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 私に魔力が芽生えた……うれしい。と喜ぶ私に先輩はすぐに魔法は使うなといった。それは城での事あるからだろう。


「シエルさんが、一から私に魔法を教えてください」

「わかった。時間ができたら基礎からゆっくりな」


「もしかして、ルーチェちゃんもオレの国に来るの? やった!」


「抱っこしてっス」

「お嬢、よろしく」


 子犬ちゃんと、ひょっこりあらわれたガット君、福ちゃんは先輩を退け、私に飛びついた。


「福ちゃん、ガット君、こちらこそよろしくね」


 ふたりをギュッと抱きしめたのだけど、のけられた先輩は私からふたりを引き剥がした。


「ルーは俺のだ! 触るな、近寄るな、お前らは甘えるなぁー!」


 先輩はみんなを追い払い、私を抱きしめた。





 


 先輩たちは国に帰る、子犬ちゃん呪い、私の魔力の話は終わった。福ちゃんとガット君は寝床にかえり、ラエルさんと子犬ちゃんはお風呂に行き。先輩と私はそのままテーブルで、紅茶を飲みまったりしていた。

 


 キッチンの時計が9時半をまわる。明日も仕事だからと、帰ることにした。

 

「さてと、遅くなったし帰るね」


「そうだな、送るよ。……ルー、明日になったら店の人に伝えるのだろ?」


 私はそうだと頷く。明日は――大将さん、女将さん、チックさんにたくさんの感謝と、ありがとうを伝えたい。


「そのとき、俺もついて行くよ」


「ほんと? ありがとう……シエルさん。おやすみなさい」


 魔法屋さんから部屋に戻り、のこりの部屋の片付けと掃除を始めた。ガリタ食堂にきて約半年ぐらい、だったけど楽しかったな。


 婚約破棄をされて、家を飛び出し、大将さんと女将さんに出会い、この部屋に住み出して2、3日たった頃。海側の窓に福ちゃんが現れた。ここに来た頃は失敗もたくさんし、悲しくて泣いた日もあった。


 大将さん、女将さん、ニックさんは優しくて、ここで声を上げて笑えた。いい思い出を思いだして、鼻の奥がツーンとして涙が込み上げてくる。


 ……でも私は、シエルさんに着いて行くって決めた。この気持ちは変わらない。


「女将さん達と最後の別れじゃない。手紙だって書ける、会いたければ会いにだって来れる。何年後かには先輩との子供を連れて……会いにこれる」


 そうだ、レシピノートに新しい料理書いてお礼に渡そう。この日、私の部屋の明かりは遅くまでついていた。いつもより遅く寝たのに――いつもより早く目が覚めた。それなのに福ちゃんはそれ以上に早く、海側の窓に来ていた。  


「福ちゃん、おはよう」


「ホーホー、おはよう」


「そうだ、福ちゃん。これからよろしくね」

「こちらこそ、よろしく頼む。また、後でな」


 モフモフな羽で、私の頭をなでなで飛び去って行った。


「また、後でね!」


 鏡の前で髪をセットして、ピシッと仕事服に着替えた。今日でこの服を着るの最後になる。すべての準備が終わった頃、壁にスーッと扉が現れてコンコンとノックされた。


「ルー、入ってもいいか?」

「どうぞ、先輩」


 返事を返すと、扉が開き先輩が入ってきた。


「おはよう、ルー」

「おはよう、シエル先輩」


 見慣れた黒いローブ姿の先輩が現れる。この日、先輩はフードは被っておらず、黒い髪はいつもより綺麗にセットされていた。


「下に行く時間だろ、行くか」


「うん」


 短い返事で緊張が伝わったのか、大丈夫だと私の手を握り、一階に降りると仕込みの準備をする女将さんの姿が見えた。


「おはようございます、女将さん」


「ルーチェちゃんおはよう。あら、後ろの人はまさか! ルーチェちゃんの彼氏?」



「「はぁ! ルーチェに彼氏だって!」」


 

 女将さんの声が厨房にも聞こえたのかニックさんが飛び出てきた。その後にゆっくり大将さんも出てくる。早く、何か言わなくちゃと焦る……でも、焦れば焦るほど喉が鳴り口が乾く。


「あの……あの、わ、私」


 みんな集まると何から伝えればいいのか、頭の中はごちゃ混ぜだ。


「ルー、俺から言おうか?」

「でも、シエルさん」


「なんだね……彼とルーチェちゃんは私達に何か話があるんだね。店が終わってからでもいいかい?」


 それもそう、今日もたくさんのお客さんが、ガリタ食堂の美味しいご飯を待っている。


「はい、後で話します」

「ルー、俺も手伝うよ」


「お、手伝うのはいいけど、けっこう大変だよ。あんたに出来るのかい?」

 

「大丈夫です」


 今日のガリタ食堂のメニューは肉厚トンカツ定食! 衣がサク、サクッと揚がった肉厚トンカツに甘めのソースとマスタードが合う。大盛りのキャベツの千切りと、大根と揚げの味噌汁、付け合わせはきゅうりと白菜の浅漬け。


「さて、キャベツの千切りを始めるよ!」


 私の最後の仕込みが始まった。

 






「七番テーブルよろしく!」


「はい!」


 先輩もホールに立ち、出来立ての料理を運ぶ。前に一度だけやっているからか、スムーズに料理を運んでいた。働く先輩の姿を見るの、初めてだ。


「ほら、ルーチェちゃん。素敵だからって見惚れてないの。あなたもよ」


「すみません、女将さん」  

「すみません……」


 肉厚トンカツ定食は飛ぶように出て行き、開店からお昼過ぎには売り切れた。後片付けを終えてみんなはテーブルに集まる。


「ルーチェちゃん、シエル君、お疲れ様、じゃ、話を聞こうかね」


「はい。私がお付き合いをしている、シエルさんです。出会いは学園で一つ上の先輩でした」


「ルーチェさんと、お付き合いをさせていただいております、シエルです。」

 

 そのあと、私はゆっくりみんなに伝えた。女将さん達に挨拶をしようと話していたのだけど、シエルさんが急用で――彼の母国ストレーガ国に戻らなくてはならなくなり。ここを辞めて彼に着いて行きたいと話した。


 頷きなから私の話を聞き、女将さんと大将さんはしばらく考えて話しはじめた。


「今日みていて、2人はお似合いだと思ったよ。ルーチェちゃんと出会って半年か……いつのまにか、こんなに素敵な人を見つけたんだね、寂しくなるけど幸せになってね」


「そうだ、幸せになりなさい。ルーチェ、何かあったらすぐに戻っておいで。2階の部屋はいつでも空いてるからな」


 女将さん、大将さんありがとう。

 ガタッと、席を立つニックさん。


「おい、ルーチェを、俺の妹を必ず幸せにしてやってくれ!」


 そう、先輩に手の前に手をだした。

 先輩も立ち上がり、ニックさんの手をにぎり。


「はい、必ずルーは俺が幸せにします。大切にして、決して離さない」


「よし、言ったな。男同士の約束だ。ルーチェ、大切にしてもらえよ!」


「うん、ありがとうニックさん」


 大将さんと女将さんに料理を書いたレシピノートをわたした。受け取った、女将さんは大切に胸にノートを抱きしめた。


「ありがとう。ルーチェちゃん、いつでもここを家だと思って帰っておいで……」


「はい、帰ってきます。お、お父さん、お母さん、お兄ちゃん」


「あら、可愛い娘が嫁に行っちゃうわね」

「そうだな。ルーチェ、元気でな」


 笑顔の大将さんと、涙目の女将さんに抱きしめてもらった。ニックさんは何か言いたげだけど、笑って、


「ルーチェ……幸せになれよ」


「はい、ニックさんも……ほんとうに、ほんとうに、お世話になりました」

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