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 長い白銀の髪をポニーテールにすれば、準備は終わり。


 その準備が終わる前に「ルーチェちゃん、起きてる? 仕込みを始めるよ!」と、下からおばちゃん――女将さんの元気な声が聞こえてきた。


 もう、そんな時間? と壁にかけた時計をみても、仕込みが始まるには一時間はやい。もしかして、壁にはった日替わり定食表を確認すると、お店で二番人気のコロッケ定食の日。


(今日のお昼は港街から、揚げたてのコロッケを求めて、たくさんのお客さんがくるわ)


「ルーチェちゃん?」

「いま、行きます!」


 返事をかえして木製の階段をおり、いつものように店の裏に降りると。山盛りのジャガイモのカゴがドーンと三つも置かれていた。


 コロッケとつけ合わせのポテトサラダも作るからだろう。

 さっそくカゴを用意して皮剥きの支度を始めると、裏の扉が開き丸椅子を二つ持った女将さんが現れた。


「ルーチェちゃん、おはよう」


「おはようございます。女将さん、この前よりもジャガイモの数、増えましたよね」


「ああ、増えたね。コロッケ定食とポテトサラダはウチの人気だからね。ルーチェちゃんも朝食に食べるだろう?」


「もちろん、いただきます」

「じゃあ、ジャガイモを全部、剥こうかね」



 女将さんから丸椅子を受け取りジャガイモをむき始める。小型ナイフをつかい手際よく、ジャガイモの皮をむく私をみた、女将さんはウンウン頷き微笑んだ。


「ルーチェちゃん、ジャガイモの皮剥きが、上手くなったね」


「え、ほんとうですか?」


 嬉しい女将さんに褒められた。



 ここで働きはじめた半年前――いまのようにジャガイモを剥いていたのだけど、前世ではピーラーを使ってしか、野菜の皮を剥いたことがない私は困った。


 はじめは小型ナイフがうまく使えず、なんども指を切ったし。ジャガイモが可哀想なくらいに小さく剥けたりもした。いまだって、私がジャガイモを一個むくまでに、女将さんはジャガイモを三個も剥いてしまう。


 ーーまだ、まだね。

 

「ルーチェちゃん、ジャガイモの皮むき後もう少しで終わるよ!」


「はい!」

 

 

 

 *



 

「お袋、ルーチェ」


 裏口の扉がガチャッと開き、女将さんと大将さんの、ひとり息子の二つ上のニックが裏口から顔を出した。 


「ニックさん、おはようございます」

「よっ、ルーチェ! ジャガイモの剥きご苦労さん。朝食、何にする?」


 朝食は、


「ポテトサラダをはさんだ、分厚いサンドイッチをおねがいします!」

 

 意気込んでいった私に、プッとニックは笑い。


「また、それかよ。お袋もルーチェと同じでいい?」


「そうだね、私もそれでお願いしょうかね」


 わかったとニックは頷き、剥きおわったジャガイモのカゴを持って厨房に戻っていった。





 三カゴ分あった、たくさんのジャガイモも残り二個。


「ルーチェちゃん、ラスト!」


 女将さんの声でジャガイモの皮剥きが終わった。朝食前に大量にでた皮の片付けを始めるのだけど、このジャガイモの皮を捨てるのはもったいない。


 皮をキレイに洗って水気を取り、高温の油で揚げると使った油も綺麗になって、塩を振ればサクサク立派なおやつになる。


「女将さん、この剥いたジャガイモの皮をください!」


 と、お願いしたところ。

 私の意図がわかったのか女将さんは笑い。


「もしかして、ジャガイモの皮を素揚げにするのかい?」


「はい、そうです」


「いいよ。私も食べたいから、半分こね」


 皮をザルに移して裏口近くの井戸水で、二人並んで皮を洗い始めた。


「そうだ、ルーチェちゃんにいいこと教えてあげる。揚げたてのジャガイモの皮に塩と黒胡椒を振ると、ピリリとして美味しいよ」


「塩と黒胡椒ですかぁ、いいですね」


 後は七味にマヨネーズ、味噌、揚げ皮の味付けに花が咲いていた。裏口の扉が開きふたたびニックが顔を出して、私たちの話が聞こえたのだろう。


「俺は七味、マヨと醤油派かな? 朝食出来たよ」


「じゃー、朝食に行こうかね」

「はい、お腹空きました」


 洗いを終わったジャガイモの水を切り、天日干しをして裏口から店に入る。入ったすぐの厨房に仕込み中のおじさんーー大将さんの後ろ姿がみえた。


「大将さん、おはようございます」

「おはよう、ルーチェ。朝食できてるよ」


 厨房を抜けて店のホールのテーブルには、ハムエッグ、スープ、出来立ての分厚いポテトサラダのサンドイッチと、一口サイズのサンドイッチ、コーヒーが置かれていた。


 私と女将さんはテーブルに着き、手を合わせる。


「いただきます……んんっ! ジャガイモ、ハム、キュウリ、ニンジンのポテトサラダ美味しい!」


「おいしいね。とくにルーチェちゃんが教えてくれた、このマヨネーズがいい味だしてるね」


「はい、マヨネーズは最高です」


 前世、料理が人並みに好きで、マヨラーだった私はマヨネーズも自分で作っていた。お礼も兼ねて、知っている料理をいくつかノートに書いて伝えた。


 そのなかにマヨネーズあったんだ。

 普通の手作りマヨネーズが、大将さんの手により絶品マヨネーズにかわった。


「んん、最高!」


「プッ、ルーチェの一口はいつみてもデカいな」


 ニックは"ニシシッ"笑いながら自分の朝食を持ち、私の前のテーブルに着き食事を始めた。

 その前でポテトサラダのサンドイッチにかぶりつく私に。


「しっかし、ルーチェはなんでも美味そうに食べるなぁ」


「大将さんが作る料理はどれも美味しいもの」


「おい、ルーチェ、俺は? 俺も親父と一緒に作ってるんだけど」


「フフッ、ニックさんが作る料理も美味しいよ」


「だろ? 今度、一緒に何か作ろうぜ」

「いいわよ」


「二人で作るのか? わかった、作った料理を味見してやろう」


 そこに仕込みを終わらせた大将さんも加わる。


「お父さんがするんなら、私も味見するよ」


「親父とお袋が味見役か……ルーチェなに作る?」


「そうね。なにがいいかなぁ? だし、鳥と卵を使った親子丼とか?」


「親子丼? うまそうな料理だな」


 みんなで他愛もない話をしながらテーブルをかこむ、この朝食の時間が好き。

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