第2章狙いは何?
「時空支配人…。か。誰が何の為に俺にこんな事するかなぁ?」
信次郎は七三吉の屋敷に籠ってずっとその事ばかりを考えていた。街に繰り出しても、何一つ情報は得られないし、エネルギーの無駄である事は分かっていた。
事実、食事以外は人と会う事を避けていたし、分かっている事から分からない事を推理する事は苦ではなかった。
しかし、得られる情報は皆無であったし、ある程度掘り下げられる所までは行けるのであるが、いつも同じ所で行き詰まるのであった。それは狙いが何かと言う事である。
結局、自分をタイムスリップさせたのは、時空支配人なる人物である事は分かった。だが、その人物の正体すら分からず何を目的にこの様な事をするのか?どんなルートからアプローチをかけてもそこで考えが止まり、いつも壁にあたる。
信次郎にしてみれば、迷惑以外の何物でもないのだが、そんなことを言い出すとイラついて来るのが分かっていたので、その事自体を考える事を意識的に避けていた。
そんな時にいつも脳裏に浮かぶのが、現代にいる恋人の明日香であった。大学時代から同棲していて、もう結婚まで秒読みだった。にも関わらず、それを時空支配人なる人物に邪魔をされてしまった。そう考えると次第に信次郎は時空支配人に対して殺意を抱く様になっていた。
まぁ、それは最も憎しみのバロメータを例えた表現であり、大切な明日香はどうしているか、案じない日は無かった。そんな日々の中で、久しぶりに江戸の街に出かける事になった。引きこもりの信次郎に気分転換をして貰おうと、七三吉に誘われて行く事にした。
もう何日も外に出ていなかった為、七三吉の誘いはありがたかった。そんな気を使って貰う程の恩を七三吉に売った訳でも、七三吉に利益のある様な事をしていた訳でも無い。七三吉はそう言った目先の利得に流されない芯の強い武士であった。現代的に言えば古風である事は決して誉め言葉ではない。それでも七三吉には古き良き時代の侍像を感じずにはいられなかった。
信次郎は先の見通しも立たないことを申し訳なく思い、それを素直に七三吉に伝えた。それは間違いなのか、正しい事なのか、今の信次郎には分かるはずも無かったのである。




