手塚山道彦と言う用心棒
手塚山道彦。信次郎を助けてくれた剣客はそう名乗った。素人目から見ても強い凄腕の剣客だった。
「お前さん名は?」
「米田信次郎と申します。手塚山さん、助けてくれてありがとうございました。お強いですな。」
「あのくらいの刺客を払い除けられない様では駄目だな。」
「別に剣豪になるつもりはありません。」
「いや、そう言う事じゃない。自分の身は自分で守る。当たり前だ。」
「何故助けてくれたのですか?」
「見ていられなかった。あんたこれから日光東照宮に向かうんだろ?」
「何故それを?この街道を通る人は日光東照宮に行く人ばかりだからとか?」
「まぁ、そんなところだ。でもこの辺は賊が出るぞ。」
「お礼は弾みますから用心棒をして貰えませんか?」
「5両で引き受けてやっても良いぞ?」
信次郎は所持金を確認した。
「4両しかないのですが…。」
「ちっ、仕方ねぇな。まぁ、まけてやるよ。」
「しかしお前さん、そんな立派な刀を持っていながら、剣術もろくに出来ないとはどういう事だ?」
「まぁ、色々訳ありでして…。」
「深くは聞かんが。」
「そう言えば、さっき信次郎を襲ったのもこの辺りの賊では無かった。」
「何者かが自分を狙っているのでしょうか?分かりませんが?」
「詳しくは存ぜぬが、この街道では確実に賊は出る。」
「助けて頂いて何ですが刀が使えないのは問題ですか?」
「江戸市中を歩いている侍で剣を扱えない者は侍ではない。」
「そうですよね。これからまた日光東照宮に向かいます。果たさねばならぬ事がありますから!」
「深くは聞かんが。只の用心棒だからな。」
「どうして刀と言う奴はこんなに重いのでしょうか?」
「普通に考えて、鉄の塊だからな。」
「こんな当たり前の会話しか出来なくてすみません。」
「しゃべらないと言う方法もあるし、それがクレバーだ。」
「でも話していないと何だか不安で不安で。」
「そう言う人種がいる事も充分理解している。」
「そろそろ到着ですね?」
「そうだな。」
「夜明けも迫って来ている。もう少しだ。」
「これお代の4両です。」
「お、ありがとう。」
「これも何かの縁だな。まぁ、達者でやれよ。」
「ありがとうございました。この恩は一生忘れません。」
「さぁ、もう日光東照宮は目の前だ。拙者はこれで失礼する。」
「ここが日光東照宮か…。思ったより小さいんだな。」
信次郎は手塚山道彦のお陰で、やっとの想いで日光東照宮に到着する事が出来たのであった。もう所持金もほぼ使いきり、賊など怖くはなくなった。




