プロローグ
「アリア。お前はオルメリア家にとって相応しくない。夫との離婚も話を付けてある。だから今日で出て行け」
「家を出る前に、せめて娘のメニに私が母親だと言わせて下さい」
「あらお姉様。メニは私の子供でしてよ。ね、メニ」
「うん、お母様」
酷い話だった。突然家を出て行いけならまだしも、本当にお腹を痛めて産んだ子がいつの間にか自分の子ではないということになっている。
どんなことをメニに吹き込んだのか、この子もいつの間にか妹のクレアを母親だと思うようになってしまった。
私は絶望に打ちひしがれた。それでも父の瞳は冷酷なままで早く家を出て行けと語っている。そんな絶望の間際にいる私を見て妹のクレアはニヤニヤと口元に笑みを浮かべている。
だから私は自分の娘に触れることもできず、諦めて父とクレアに向かって了承の返事を出す。
「……わかりましたお父様。私は家を出ます。その代わりメニを立派に育てて下さい」
「ふん。そんなことお前に言われずとも立派に育てる。お前は余計な心配はせずにさっさと出て行け。なあ、クレア」
「かわいそうなお姉様。でもお父様の言うとおり魔法の一つも使えないようでは家の役に立ちそうもありませんので。さっさと出て行った方がいいと思いますわ」
この家、オルメリア家は公爵家であり、さまざまな商売に手を出している富豪だ。更に国での家の地位を決める魔法の名手としても名高い。
父もクレアも高度な魔法を使え、その名は国でも有名だった。それに引き換え私は魔法が使えない落ちこぼれだった。どうして使えないのか私にも分からない。遺伝なのか、それとも私は生まれながらにして落第生レベルなのかそれすらもわからない。
勿論娘のメニは4歳ながら既に魔法を習得しつつある。才能があると言ってもいいだろう。
この日を持ってして、私は家を出ることになった。家に対して怒るとかそんな感情すら沸かない。私はあまり怒るということはしない。いや、ずっとこの家で虐められてきたせいで怒るということがどんなことかさえも忘れかかっていると言った方が正しいだろう。
私が外に出るのに当たって家から出たお金はない。私がこつこつと貯めて貯金してきた小銭を持って私は家を出ることにした。
バックを肩に抱え、着の身着のまま出て行く私を見て父はその時初めて顔に笑みを浮かべた。それはとても醜悪で見ていられない顔だった。それほどまでに私のことが嫌いなのかと人間性を疑うレベルの顔だった。
妹のクレアはメニとの手をしっかりと繋ぎながら、口元にニヤニヤとした笑みを浮かべて私の姿を見ていた。私はそんな二人とメニになにも言えず、メニを見て瞳に涙を浮かべながら家から一歩一歩離れることになった。
そんな私を見て使用人の一部はひそひそとなにかを噂話をしているが、私は気がつかない振りをして家から完全に離れるのだった。
これからどうしようと、そんなことを考えつつ、どちらかと言えばネガティブな気持ちになって私は当てのない旅に出る。
これは誰一人味方のいない私、アリア・オルメリア二十一歳が虐められて家を追い出された話である。