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 揚げたての皮スナックはすぐに皿から消えた。


「うまい! 捨てていたジャガイモの皮が食べられるなんてなぁ。勿体ないことしていた」


「ほんとそうだね。ルーチェちゃんが揚げてくれたスナックをアテに、お父さんとキンキンに冷えたエールが家で飲めるね」


「うんうん」


「あ、親父、お袋ずるい、俺も欲しい」

「今日はたくさん剥いたので、ニックさんの分もありますよ」


「やったぁ!」


 揚げ終わり後片付けをする。いつもは片づけが終わるとすぐに帰るのだけど、明日はガリタ定食の定休日で、大将さん、女将さんたちはのんびり寛いでいた。


 片付けを終えた私も加わり、たわいのない話をして、みんなは「お疲れさん」と帰り。

 私も二階の自分の部屋に戻った。


「ふうっ、疲れた……」


 制服のまま、ゴロンとベッドに寝転んた。


「まさか、庶民の味コロッケがこんなに人気になるなんて、思いもしなかったわ」


 前世でも異世界でも、美味しい食べ物はみんなを幸せにするんだ。


 そういえば先輩に似ていたお客さんも、美味しそうに揚げたてのコロッケ食べていたなぁ。あのお客さん髪の色は違うけど、学園で出会ったシエル先輩に似ていた。



「……先輩に会いたいなぁ」



 学園で私の一個上、銀髪、赤い三白眼の瞳。

 その先輩と知り合ったのは私が二年に上がったころ。

 一年のときはカロール殿下がまだ好きで、もしかしたらゲームの通りに、ならないかもと夢みていた。


 現実は違った。


 ヒロイン、リリーナはふわふわピンクの髪と、かわいい大きな瞳でカロール殿下に近付き仲良くなっていった。彼女はそれだけではなく、つぎつぎと攻略対象を落としていき。学園に入学してものの数ヶ月で、彼女の周りには攻略対象が集まっていた。



 カロール殿下の横を歩き、二人見合って微笑む。そんな彼の姿を見て、私はこの恋を諦めるしかなかった。


 このまま、何もせず三年間を過せば婚約破棄だけで終わる? と思っていた。

 だけど、彼女はそれを許さなかった。悪役は悪役をやれとでも言うのかーー根も葉もない噂が立つようになった。


『ルーチェ嬢、貴様、リリーナの教科書を破っただろう!』


『ルーチェ、リリーナに足を引っ掛けて転ばしただろう!』


『また、お前か……』


 殿下の誕生会の舞踏会でエスコートされなかった私が嫉妬して、リリーナのドレスにワインをかけたとも言われた。そのとき私はバルコニーでひとりケーキを食べていた。みていた学生も多く反論したのだけど、結局はカロール殿下の声で私のせいになった。


『…………』


 いままではカロール殿下が好きだったから耐えてこられたのだけど……"あきらめる"と決めたときから彼らが怖くなった。移った心と、進んだ物語はもう変えられない、彼らから離れて好きな魔法のことを学ぼうと決めた。


 

 

 学園には古い魔導書などが置かれた第3書庫がある。そこに通うようになって、1個上の魔法学科ーー黒いローブ、銀髪、切長の赤い瞳のシエル先輩と出会った。


 はじめは先輩に睨まれたなぁ。


『チッ、俺のとっておきの場所……だった、のにな』


 第3書庫は彼の昼寝の場所だったらしい。


 乙女ゲームではここ第3書庫でのイベントはない。この男性とカロール殿下との接点はないだろう。あの人たちから離れて"好きなことを始める"と決めた私は彼に食い下がる。


『ここ、第3書庫にしか魔導書の本が置いてないんです。あなたのお昼寝の邪魔にならないよう、隅っこで静かに本を読みますわ。私のことはお構いなく、いないものだと思ってください』


『ケッ、好きにしろ!』


 先輩も最初は「貴族の戯れか?」と思っていだけど。毎日、通うウチに気になったのか話しかけてきた。


『お前、毎日ここで魔導書を読んでるが、魔法が好きなのか?』


『私はお前ではありません、ルーチェといいますわ。魔法は好きですが、残念ながら私には魔力はありませんでした……すこしでも魔法に触れたいんです』


 そう伝えると、彼の赤い瞳が輝いた。


『ふぅん、俺はシエル。お気楽な貴族にしては珍しいな……だが、いまお前、いや、ルーチェ様が読んでいる本は上級者向けで難しい。魔法に関しての本を読むなら……俺に付いてこい』


 彼の後に付いていくと、私に何冊か本を選んでくれた。


『ルーチェ、様。初心者はこれとこれを先に読め……読んだほうがいい』


『普段どおりにしゃべってください。その方が私も落ち着くので』


『そうかよ』

 

 ぶっきらぼうに本棚からポイポイっと、二冊の魔導書を渡された。彼は私に本を渡すと、さっさと元の席に歩いて行ってしまう。


『あ、ありがとうございます。シエル先輩』


『先輩……フン、読み終わったら言えよ、次のを俺が選んでやる』


(つぎ? けっこう面倒見がいい……?)


 彼が選んでくれて本は私が選んだ本よりも、分かりやすく面白かった。お礼を言おうと彼の席を見てのだけど、いつの間にか眠っていたので、お礼に飴玉をおいた。 



 はじめは怖い人なのかと思ったのだけど、優しい先輩なんだ。それから第3書庫に来るのが楽しくなった。

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