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15

 私は久しぶりに学園の夢をみた。その夢はシエル先輩と魔法の話をする幸せだけど、むしょうに先輩に会いたくなった。


 ――いつか会えるといいなぁ。




「ふわぁっ」


 ベッドの中で背伸びをすると、目線の端にもふもふの影が見える。何気なしに横を向けば、気持ちよさそうにへそ天で眠る子犬ちゃんがいた。


(そうか、一緒に寝たんだった)


 眠る子犬を起こさないように、ベッドを抜け出し、いつもの海側の窓を開けると、すぐさま近くの枝に福ちゃんが止まった。


「おはよう、いい朝だね」


「ホーホー」


 福ちゃんと何気ない会話をして、彼が空が飛び去る姿を見て、子犬の朝食をキッチンで準備し始めた。


 桃とバナナを食べやすい大きさに切りながら「今日の定食は何?」と、近くの壁に貼った定食表を確認すると。今日は生姜焼き定食の日……大将さんが作る生姜焼きのタレは生姜が効いて絶品。

  

 トントン、トントン、キッチンからする物音で起きたのか、子犬ちゃんが足元に駆け寄りキュンと鳴いた。


「目が覚めたのおはよう。朝食すぐに出来るからね」


「キュン、キュン」


 子犬用に食べやすく切った桃を皿に移して、出すと、子犬ちゃんはキュンとひと鳴きして食べだした。


 食べ始めた姿を眺めて、仕事着に着替えを始めた。子犬ちゃんは小さくてもふもふ可愛いのだけど、ガツガツ、カラン、ガツガツ……子犬の食べる勢いは凄い。

 

 ものの数秒で桃とバナナが乗ったお皿は空っぽになり、着替える私の近くに寝そべった。

 

「もう、食べたの?」


「キュン!」


 仕事着に着替えて髪をセットしてエプロンを着ける。脇に子犬ちゃんを抱えて階段をおりる、店の裏で女将さんが仕込みの準備を始めていた。


「おはようございます、女将さん」


「キュンキュン」


「おはよう、ルーチェちゃんと……子犬?」


 仕込みを始めるまえに子犬の説明を女将さんにした。内容は――昨日、港街で可愛い子犬ちゃんを見つけて、勝手に連れてきしまったと伝えた。


「あらあら、いくら子犬ちゃんが可愛いからって、連れてきゃダメよ」


「はい、反省しています……女将さん、この子の飼い主さんを見つけたいので。午後、店を早めに上がらせてください」


 その私の願いに女将さんは微笑んだ。


「いいよ。ちゃんとこの子の飼い主をみつけて謝っておいで。……あ、それと、一つ頼み事をしてもいいかい?」


 頼みごと?


「なんですか?」


「港街の裏路地にある"魔法屋さん"で魔氷を2キロ。明後日、店に届くように頼んできてくれるかい?」


「魔法屋さんで魔氷を2キロですね、わかりました」


 港街の路地裏の奥の奥に魔法屋という、魔法使いが経営するお店がある。その店で売られている魔氷は氷属性魔法で作られていて、3日は解けないという代物。


 この魔氷は人気で商店街全部のお店と、ガリタ食堂でも使用している。話には聞いていたのだけど、裏路地裏には酒場と大人のお店が多く立ち並び、一人で行くのを躊躇していた。


 いくのはお昼過ぎだから、まだ酒場とかはあいていないよね。




「さて、話は終わりにして生姜焼きの仕込みを始めるよ!」


「はい!」


「ルーチェちゃん、今日は特にいい豚肉が手に入ったからね。旦那とニックが張り切ってるよ!」


 いいお肉! それは絶対に食べたい……柔らかい豚肉に絡む生姜ダレと千切りのキャベツ。付け合わせの白菜の漬物とお味噌汁は最高。


「そうだ、ルーチェちゃん。ちょっと待っててね」


 女将さんは裏口から店に戻り中から、椅子を持ってくると、私たちが作業をする前に置き子犬をその椅子の上に乗せた。


「君の場所はここね、いい子にしてるんだよ」


「キュン!」


 子犬ちゃんは大人しく椅子に座った。

 私と女将さんで大きな空樽を二つ用意して、その上に特注まな板を置き、並んで作業を始めた。


 まず、初めに。


 生姜を下味用のしぼり汁と、生姜ダレ用の生姜を大量にすり下ろして、変色しない様にレモン汁を混ぜるのがコツ。


「生姜は終わり。ルーチェちゃんこれから大変だ」


 女将さんがそう言い、準備したのはカゴ一杯のキャベツ。


「いまから、キャベツの千切り始めるよ!」


「はい!」


 女将さんはひと玉をそのままで、千切りするけど、私は一枚一枚剥がして芯を取り丸めて千切りにする。


 店裏にトントントントントンと、リズム良く千切りの音が響いた。できた千切りは井戸水の冷水にさらしてザルで水分をきる。その作業中、女将さんが何か思い出したのか話しかけてきた。


「そうだ、今日の朝食にニックがね。ルーチェちゃんに教わった味付けで、卵焼きを焼くって言ってた」


「ほんとうですか」


「たまに家にきてね、何度かニックが作ってくれたんだよ、甘めの味付けがいいね」 


「気に入ってもらえて嬉しいです。……だったら、今日の朝食は卵焼きと塩おむすび、きゅうりの塩もみが食べたいなぁ」


「あら、いいわね。そうなると、汁物と焼き魚も欲しくなるね」


「焼き魚、いいですね」


 その私たちの会話に。


「じゃー、お袋とルーチェの朝食はそれでいい? 焼き魚はないから生姜焼きに変わるけど……」


 裏口からニックが顔を出していた。

 朝食に何を食べるのか、聞きに来たのだろう。


「それで、お願いします!」


「ニック、よろしく頼むよ」


「キュ」


 まるで、それでお願いしますという様に、子犬ちゃんも返事をニックに返事をした。


 私たちの他の返事にニックは驚いた。


「おっ、なんだ? 子犬?」


 ニックにも子犬の説明をした。


「ルーチェ、ちゃんと子犬を飼い主に返せよ。今頃、子犬が居ないって泣いてるぞ」


「わかってる、ちゃんと返すし、謝るよ」


「そうしろよ。じゃ、俺は朝食作りに戻るな」


 ニックは仕込み終わった野菜を厨房に持っていき。私たちはキャベツの千切りの作業に戻った。




 その作業が終わる頃に厨房から「朝食ができたよ」とニックに呼ばれて店に入ると。大皿に塩おむすびが並び、椎茸のお吸い物ときゅうりの塩もみ、生姜焼きがテーブルの上にドーンと用意されていた。


 蒸したサツマイモは子犬用らしい。


「「いただきます」」


「キューン」


 みんなとの楽しい朝食を終えたあとは、戦場とかしたガリタ食堂。子犬は蒸したサツマイモをペロリと食べたて、使わなくなった桶のベッドでお昼寝中だ。


「ルーチェ、16、17、18番さんの生姜焼きが上がったぞ」


「はーい、生姜焼き定食お待たせしました!」


 満席になった店の中で声が飛んだ。

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