表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/57

32

 数分前、シエル先輩の首を噛んだのは私だ。



「おい、シエル。起きろ!」



 さっきから殿下が呼んでも、先輩はぐっすり寝てしまっているのか、なかなか起きない。カロールが何度も呼びかけ、イライラしているのがわかる。


 私は慌て。


「先輩、シエル先輩」


 と、小声で呼んでも、両手で揺すっても起きない。先に"ごめんなさい"と謝り、先輩の首筋をカプッとかじった。



「………っ?」



 痛かったのかビクッと体を動かし目を覚ました。その振動に私は肩か転げ落ち、先輩の膝の上に乗った。



 ーーやばい、カロール殿下と目が合った。



 その私を殿下はいぶがしげに見て。


「そいつはなんだ?」


 と聞かれ、先輩は自分の使い魔だと説明をした。それから何も聞いてこないとなると、カロールは先輩の話を信じたみたい。





 ゆるやかに揺れる馬車の窓から、外の景色を眺めていたカロールは外から目を離さず。


「シエル、もう直ぐでラザールの街に着く。うつつを抜かすな、気合を入れろよ」


「はい」


 しばらくして街の門をくぐり、馬車は馬車着き場に止まる。となりに騎士達が乗る荷馬車も横付けして止まった。


 馬車の窓から見えるのは、王都から東に進んだ先にあるラザールの街。この街は私がいるモール港街よりも、大きく栄えた街だった。


 騎士たちが準備をはじめたのか、外が騒がしくなる。


 ルーチェ捜査隊が探すのは、どうやら街の中だけではなく街の周辺にも行くらしい。準備が整った数人の騎士が、カロールにひと声かけ徒歩で探しにいった。殿下はその騎士たちを見送ると先輩に。


「シエルは残った騎士達と、ラザールの街中を探してこい。それと、肩にいるそいつはここに置いて行け」


 と、私に指をさした。


 

 

 +




 静かな馬車の中でカリカリ、カリカリと音が鳴る。殿下の側近が買ってきた、ひまわりの種を高級ベルベット生地の上で遠慮せず、殻のゴミを出しながら食べていた。

 

(気にするのも変だし。ハムスターって普通はこうだよね)


 それに、ひまわりの種って食べてみると案外おいしい。前歯で殻を剥いてから、なかの白い実を食べていた……でも、余り食べない方がいいかな? 種を持って首を傾げた。



「フフ、それはそんなに美味いのか?」 



 眉をひそめていた殿下がふと笑った……昔はよく、そんな風に笑っていた。


 ーー私はその笑顔をみるのが好きだった。



「どうした、もう食べないのか?」



 種を持ったまま立ち尽くす私に、殿下の手が伸びてきて、私は抵抗なく殿下の手のひらに乗せられる。


「可愛いな、お前は本当にシエルの使い魔なのか?」


 小さな体を使い"そうだ"と頷く。


「シエルは、ルーチェ嬢を隠していないのか?」


 同じように"そうだ"と頷くと、それを見た彼の瞳は、悲しみに揺れたように感じた。


「そうか、隠していないか……」


 小さく呟き私を元の場所に戻すと、背もたれに寄りかかり目をつむった。そして、ため息と共に「……ルーチェ嬢」まるで愛しい人を呼ぶように、殿下は私の名前を呼んだ。



(……いまさら遅い)



 私は無視して、カリカリ、カリカリとひまわりの種をかじった……あなたの元になんて2度と戻らない。追いかけてくるのなら全力で逃げきる。


 一時間くらいが立つころ、私を探して街を回っていた先輩たちと、街の周辺を探していた騎士が戻ってくる。



「どうだ、いたか? 何か手がかりはあったのか?」



「殿下、この街にもルーチェ様はおりません。綺麗な娘が街に移り住んだなどという、噂もありませんでした」


「そうか、いないか……」




 考え込む殿下と、先輩にルーチェ様と呼ばれ、綺麗な娘と言われてこそばゆくなり。手に持っていた、ひまわりの種をポロっと椅子の上に落とす。


 それに気付いた先輩がのぞき込み。


「ん、ルル? 大人しく留守番をしていたか?」


 コクリと頷く。


「おいでルル」


 名前を呼んで、手を出した先輩の掌の上に飛び乗った。ひまわりの種は先輩が回収してくれたので、私は先輩の首筋に回った。


 ーーあ、赤く腫れている?


 それは、さっき噛んだあと。"先輩、ごめんなさい"の意味を込めて、ペロ、ペロッと舐めた。



「おお、くっ……ルル、戯れるのはやめなさい」

 


 シエル先輩にきつく言われて、肩の上に移動して座った。怒ったの? と、見上げた先にみえたのは、真っ赤に染まった先輩の耳だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ