第8話 そのクマは冬を越さない(4)
時間はマンテングマとナターシャ達が遭遇した少し後に遡る。
「まずいですわ。 ロン。 速度上げられますか?」
ナターシャが大きな声で馬車を操るロンに速度を上げるように促す。
「道があるとはいえ、不整地地帯です。これ以上は難しいです。」
「水晶洞窟まではまだですか?」
「もう少しです!」
ロンは目線を進む先に固定しながらナターシャの質問に答える。
「でも、このまま水晶洞窟についちゃったら、水晶洞窟の人たちが準備できていないから危ない。」
シノが珍しく大きな声でナターシャに話しかける。
「それもそうですね。 やっぱり、これ使いますか?」
ナターシャは木箱に入った火薬の小包を手に取る。
「シノは使い方を知っているんですよね。」
「知っている。火薬の塊に火を着けると爆発する。塊の中心に火を着ける必要があるから、こういう導火線が付いたタイプが良いとギジロウに聞いた。」
シノは自分のカバンからお手製の小型爆弾を手に取りナターシャに見せる。
「シノ、あなたいつの間にそんなものを作っていたのですか?」
「みんなで小分けにしているときに作っていた。」
そいうわれてナターシャは火薬づくりの時の状況を思い出す。
「ナターシャさんは、ものを図るのが上手ですね。」
フローレンスが簡易的に作った天秤をつかって、火薬の材料を真剣に測るナターシャに感心する。
ナターシャは鉱業ギルドのギルドマスターの娘であるため幼いころから、採掘した鉱石、製錬した金属を図ることには慣れていた。
「まさか、お手伝いでやっていた計量技能がこんなところで役に立つとは。」
「自分の人生の積み重ねがどんなところでつながっているのか、わからないもんですね。」
「ありがとうございます。フローレンスさんこそ、ギジロウさんの指示が良く理解できますね。陶器やガラス器具の指示や形状なんて文字だけでよく伝わるなと思います。文章もかなりスラスラ読めていますね。」
図り終わった材料をフローレンスの拠点で作った乳鉢に移しながら、ナターシャはフローレンスの教養の高さに驚く。
「え、まぁ。いろいろ学んできましたし。ギジロウさんの指示が分かりやすいのです。最初はうまくいかないことも多かったのですけども、私たちの知識に合わせて離されているようです。あの方の方が私よりも全然頭が良いと思いますわ。」
「確かに、ルース様はいったいどこからあんな人を連れてきたのか。」
「確かに気になりますわね。」
原料を移し終わった乳鉢を机の端に動かすとタイミングよくベンがそれを受け取りに来る。
「あら、ベン。丁度良かった。計り終わったからこれは次の工程に回してもらってよいわ。」
「わかった。」
ベンの後ろでサーマリーが顔を出してベンに声をかける。
「ベン、それをどこに持っていくの?」
「調合小屋だよ。」
「私も一緒にいく!」
「なんで?」
ベンは素っ頓狂な声でサ―マリーが一緒に行くことに疑問を持つ。
「まぁ、いーじゃない。」
サーマリーは少し俯きながらベンの方に近づいてくる。
「混ぜて小分けにするのには、人手がいるから2人でやってきたら良いと思いますわ。」
「ナターシャさんもそういうんだから、そういうことね。」
ベンとサ―マリーはそのまま小屋から出ていく。
「思い出しても、シノ、あなたに火薬を渡した覚えはないのですけど。もしかして、ベンとサーマリーが調合をしているときに手伝ってくれたのですか?」
「2人であるいているところに、ばったり会って。ベンから調合を手伝ってくれって言われたときにつくった。」
「その際、サ―マリーになんか言われませんでした?」
ナターシャは声を落としてシノに静かに語りかける?
「いや?」
シノはナターシャの意図を理解せず、当時の自分の感想を伝える。
「それで、火薬は使ってよい?」
シノはナターシャが少し引きつった顔をしていることを気にせず話の本題に戻る。
「まあ、今使うしかないですね。お願いします。」
シノは無言で頷くと、シノは反対側にすわるサ―マリーに声をかける。
「サ―マリー、手伝って。」
「なんで、私が。」
「攻撃魔法が使えるのがサ―マリーしかいないから。」
サ―マリーは少しムッとし、ナターシャはその様子を冷や冷やしながら見守る。
「空中に跳んでいる、爆弾に攻撃魔法を当てるなんてことができるのは、サ―マリーしかいない。だから、一緒に戦ってほしい。」
その様子を見てベンもシノと一緒にお願いする。
「サ―マリー。攻撃魔法の華やかな戦いまた見せてくれ。」
「わ、わかったわ。」
シノは爆弾をマンテングマの前に落ちるような力加減でマンテングマに向かって投げる。宙を舞う爆弾に対して、サ―マリーが何発かの攻撃魔法を放ち、そのうちの1発が爆弾に命中し、導火線に火が着く。
マンテングマがその上を通過し終えたころ爆弾が爆発する。
爆弾の戦いに慣れていた、シノ、ベン、サーマリーはとっさに耳を塞いでその爆音から身を護る。何も知らなかったナターシャは爆発をもろに受けてくらくらする。
5発ほど投げると、マンテングマとの距離が少し空いてくる。
「こういう、小さい火薬だと倒しきれないかも。」
爆発でマンテングマが驚いて一旦立ち止まっただけであり、マンテングマ自体にダメージを与えられていないのがシノやサーマリーの目からもよくわかる。
「ニーテツの森の中でギジロウさんがやったように、地面膿めて待ち伏せが良いのかもね。」
「なるほど。じゃあ、それをやる。」
「え?」
シノはサーマリーを連れて馬車から飛び降りる。
「ど、どういうこと。」
「私がクマの注意を引きつけるから、サーマリーが爆弾を埋めて待機していて。」
シノは自分の持っている爆弾の大半をサ―マリーに預ける。
「任せた。」
「わ、わかったわ!」
少女2人はマンテングマに立ち向かう。





