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第1話 助けを求める少女(8)

 会議室では何人かの幹部や執事長などが集まって各々情報の共有をしている。到着したルースに注目を集める人物はいない。ルースの到着に気付いた総督が司令官との話を切り上げてルースに近づく。

「ルース様、先ほどの爆発はお聞きになったでしょう。まだ、門は突破されていませんが、突破されるのも時間の問題です。私も総督として前線で指揮を取ります。ルース様、あなたはお逃げください。」

「いえ、私も攻撃魔法は使えますし、支援いたします。」

「だめです。あなたはポーリッシュ家の確実な生き残りです。その家を潰してはなりません。」

「でも、逃げる先もないのよ。」

「未踏の森に逃げるのです。ここにいるよりも、圧倒的に生き残れる確率が高いです。」

 総督が声を落として話しかける。

「それに、あなたが連れているギジロウ殿はただの人物ではないのでしょ。」

「なぜ、そう思うのかしら」

「先日、ギジロウ殿と話した際に、少し感じましてね。このことを知っているのは私と鉱山の技術長だけです。固く口止めをしておりますのでご安心を。どういう人物かはわかりませんが、少なくともこの国の住人、さらにはこの辺りの国の住人ですらないのでしょう。少なくとも今は彼を頼って生きなさい。」

(驚いた。そこまで見抜いていたのね。さすが総督にまで上り詰めた人物だわ。)

「私はあなたのお父様にとてもお世話になっております。地方の鉱山の現場監督でしかなかった私を登用して、鉱山開拓の責任者にまで抜擢してくれました。そこからニーテツ総督の地位を得られたのもお父様からの多大な支援と支持があったからです。ニーテツの開拓が始まってからも、お父様には食糧、物資など多大な支援をいただきました。この恩を直接お返しすることは叶いません。ですから、あなたに生き延びてもらうことで、この恩をお返ししたいのです。」

(総督がお父様を慕っていたのはそういう経緯があったのね。)

「それに、ギジロウ殿の知識や技術をファナスティアル王国に渡すわけにはいかないのです。彼の知識や技術がファナスティアル王国に渡ってしまったら、取り返しがつかない程の技術格差ができてしまい戦況が更に苦しくなってしまいます。もし、あなたが彼を連れて逃げないなら私は彼をこの場に連れてきて処刑しなくてはいけません。」

「それは……わかりました。私は彼と未踏の森へ逃げます。」

 総督は声のトーンを戻してしゃべる。

「それでよいでしょう。我々はあなたたちが逃げる時間を稼ぎますので、少しでも遠くに逃げて、反撃の機会を伺ってください。いつか、ニーテツやオステナート、さらには連邦の領土を回復してください。国の安寧と民の平安をあなたのお父様も願っておりました。また連邦に穏やかな日々を取り戻してください。」

「わかりました。お父様と総督の思いは私が受け継ぎます。ありがとうございます。総督。ご武運を。」

「ルース様こそ気を付けていってらっしゃいませ。」

「行ってらっしゃいませ。」

隣にいた執事長以下の従者たちも一緒に頭を下げる。

 ルースは会議室から出る。

「執事長、お前らも逃げるのだぞ。なんならルース様について行ってもよい。」

「いえ、私たちは総督様に着いていきます。」

「そうか。ではみんな次の仕事を始めるぞ。」

「執事長、戦えない住民に避難命令を出せ。対象地区と避難先は司令官の指示ですぐに発令せよ。」

「畏まりました。」

「司令官!」

「は、ここにおります。」

「私からの最後の命令だ。住民を死守せよ。精一杯の抵抗を見せてやれ。」

「はじめから、そのつもりです。」


「では、執事長殿。初めの避難対象の地域ですが、最優先は加工区と鉱山居住区です。避難先は農業地区と鉱山地区です。農業地区は恐らく、最後まで戦火が及ばないので子供たちを向かわせるとよいでしょう。住民には申し訳ないが荷物を持たせることができない。」

「わかりました。」


「ては、作戦ですが……」

 司令官が作戦を説明する。

「私は鉱山地区で指揮を取ります。中央地区の指揮は総督がお願いします。」

「あぁ、それでは各自戦闘の用意にかかれ。武運を祈る。」



 また、爆発音がこだまする。ルースは思わずその場で身をすくめる。震える足を叩いて気合いをいれギジロウの部屋まで走る。

 勢いよく扉を開けて話を始める。

「いるかしら! 逃げるわよ。」

「そうか、どこに行くのだ?」

「未踏の森よ。未踏の森で体勢を整えて、ファナスティアル王国に反撃する機会を伺うわ。」

 ルースは決意した表情でギジロウに話しかける。

「あなたには私たちの国の事情などはまったく関係ないと思う。あなたならファナスティアル王国にその技術を売って生きていくこともできるわ。でも、私を、私の国を助けてほしいの。力を貸して欲しいの。」

 ルースはゆっくり頭を下げる。

「勝手なお願いだと思うけれど……いえ、どうかお願いします。助けてください。私と一緒に逃げてください。その為なら私はあなたのために何でもします。だから、助けてください。」

(まあ、乗りかかった船だ。助けることはなにも問題がない。それに、技術で誰かを助けるのは俺の小さい頃からの夢だったじゃないか。この先に続くのがさらなる戦争だとしても、今はこの目の前で助けを求める1人の人物を助けよう!)

「わかった。君の力になろう。」

 ルースはあっさりと了承されたことに驚き、キョトンとした表情でギジロウを見つめる。

「どうした、さっさと逃げるのだろう。」

「あ、ありがとう。あなたは私にとっての危機の時に助けてくれる王子様ね。」

「いや、違うな。」

「?」

「俺は技術者さ!」



 戦闘はその後もしばらく続いた。始めに中央地区が総督を筆頭に200人近くが死亡し降伏した。次に、非戦闘員の多くが身を寄せていた農業地区は中央地区陥落後に全面降伏した。また、多くの住民が未踏の森へ逃げた。

 最後まで抵抗していた鉱山地区はワイバーンの火炎により鉱山内で死者が続出し立てこもることができなくなり司令官を筆頭に降伏した。

 こうして、5日間に渡る戦いはニーテツ側に甚大な被害を与えファナスティアル王国の勝利で終了した。

 生き残った人々は捕らえられ多くがニーテツでの過酷な労働に従事することとなる。

 ニーテツの人口は戦闘前夜の6割となっていた。




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今回で「転移~ルースとの出会い~町づくりを始めるまでの物語」は完了です。

次話以降は本格的に工業の町づくりに向かっていきます。

町づくりを期待して訪れてくれた方、ここまで長かったかと思いますが、

お付き合いありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
ギジロウ殿とルースさんの出会いから国家間の壮大な戦いに巻き込まれていくまでですね。ここまででも、望遠鏡、磁石、爆弾と、さまざまな技術の力が活かされていました。今後もきっとギジロウ殿の技術力がルースさん…
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