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31(シエルの話)

 城の中で過ごして、そろそろ一年が経つ。


 王妃は国王陛下を操り隣国と戦争を始めた。王妃にはどうしても手に入れたい、極上の魔力があるらしい。それさえ手に入れれば、このヘクセ大陸を我がモノにできると王妃は言っていた。


〈おい、ラエル〉

〈なんだい、兄さん〉


 一年の間に王妃に聞こえないよう、俺たちは念話も出来るようになった。俺は書庫でラエルは牢屋で話しながら、お互いの属性の魔法を覚えた。


「皆のもの! 私のため、存分に働きなさい」


「「はっ、王妃様のために!」」


 


 ついに王妃が動いた――魔力で人を操り戦わせるため、王妃が城を開ける時間が長くなる。逃げるならこのときだと計画を練っていた。


 あらかじめ炎の魔法を使い胸の焼印を焼き、軽く処置をした。これで王妃から逃げても、しばらくは俺の居場所が分からなくなる。


 魔力を戦場で使用する王妃は、俺の魔力をあてにして戦場にまで連れて来た。俺は王妃が魔力放出に集中する時を狙い、そっと側を離れて転移魔法を発動した。


 俺は出口。ラエルは入り口だ。


〈行くよ、兄さん〉

〈来い、弟よ。逃げるぞ!〉


 戦場の離れで落ち合った俺たちは、互いの手を繋ぎ走った。それに気付いた、王妃は黒い蛇を俺たちに向けて放つ。


〈兄さん!〉

〈泣くな、おびえるな、ラエル! いまは歯を食いしばれ!〉


 迫る恐怖心に励ましながら打ち勝ち、振り返らず森や道を走った。


 ――そのとき、


〈おーい、そこの少年達!〉


 のんびりした、男性の声が念話で飛んできて、俺たちは足を止めその声の主を探す。


〈お前は誰だ!〉


〈ここに着いたら説明する、早くこっちにおいで!〉


〈嘘つけ。そうやっておびき寄せて、俺達を捕まえる気だろう!〉


〈大丈夫、そんなことはしないよ。安心して君たちは、左の森の中に飛び込んでおいで〉


〈そんな、甘い言葉なんか信用出来るか!〉


〈信用してよ、大丈夫。私が守る〉


 念話で足が止まり、女王が放った追っての蛇が近くまで来ていた。となりで、ラエルはガタガタ震えている。弟を守らないと――こうなったら、一か八か念話の男性の話を信じるしかない!


〈ほんとうなんだな。ほんとうに、俺たちを守ってくれるのだな〉


〈ああ、この命に変えても、かならず君たちを守る〉


 俺はその声を信じて男性の言う通り、森の中に飛び込んだ。そんな俺たちの目の前に、旗をなびかせた大軍が潜んでいた。俺とラエルはというと、その真ん中に立つ金色の髪、碧眼の男に抱き抱えられていた。


 ――男は微笑み、俺達の頭を撫で回す。


「よく逃げて来た、君が兄のシエル君で弟のラエル君だね。あとは私に任せろ!」


 男はすぐに救護班を呼び俺たちを預けた。その中に俺たちの両親がいた。俺は両親を見た途端に涙が溢れた……ようやく助かったと思った途端に、忘れていた胸の痛みが再開して、俺はその場で意識を失った。







 俺が目を覚ました頃には全て終わっていた。捕まっていた子供達はみんな親元に帰り。黒魔女――王妃は捕まり幽閉されて、国王は王の座を退いていた。


 あのとき助けてくれた、あの人は大国ストレーガの現国王陛下だった。自ら兵を引き隣国を助けにきてくれたのだ。


 ――国王陛下は言う。 


「いやぁー、この戦争が早く終わったのは君達の念話のおかげだよ」


 城に国王が自ら忍び込んだところに、俺達の念話が聞こえたらしい。まじか……上には上がいた。それは両親もだった、特に母さんには黒魔女の服従の魔法に掛からなかったらしい。


 隣で、かかってしまった父を殴って目を覚まさせて、王妃の追手から逃げながら隣国に入り、ストレーガ国まで逃げ延びた。


 母さんは元々ストレーガ国の公爵の娘。父との結婚を反対されて、父を連れて駆け落ちしてしまったのだとか。公爵様は娘が帰って来たと喜び、父を許し、俺達を迎え入れてくれた。


 ラエルの胸のクロユリは国王陛下が魔法で消し、俺の怪我が落ち着いて来たころ――城に呼ばれた。


「兄さん、やっぱり僕、怖いよ」


「ラエル、俺達を助けてくれた国王陛下だ。俺は怖くないぞ」


 と、呼び出された城で国王陛下に。息子のベルーガの付き人兼、友達になってくれと国王に頼まれた。



+ 



 ガタゴトの揺れる馬車の中で、突然、首筋にチクリと痛みが走る。


「……っ!」


 その痛みに驚き顔を上げた――その勢いで俺の膝の上に転げ落ちたルーと、冷ややかな目をしたカロールがいた。


「ようやく、目を覚ましたのか? ……珍しく、お前が眠りこけるとはな」


(あー、そうだった)


「カロール殿下、失礼いたしました」


「フン、俺が呼んでも起きぬほど、昨日はあの女性と楽しんだと見える。その分、今からしっかり働けよ」


 ――あの女性? ああ、今朝のことか。


「それと、お前の膝の上の"そいつ"はなんだ?」


 カロールは膝の上に転がるルーを指差した。俺は両手でルーを救い上げて元の位置に戻すと、ルーも驚いていたらしく、すぐに首筋に隠れた。


「この子は、俺の使い魔です」

「それが使い魔? ……使えるのか?」

「えぇ、とても優秀な使い魔ですよ」


 そうかとカロールは興味が無いのか、外の景色に目を移した。それを見て"ホッ"と胸を撫で下ろした。

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