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 あ、まずい。ライト魔法の明かりがみえる……城の魔法使いだ。だけど、魔力なしの私では魔力探知機に引っかからないためか、むこうは苦戦している。


 私は暗闇にまぎれ込み、ひっしに走って逃げた。


 村の空き家を見つけて、そこで一晩休んで早朝、村をあとにする。緊張であまり空腹を感じないけど、動くために持ってきたお菓子と果物をお腹におさめ、ちがう村の空き家を見つけて眠った。



 

 こうして何日かやり過ごしてきたのだけど、畑しかない道に迷い込んでしまった。


(この道、周りに畑しかない……近くに村もみえない? 宿になる空き家がないわ)


 歩きつかれたから休憩しようと思っていたのに、眠るところも隠れるところもなく、私は呆然と立ち尽くした。


 その私の横を何台か荷馬車が通り過ぎていく。


 次にきた荷馬車は私の近くで止まり、荷馬車の荷台からおばさんが顔をのぞかせ、私に声をかけてきた。


「お嬢さん、こんな畑しかない畑道で何してんだい?」

「畑道?」

「そうだよ。農家が使う道だよ」


 農家の人が使う道? 


「そうだったんですね、ありがとうございます。……あの、この辺に村はありませんか?」


 日暮れも近く、今日の眠るところを確保しなくてはならない。


「この辺に村はないね。……この辺は野犬もでるから、近くまで乗っていくかい?」

「…………いいですか? おねがいします」


 おばさんに手伝ってもらい荷台に乗ると、中は樽にはいった野菜と果物などが置かれていた。その空いたスペースに座ると、おばさんはなにも言わず隣に座った。


「お父さん、いいよ」

「おねがいします」


 ゆるやかに荷馬車が走りだす。

 一人じゃない、つかの間の安心に私はすぐ眠ってしまった。

 



「………っ」


「お父さん。この子、寝ながら泣いているよ」

「……そうか、何か辛い目にあったんだな」


 このとき私は努力しても報われなかった、日の夢をみていた。




「着いたよ、起きて」

「んあ? は、はい」


 目を覚ますと荷台の中は空っぽ。……おじさんもおばさんは私を起こさず作業したようだ。その荷台から降りると潮の香りがして、近くに海がみえた。


(海だ、近くに海があるのなら、港もあるはず……)


 私はカバンをなでた。ここで持ってきた宝石をすべて売って船に乗ろう。そう決めた私は荷馬車を操縦していたおじさんと、乗せてくれたおばさんに頭を下げた。


「ここまで荷馬車に乗せていただき、ありがとうございました」


 お礼を言って立ち去ろうとしたのだけど。

 おばさんに「うち定食屋やってるんだ、お腹すいていないかい?」と、手を掴まれて強引に店の中に連れていかれる。


 うわぁっ。


 木造作りの定食屋の中は懐かしい匂いで溢れていた。

 

(こ、この香ばしい香りって、もしかして醤油の香り?)


 どうしてここに醤油が? 驚きと。婚約破棄後から、あまり空腹を感じていなかったお腹が自然に"ぐうぅ~"と鳴った。


「あっ……すみません」


 恥ずかしくて、お腹をおさえた。


「はははっ、やっぱりお腹が空いていたね。あんた、この子にうまいもん一杯作ってやって!」


「わかった、ちょっと待ってな!」


 おじさんが厨房に入り、しばらくしていい香りがしてきた。そして、できた料理がテーブルに並んでいく。


「はい、たんとおたべ」

「いただきます」


 おばさんにもらったお茶碗によそわれていたのは……これってお米だ。箸でつまみ食べてみる……あ、ああ、甘い、前世と同じ味。


 あまりの懐かしさに口元が笑った。


 塩魚、卵焼き、白菜の漬物……ずっと、求めていた味に箸がとまらず、涙も止まらない。


「おいしいぃ……美味しいよぉ」


 ポロポロ泣きながら、ガツガツ食べだした私と、その食べっぷりに驚くおばさんは「気に入った! 行くところがないのならうちで働きな!」と言ってくれた。


 おじさんも料理をしながら、厨房でうなずいていた。

 

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