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 店一番人気。甘辛のタレが豚肉に絡まる生姜焼き定食、だから客の数もドッと増える。その客の中に、深くフードを被る黒いローブのお客が久しぶりに奥の席にきていた。


 ――生姜焼き好きなのかな? 


 やっぱり、先輩にどことなく似ている。そう思ってしまうとお客が気になり、ついつい目がいってしまう。それに気が付いた女将さんは"ススッ"と側に寄ってきて耳打ちした。


「ルーチェちゃんは、あのたまに来るお客さんがタイプなのかい? お冷持っていくついでに話しかけておいでよ」


「えっ、そんなこと……恥ずかしくて出来ませんよ」


「ルーチェはご機嫌だな。2番、3番さんの生姜焼き上がったよ」


「は、はい」


 女将さんとニックにからかわれた。

 

 そして勘違いをした女将さんに「ほら、お客さん帰っちゃうよ。会計に行っておいで」と背中を押された。


「ありがとうございました、またいらしてください」


「……ああ、またくる。今日も美味しかった」


 と、帰り際に黒いローブのお客が言ってくれた。フードに隠れてお客の口元しかみえない……声、身長だって違うのに。あのお客の雰囲気が、どことなく先輩に似ている。


 今朝の夢にもみた先輩。会いたいなシエル先輩に……会って話がしたい、昔のように魔法の話を先輩としたい。

 




 午後二時。カリダ食堂の入り口の前には『本日終了』の看板が立てかけられる。一番人気の生姜焼きは予定より早く完売した。


 子犬ちゃんも終始カウンター席の隅で、お行儀よくしていて、たまに頭をなでられて「キュン」とあいさつしていた、


「みんな、お疲れさん、今日もよく働いたね」

「はい、働きました」


「お袋、親父、ルーチェ、お疲れ……はぁ、疲れた」


 片付けを終えたニックがテーブルに座り、大将さんもノートを片手に厨房から出てくる。


「ふぅ、お疲れさん。すごい列だったな……次回の生姜焼きのときは、もうすこし仕入の量を増やすか?」


「次の仕入を増やす?……父ちゃん、それがいいよ」


「俺もそう思う。あと、ハンバーグ、丼もの、のときもかな?」


「ああ、そうだな」


 三人はテーブルに座り仕入の話をはじめた。食堂にくるお客が増えたのは。さいきん発行された"港街新聞"に『ガリタ食堂のおいしい料理特集、一番人気の生姜焼き!』と掲載されたから。


 その新聞をみたお客が多くいらして、いつもは二、三人のお客に店内で待ってもらうのだけど。今日は店の外にまで行列ができていた。


(でも、たくさんのお客が港街から来ていたけど。だれも子犬ちゃんをみて飼い主さんについて話していなかった)


 もしかして、船で出航した?……ううん、大丈夫。ちゃんと子犬ちゃんの飼い主はいる。




 今後の仕入れについて話す、みんなのところにお茶をいれて持っていった。


「お茶がはいりました」


「ありがとう、ルーチェちゃん。おつかれさま、今日は上がっていいよ」


「ありがとうございます、女将さん、大将さん、ニックさん、お先に上がらせていただきます」


「おつかれ、ルーチェ。ちゃんと飼い主探せよ」


「お疲れさん、ルーチェ」

「気をつけて行っておいで」


「はい、いってきます」


 いったん部屋に戻りワンピースに着替えて、髪飾りを着けて、港街に子犬ちゃんを連れて向かった。


 商店街は三時過ぎから始まる、夕方特売セールで多くのお客さんで賑わっていた。その中に子犬ちゃんを探す人がいないか声をかけて探す。


「この子の飼い主さんを知りませんか?」


「ごめんね、知らないわ」

「うーん、しらねぇ」


 探しはじめて一時間後。飼い主さんはみつからない…….もうすこし探していなかったら『迷い犬を預かっています』とか、絵付きのポスターを作った方がいいかな?


「キュ、キューン」


「え、ゆっくり探せばいいって?」


 子犬ちゃんは余り気にしていないらしく、休憩をしようと座ったベンチで、店から持ってきた蒸したサツマイモを夢中で食べている。


「サツマイモ、おいしい?」

「キュン」


 その後も何件かお店を回った。だけど、飼い主さんは見つからないまま時間がすぎ。ポツポツ商店街の街灯に灯が灯り"ボーン、ボーン"商店街の時計塔の鐘が五回鳴った。


「もう、五時か。子犬ちゃん、魔法屋さんに寄って今日は帰ろうか」


 今日がダメでも明日も来ればいいと、魔法屋さんがある裏路地にむかった。人があつまる、食べ物屋、服、雑貨屋などがおおく並ぶ表通りとは違い、裏路地は開店前の酒場、大人の店が立ち並んでいる。


 裏路地は表とは違い街灯がすくなく薄暗い、早歩きでかけ抜けて奥へと向かうと『この先の左奥に魔法屋』と書かれた看板が、壁に立てかけられていた。


(魔法屋さんはこの左奥にあるのね)


 その看板の通り左に曲がり奥に進むと、目の前に古い煉瓦調の店構え、屋根には大きく魔法屋と書かれた大きな看板をみつけた。


 ここが魔法屋さんーー店先にお洒落なランタンの火が灯り、店の出入り口を明るくさせている。魔法屋の出入り口の横には[魔法、お薬のことなら何でも魔法屋にお任せ]と書いたあった。


 ーー魔法、お薬!


 魔法と書いてあって気持ちがあがり"ドキドキ"しながら店の出入り口を開けると"カランカラン"とドアベルが鳴り、すぐに店の中から声が聞こえた。


「いらっしゃいませお客様、今日は何をお探しですか?」


 出入り口の近くにフードを深く被り、独特の雰囲気をかもしだす、背丈の高い黒地、かえしが青色のロープの男性が立っていた。


「こ、こんにちは」


「キュッ? ギャッ!」


 いきなり、抱っこしていた子犬ちゃんは魔法屋さんをみて、聞いたことのない声を上げたあと。私の腕の中から"ピョン"と下に飛び降り足元に隠れた。

 

「え、どうしたの? 子犬ちゃん?」


「お客様すみません。どうやら僕が驚かせてしまったようですね」


 と、魔法屋さんが子犬ちゃんに近寄ると、ジリジリ後退りして「ウー、ウー」と魔法屋さんに吠えた。


「おや? 君は僕のことが嫌いですか? そうですか? 僕は嫌いではないのですが……残念です」


「ウッ、キュー」


 どこか楽しそうな魔法屋さんと嫌がる子犬ちゃん。



(そうだ、店主さんにも聞いてみよう)


「いま、この子の飼い主を探しているのですが? 店におとずれたお客さんの中に、この子を探している方はいませんでしたか?」


 そう聞くと「この子の飼い主ですか」と首を傾げて。


「今日、店にいらしたお客様の中に、子犬を探している人はいませんでしたね。明日おとずれたお客様に聞いてみましょう」


「ほんとうですか、ありがとうございます。それと注文なんですが……魔氷を2キロをガリタ食堂へあさってまでに配達をお願いします」


「魔氷を2キロ、あさってにカリダ食堂様に配達ですね。承りました……では、カウンターで注文書のご記入をお願いします」


「はい、子犬ちゃんいこっ」


「キュキュー」


 子犬ちゃんは嫌だとブンブン首を振った。


「はい、君も一緒にいきましょうね」


 魔法屋さんは足元で怯える、子犬ちゃんをヒョイッと抱っこして、レジカウンターにむかう。子犬ちゃんは嫌がったけど諦めたのか、されるままになっていた。


(魔法屋さんは、子犬ちゃんを気に入ったのかな?)



 子犬ちゃんを抱っこした、魔法屋さんの後についてレジに向かった。その途中……私の瞳にうつったのは珍しい魔導具、魔導書、お薬の数々と香りのよいハーブ石鹸、かわいいガラスの瓶に入った化粧水とハンドクリーム。


(ハーブ石鹸? 化粧水? ハンドクリーム?)


 商品の前で足が止まっていて魔法屋さんに呼ばれた。


「カリダ食堂様?」


「い、いま行きます」


 慌ててレジカウンターに向かい、魔法屋さんが用意した注文票を書いた。


「ご注文をお受けいたしました。あさっての午後に魔氷を2キロ、カリダ食堂にお届け致します。お代は1ヶ月にまとめてお支払いですね」


「はい」


 頼まれていた魔氷の注文は終わったけど、店の商品をみたい。子犬ちゃんはレジカウンターの上で魔法屋さんに撫でられて、すごく嫌な顔をしている。


(せっかく、ここに来たのだもの、少しだけ、少しだけ商品をみたい)


「魔法屋さん。店の商品を見たいので、しばらく子犬ちゃんを預かっていただけませんか?」


 私の無茶な願いに魔法屋さんは。


「えぇ、かまいませんよ。どうぞ、ごゆっくり商品を見ていってください」


「ありがとうございます」

「キューーーン」


「はい、はい、あなたはここでお留守番です」


 私について行こうとした子犬ちゃんを素早く抱っこして「いってらっしゃい」と前足を振る魔法屋さん。


「フフ、この子もごゆっくりと言っています」


「……そう? ありがとう、少し待っていてね」


 店の商品をみせてもらった。

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