第8話 そのクマは冬を越さない(2)
「撃ち方よーい、撃て!」
ハイドの号令に合わせて、森の中に爆発音が轟く。
空を飛ぶ弾丸はギジロウの
弧を描いて空中を進む弾丸は、熊を軽々と飛び越えて森のなかに着弾する。
「おー。」
「こ、これが大砲。」
初めて発射された様子を見たルースや他の人々はその光景に圧倒されて感嘆の声が漏れる。
「弾が当たればよいのですよね?外れました。」
発射される様子を一瞥することなく、望遠鏡を覗き続けマンテングマを監視していたルッチが報告をする。
「わ、わかった。次の発射を用意しよう。」
「わ、分かりました。」
ハイドは周りの人たちと協力して尾栓を開け、内部の燃えカスを取り除き魔法陣についた煤を拭きとる。
「ルース様、魔法陣の状態は問題ないですか?」
「見るわね。」
ルースが大砲の中に刻まれた魔法陣の状態を確認する。魔法陣自体が刻まれた面のヒビ、カケ、衝撃で表面が抉れていないかを確認する。目視で確認出来たら、ルースは少しだけ魔力を流し込み魔法陣が点滅したり、一部が光ったりしていないなどの異常な光かたをしていないかを確認する。
ルースの魔法陣の確認と並行しながらギジロウも大砲の外観を目視で確認したり、砲身を手で触ったりして、問題が無いかを確認する。
「ギジロウさんは何を見ているの?」
カイナが興味深そうにギジロウの作業について質問する。
「異常に熱かったりすると、次の発射で砲身が爆発する可能性があるからな。砲身の熱さを確かめているんだ。」
「どれくらいだと、まずいのかわかるんですか?」
「いや、温度計とかがあるわけではないからわからん。勘だ。」
「お、おんどけい? 勘で大丈夫なんですか?」
「手で触れそうなら大丈夫だろ。 青銅の融点はもっと高いからな。 あとは目視だな。」
「あれですね、溶けた青銅は赤いですもんね。」
カイナもギジロウと一緒に砲身を確認する。
「そうだ、カイナはどう思う?」
「とくに、問題なさそうだと思います。」
カイナは砲身に手を触れて問題が無いと判断する。
「そうだな。俺もそう思う。ハイド、砲身自体に問題はないぞ!」
「魔法陣も問題ないわ。」
ギジロウとルースから問題ない旨がハイドに伝えられ、ハイドは次弾の装填作業を始める。
重い砲弾を荷車から降ろしてゆっくりと運び、砲身何に挿入する。
「押し込みます!」
他の人たちが周りから見守る中、ハイドが後ろから棒を使って押し込む。
「はぁ、はぁ、次、火薬を入れましょう。」
続いて、その後ろから布に包まれた火薬を入れて再び栓をする。
「ルッチ。目標の場所は?」
「先ほどよりも、右側に移動していますね。」
「止まっているか?」
「いえ、動いていますね。」
目標の方角を大雑把に把握して、地面に線を引くルッチの示す方向よりもやや右側に角度を取る。
「さっきよりも浅い角度にしてくれ。」
大砲の角度を発射位置に固定する。
「魔力込め!」
ハイドが再び大砲発射の手順を始める。大砲を操作する1人が大砲の外から大砲の薬室内の魔方陣に魔法を込める。 魔方陣に魔力が充填され始め尾栓の隙間から光が漏れる。
「ギジロウ、あなたに言われたとおりに、逓減魔法の魔方陣を張り巡らせているけど、効果はありそうかしら?」
ギジロウは自分の持てる限りの知識、魔導書を参考に大砲を設計した。しかし、自分の設計、加工技術にかなり不安があった。鋳造であるため脆い青銅、必要な厚みが取れているか不明な切削加工、安定しない火薬の性能など不確実な要素が多すぎて、ギジロウは発射と同時に薬室が爆発して操作する人たちが怪我をすることを心配していた。
そこで、魔法という未知の技術を利用し、ギジロウの技術と融合させることで、安全性を得ることにした。
マンテングマが使用している逓減魔法は運動エネルギーを魔力に変換することで、エネルギーを拡散するという効果がある。この魔法で薬室にかかる過大な爆発エネルギーは拡散し大砲の破損を防ごうと考えた。魔方陣の設計はルースが行い、大砲のなかに魔法陣を刻み込んでもらっていた。
「さっき確認した限り傷はなかったし。撃ててはいるから問題なさそうだな。」
「では、ギジロウさん、撃ちますよ。」
ハイドに対してギジロウは頷く。
「撃ち方、よーい。撃て! 」
森の中に轟音が響き、わずかに静寂が泣かれる。
「外れました。今度は目標の手前側に落ちています。」
ルッチから淡々と報告が上がる。
「こんなんで、あたるのかしら。」
熊も動くし、大砲も動く火薬の量の毎回微妙に違う。
ギジロウが想像したよりも、曲射で当てるのははるかに難しかった。
至近戦闘に向かない人たちが安全に叩ける方法として用意した大砲だが、当たらなければ意味がない。
「もっと近くで撃てば、あたるかも。」
ギジロウがポツリとつぶやく。





