪我人を動かすのは良くないと言う事が分かっていた為、お姫様抱っこの要領でその女性を持ち上げて、川に向かった。幸いにして夜の空襲だった為、川にはほとんど人がいなかった。住宅街に爆弾をぶち込むのは理解できるが、川に爆弾を投下する様な意味の無い事をするとは、到底考えられなかった。と言う信次郎の予想が的中した。
しかし、女性ではあるが、人間とは重いものなのだなと思った。30秒くらい60㎏の女性を持ち上げる事は出来ても、川まで運ぶのは、正直しんどかった。何度も落ちそうになったが、気合いで川までの1㎞を一度も落とす事はなく運びきった信次郎であった。




