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 先輩はそうだと頷いた。


「俺は海を越えた先にあるリーベストという魔法国から、弟と2人で王子の婚約者を探しに来たんだ。いま国で問題がおきたらしくてな、戻るから元の髪色に戻したんだ」


「え、シエル先輩の国で問題が起きて、帰るために髪の色を戻した? ……あ、そ、そっか、先輩は自分の国に帰っちゃうんだ」


 そうだよね。先輩は、先輩の家族が心配だろうし……


「ああ、国に戻る。それにルーだって、こんな黒髪は"不吉"で気味が悪いだろう?」


 先輩の黒髪が不吉? 気味が悪い? 私は小さな体で首を思いっきり振った。


 なぜ、先輩がそんなことを言ったのか、私は知っている。この国に伝わるおとぎ話ーー黒き魔女の影響。物語の黒い魔女は魔法を使い人々に呪いを、災いを起こした。


 しかし、元を正せば人々のせい。優しい魔女に振られた男が流したほんの一言の悪口がーー人から人へと伝わるまでに大きく、凶暴なものに変わった。


 魔女は知らぬうちに、自分が悪い魔女だ言われていると聞いてしまう。「悪い魔女め」「ここから出ていけ、魔女」人の投げかけられた言葉に傷付き、己を守るためにしたこと。


 この悲しい物語を読んで私はーー魔女は悲しかったんだ、その悲しみが恨みに、憎しみに変わったと思う。


 "魔力なし"だといわれ、何もしていないのに悪女だと言われた私と被って涙した。


「先輩は何を言っているの? そんなことあるわけないじゃない……銀髪でも、黒髪でも、シエル先輩は私の大切な先輩だよ」


 そう、叫んだあと。先輩の息を飲む音が聞こえた。いつも自信満々な先輩の意外な一面をみた。先輩もその黒髪のせいで何か酷いことを言われたのかな。


「ルー、それはほんとうなのか? ……ルーは、この黒髪を不気味だと、気味が悪いとは思わないのか?」


「絶対に思わない、思うわけないじゃない!」


 小さなハムスターの体を使って、精いっぱい先輩に伝えた。先輩は眉と顔をしかめて、一瞬泣きそうな顔をしたあとに「ありがとう」と、小さく笑った。



「でも、怒ってはいるわ。……先輩に、その黒髪は似合っているけど……」



 その後に続く言葉が恥ずかしくて、言葉を濁すと。先輩は「けど、なに?」と、赤い瞳が心配に揺れた。


 

「……わ、私はシエル先輩と、お揃いの銀髪でひそかに嬉しかったのに!」



 ちいさな頬を膨らませた。



「はあ? 俺と、お揃いの銀髪が嬉しいって、マジか!」


 今度は驚きで目を見開いた。


 いつの先輩とは違う雰囲気と、いま勢いに任せて言ってしまった自分の言葉が恥ずかしい。それを誤魔化す為にお行儀悪く、先輩のお弁当箱の卵焼きにかぶりついた。

 

「モグ、モグ……ゴクン。フン、先輩のお弁当箱の卵焼き、ぜんぶ食べちゃうんだからね」


「待てルー、それは俺の大好物だからダメだ! ルーの手作り卵焼きは全部、俺のだからな」


 と、先輩は取られないよう。自分のお弁当箱を私よりも高く持ち上げ。すばやく私のお弁当箱から、卵焼きを取って食べてしまった。


 その、先輩の行動に一瞬ポカンとする。


「ああ、私のお弁当から卵焼きとったわ。酷い、私も卵焼き好きなの知っているくせのに!」


 プンプン怒って、下でぴょんぴょんと跳ねだけど、知らん振りをして食べる先輩。小さくてお弁当箱の防御ができない、私の卵焼きが、一つ、また一つと消えていく。


 ーー最後の一切れ。


「食べちゃダメだって、先輩、シエル先輩って、黒髪の素敵なシエル先輩……お願い。私の卵焼き、お弁当箱から取らないで!」


「俺におべっかは効かない。先に食べたのはルーだ」


「うっ。それはそうだけど、全部はだめ」


 下で、ぴょんぴょん飛んだ。その姿に我慢できなくなったのか、肩を震わせて笑い出した。


「クク、ハハハッ……ルー、あーん」


 あーん? 口を開けると、小さく切った卵焼きが口元に運ばれてきた、その卵焼きにぱくついた。 


「んんっ、卵焼き美味しい」

 

「いい、笑顔だな。今度は唐揚げだ」


「あーん!」


 シエル先輩に食べさせてもらいながら、作ってきたお弁当を二人で食べ尽くして、私は膨らんだお腹をなでた。


「ふうっ、お腹いっぱい」


「ルーは……ハムスターになっても、よく食べるな」


「先輩のせいです。途中から面白がって口元に持ってきたからでしょう。持ってきたら食べちゃうもの」


「食べちゃうって。ハハハッ、ルーらしいな」


 楽しげに笑う、シエル先輩。

 学園で過ごしてきた頃より、よく笑う先輩に私は釘づけになる。

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