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魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。  作者: にのまえ


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「でも先輩。そんなに私が嫌いで不敬罪にして牢屋に入れたいなんて、カロール殿下は酷い人だよね」


「えっ、不敬罪? 牢屋?」


「婚約破棄の時、最後に思っていたことを伝えたら、いきなり頭を抱えて苦しみ始めたの。そのことをいまだに根に持っていて、私を不敬罪にしたくて探しているわ。好きな人と結ばれたのだし、リリーナさんと仲良くしてればいいのに」


「そ、そうだな……ルー、しっかり逃げろよ」


 私はなんども頷いた。先輩は頷きすぎたと笑い、部屋に掛かる時計に目をやった。


 ――部屋の時計の針は六時半をさしている。


「フウッ、楽しい時間は早く過ぎて困るな。日も暮れて遅くなったし帰るよ」


「はい」


 立ち上がった先輩を玄関まで送ろうとした、先輩はアッと、何か思い出してこちらを振り向く。


「いい忘れていた。ルー、あれは呪いの言葉だから、子犬をベルーガと呼ぶな。それと、ルーに渡す物があった」


「あれが、呪いの言葉?」


「うん、呪いの術がかかっている。呼ぶとルーまで呪われるから。呼ばなければなんに起こらないから安心して」


「わかりました、呼びません」


 "よし"と、先輩はローブの袖からジャラッと、沢山の鍵の付いたキーリングを取り出し。その中から四葉のクローバーの鍵を一つ外して確認する。


「この鍵には……まだ登録してないな。これにしょう。場所はこの壁でいいかな?」


 登録? 壁? 


 何をはじめたのと、見ている私の前で先輩は鍵を右手の手のひらに置いて、左手で壁を触った。


「【アセール・クレ・ポルタ】」


 先輩がそう魔法を詠唱すると、壁と手のひらに赤色の魔法陣が浮かび消えた。シエル先輩は魔法を掛けた壁と鍵をしばらく眺めて。


 うなずく。


「うむ、これでいいだろう。この鍵をルーに」


「あ、ありがとう。先輩、これって魔法の鍵?」


 受けとった鍵をマジマジ見ていた、その姿をみて先輩は口角を上げ。


「そうだ、その鍵は魔法の鍵だ。この部屋のここの壁と魔法屋の裏口の魔法の扉とつなげた。これで、ルーは外に出ることなく魔法屋に行ける。弟にはそう伝えておくよ」


 この鍵で魔法屋さんまでいける。


「すごい、すごいわ。魔法屋さんにお礼を言いに行きたかったんだ。外に出ず行けるなんて最高ね」


「はははっ、最高か。この鍵の使い方は簡単だ。壁に鍵を近づけると魔法屋に繋がる裏口の扉がこの壁に現れるから、弟にひとこと声をかけて入ってくれ」


 先輩はパンと手を鳴らして、ティーセットを消した。


「ルー、その鍵を絶対になくすなよ。大切に使ってくれ」


「はい、大切に使います」


 先輩に貰った鍵をきつく握りしめた。


「またな、ルー」


「あ、待って」


 タンスを引き出して、先輩が好きだと言ったお菓子を両手一杯に掴んで、手提げ袋に入れて先輩に差し出した。


「これ、紅茶と鍵のお礼になるかわからないけど、お茶請けに食べてください」


「こんなに……クク、ありがとう……お礼にもう一つ魔法を見せよう」


 先輩が別の壁に手をかざして、魔法を詠唱すると、こんどは壁に波紋が広がった。


 その波紋が消えると、そこには豪華な茶色の扉が現れる。先輩はキーリングから赤い石のついた鍵を一つ手に取ると、現れた扉の鍵穴に差し込み扉を開けた。


 その開かれた扉から、先輩から薫る薬品の匂いがした。


「よし、繋がったな」


 先輩は帰る前にこちらに振り向き、私を見ると呆れた顔した。


「クックク……まったく、お前は魔法のことになると瞳が輝くな……可愛い。おやすみ、ルー」


「かわ? え、おやすみなさい、先輩」


「クク、そう慌てるな。本当のことだ」


 意地悪く笑って、先輩が戻るまえに切れ長の赤い瞳が、私をじっと見た。


 その瞳にさらに鼓動がはねる。


「またな、ルー」


「はい、また会いましょう、シエル先輩」


 先輩は手をあげて、微笑み扉の中へと消える、それと同時に扉も消え、薬品の匂いも消えていった。


(可愛いだなんて……頬が熱いよ)


 すごく、ドキドキした。




「キュ」

「子犬ちゃん、寝る?」


 先輩が帰るまでおとなしく寝ていた子犬ちゃん。"あの呪いの言葉"で呪われているなんて……私では何もできないから、しっかり飼い主さん探すね。


「キュン?」

「片付けしたら、寝よっか」


 そう伝えると、ひと鳴きしてベットに飛び乗る。私はキッチンで使ったカップを洗い、もらった魔法の鍵を一番上の宝物入れにいれる。


(先輩から貰ったハンカチ、ブレスレット、髪飾りの、そしてクローバーの鍵……)

 

 また一つ宝物ができた。



 子犬ちゃんと戯れ、ライトの灯りの下で本を読み。そろそろ寝ようとしたのだけど。


 すぐに帰ると思っていた、ライトの魔法は寝る前にも消えず、私の部屋を照らし続けている。



 ベッドの中で見上げて。


「……ちょっと眩しいね、子犬ちゃん」


「キュン」


 ライトの魔法はこのあと、2時間は消えなかった。

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