表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/57

25

「せ、先輩?」


「シーッ、ヤツに見つかりたくなかったら、少し黙っていて」


「ヤツ?」

「ルーが会いたくない、カロール殿下だ」


 ヤツ――カロール殿下! シエル先輩にうなずき口を手で押さえた。その直後にノック無しで勢いよく扉が開き、どかどかと数人の足音が聞こえて、私たちのいるソファーの前で止まった。


「おい、シエル。貴様の部屋からなにやら親しげな、女性の声が聞こえたといましがた報告があったが? 誰を連れ込んのだ?」

  

 声を荒げるカロールに対して、先輩は慌てず寝起きの演技を始める。


「ふわぁっ、なんですかいきなり……この女性は私の大切な人です。だから、親しげに話もするでしょう? ……フウッ、こんなに大勢引き連れて、ノックもなしに私の部屋に入って来るのは、いくら殿下でも失礼ではありませんか?」


「それは、そうだが……いいや、貴様、その胸の上にいる女性はルーチェ嬢ではあるまいな?」



(ドキッ!)


 ――な、なんで、いま私の名前が出るの? 


 ほんとうにシエル先輩の上にいますけど……先輩は胸を揺らし"クックク"と低く喉で笑い。


「カロール殿下は何を言ってるのですか? ルーチェ様はまだ見つかってはおりませんよ。どうして、その方が私の胸の中などいるのでしょうか?」


「……貴様と仲がよかった、と報告を開けている」


「ただの、友達だったと伝えましたが?」


 平然とカロールと話す先輩だけど、それとは裏腹にシエル先輩の指先は私の髪を撫でて、クルクルと指に髪を絡めて遊ぶ。それがくすぐったくて、笑いそうで……ドキドキと緊張が混ざる。



「「ドクン!」」



 いきなり"ドクン"と体全体が脈を撃ち、体がピキピキと音が鳴るくらいに痛くなる。その痛みに我慢出来ず(くっ)と声に出さないようにうめいた。それに気付いた先輩は声を上げ。


「カロール殿下、私の大切な人が目を覚ましてしまう、お帰りください……それとも殿下はルーチェ様ではなく、彼女の肌を見たいのですか?」


 腕の中の女性が騒ぎに気付き起きてしまう、と、先輩に強めに言われて。ことが、ことだけにカロールは引き下がった。


「すまなかった、シエルと女性……失礼した。戻るぞ!」


「「はっ!」」



 大勢を連れて部屋を出て行き、静かになる先輩の部屋。その部屋の中でシエル先輩は"指をパチン"と鳴らしてローブを剥ぎ取った。


「ルーが来て驚いていたから、見張られていることを忘れていた。ルー、遮音の魔法を使った話しても外に聞こえないぞ。……はあ、それにしてもビックリしたな」


「はい、びっくりしました」



 ムクッと起き上がって、シエル先輩を見上げたら、先輩の瞳がひらいて。


「はあ? え、ええ? ル、ルー? お前、自分の体を見てみろ」



「え、自分の体? あれ? 先輩の姿がやけに、大きく……見えるけど?」


 コテンと首を傾げる。


「そうだろうな……お前、この部屋で魔法陣を描いた紙に触らなかったか?」


「魔法陣の紙? あ、それなら拾って、そこの研究机に置きましたけど……?」


「まじか……触ったのか。そうか……それが原因だ、ルーお前、ネズミの姿になっているぞ」


 ネズミ? 自分の体を見ると白銀色の髪と、同じ色のふさふさな毛が見えた。


「ほんとうだ。でも、これってネズミじゃなくて、ハムスターかな? それともチンチラ?」


「チンチラより小さいから、ハムスターの方だろうな」


「そっか……ハムスターか」


 私はシエル先輩が描いた、魔法陣の紙を触ってしまい、ハムスターの姿になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ