第1話 助けを求める少女(7)
早朝、ニーテツ南門の門番が、ファナスティアル王国軍が迫っていることを発見した。戦闘用意の鐘がニーテツの冷たい空気を震わせる。
基地からワイバーンが飛び立ち上空より敵を観測する。
事前に橋を落としたおかげで敵は大きな荷物をまだ渡せておらず、川に入って荷物を移動させていたり架橋工事を実施していたりした。
ワイバーンが上空より、炎を吐いて敵を蹴散らす。ファナスティアル王国軍はワイバーンを連れておらず、初戦はニーテツ側の一方的な戦いとなっていた。
昼前になるとファナスティアル王国軍のワイバーンが襲来しワイバーン同士の空中戦が始まる。数で劣るニーテツ側は健闘したが敗北してしまう。ニーテツ側のワイバーンが全滅すると、上空を舞っていたワイバーンは低空飛行し市中にむけて炎を吐く。しかし、市民の懸命な消火活動により大きな被害を出さずに済む。
昼頃になるとファナスティアル王国軍も続々と川を越えて城門に迫る。ファナスティアル王国軍の兵士は南門周辺に集結し始める。後の歴史で、連邦ではニーテツ防衛戦、ファナスティアル王国では第1次ニーテツの戦いと呼ばれる戦闘が本格的に開始された。
最初は弓などを用いた戦闘が行われたが、ニーテツ側は爆弾対策に作った盾が功を奏し矢による被害は少なかった。
戦闘の途中で城壁の真下に迫り何かしようとする部隊をニーテツの兵士が見つける。
「なんだ、あの部隊は? 梯子も武器ももたずに近づいてきて何がしたいんだ」
「なんか、大きな袋は持っているようですがどうしますか。」
「壁の真下は攻撃しづらいから逃げてきただけだろう。モノを落として追い払え。」
ニーテツ側は石を落としたり油を垂らしたところに松明を投げ込んだりして応戦する。
ニーテツ側が攻撃をしていると慌てて兵士が逃げだす。
その直後、爆発が発生した。
「なんだ、今の爆発は?」
「敵が壁から離れた直後に爆発しました。」
「噂の新兵器か?」
「壁の状況はどうなっている?」
爆発地点の城壁の様子を見るように上官が城壁の下に居る兵に問いかける。
「特に問題ありません。内側から見る限りひびなどもありません。」
「わかった。お前、上から見る限り大きな傷などは見えるか」
「確認します……上から見る限り表面が汚れただけで石は欠落しておりません。」
「こちらも同様です。」
「確認しましたが、問題ないようです。」
「お前ら、敵の新兵器ではこのニーテツの城壁には傷はつかないぞ!安心して戦え。」
「うぉぉぉ!」
敵の新兵器では城壁は問題ないと聞いた兵たちの士気が上がっていった。
その後も何度も城壁の元にやってくる兵士はいたが効果がないとあきらめたのか爆発を起こすようなことはなかった。
総督府に戻った兵士が、総督たちに戦闘の推移を報告する。
「報告します。敵の数はおよそ400。敵は新兵器で城壁を攻撃してきましたが、城壁は破壊されること無く無事です。」
「おぉ、それはよかった。」
「これなら持ちこたえられそうだな。」
「昨日の夜に、南の伯爵領から応援を出すように使いを出したから、数日間耐えれば、追い返せるかもしれませんな。」
ギジロウはルース伝いに戦闘の経過を聞く。
「ということで、ファナスティアル王国軍の新兵器では城壁を破壊されなかったようね。とりあえず安心ね。」
ルースは安心しているようだが、ギジロウの中では不安がよぎる。
「ルース、新兵器は壁に対して投げて攻撃してきたのか。」
「いえ。敵兵が城壁の下までやってきて爆発させたそうよ。壁の下に張り付いた敵を私たちの兵士が上から攻撃したらしいわ。石や松明を落として追い返したと自慢げに話していたわね。それで敵が慌てて逃げた後に爆発がおきたそうよ。」
(オステナートの時と使い方が違いすぎる。オステナートのときは対人兵器として使っていたはず。なぜ、城壁の前までわざわざ火薬を持ってきたのだ。まるで工兵のようだ……まさか。)
「ルース、敵は火薬をーー」
ドーーーーン
門の方で大きな爆発音が聞こえた。
「え、何がおきたの?」
「ルース、爆薬で石などを破壊するときはどうやると思う。」
「いえ、知らないわ。でも石の前に爆薬を置いて爆発させるのではないのかしら。」
「そうではないんだ。下準備が必要で、爆発の威力を高めるために破壊対象に穴を空けてそこに爆発物をいれてから爆発させるようにするんだ。いきなり対象物の表面で爆発させても見た目は派手なのだけど、大した影響はでない。敵兵は城壁に穴をあけてそこに火薬を差し込んで一気に爆発させたのだろう。敵は同じ個所に何回来ていたのだろう。」
(どう考えても、敵は火薬の使いどころを熟知している人間がいる。火薬が発明されてそんな短期間でここまで理解できるのか?)
「そうね。でもつるはしや大きな剣を持っているわけではなかったらしいわ。」
「穴は大きな穴である必要はない。爆薬が入ればよいからな。ここの城壁は石を積み上げているからそもそも少し隙間があるし、そこを少し拡張するだけだったらノミとハンマー程度しかもっていなかったのだろう。」
「じゃあ、最初の攻撃は!」
「何も考えず、いきなり火薬を持ってきたのだろう。松明を落としてという話だから、松明の火で火薬に点火されて誤爆したのだろう。ルース、火薬は火をつけて爆発させるの道具なんだ。敵が大慌てで逃げたのも爆弾に火が着いたことに気付いたからじゃないか。」
「じゃあ、もしかして今の爆発は!」
「準備が整ったから火薬を詰めて点火したのではないか。今の爆発で城壁に穴が開いていなくても、表面がえぐれていてもおかしくないぞ!」
しばらくすると、また爆発音がする。
その少しあと後、今度は紫に近い青い光を伴う爆発がおきた。
「魔力爆発の光だわ。」
(魔力爆発は管理が面倒な材料を使用した爆薬だったからな。準備が整のうのに時間がかかったのだろう。それか、最初の爆弾での爆発は魔力爆弾の下準備だったのか。黒色火薬だと威力が弱いから大した量を吹き飛ばすことができないからな)
部屋の扉が勢い良くたたかれる。
「ルース様、総督が呼んでおります。至急、会議室までお越しください。」
ルースが呼ばれて、慌てて総督のもとに行く。