第7話 クマさんクマさん火薬の鳴る方へ(8)
「オーライ、オーライ。ゆっくり降ろして。」
ハイドの掛け声に合わせて、男性が持った上型が、下型に合わせてゆっくりと重ねられる。
「流し込みのろう細工みたいですね。」
「原理的には変わらないからな。」
「それであれば、もう少し複雑な形が作れそうですね。」
「確かに、中空部品を作るのには物凄く向いているな。それに鋳型を増やせば量産しやすい。」
ギジロウはカイナに鋳造の魅力を語りながらハイドたちの作業風景を眺める。
ハイドが火にかけられ溶けた製造を湯くみで掬い、湯口に向かって傾ける。湯汲の中から垂れた青銅のオレンジ色の光が薄暗い部屋のなかを照らし、ポコポコと音を立てながら方の中に吸い込まれる。
湯口から少し溶けて青銅が見えるまで、同じ動作を繰り替えす。
「流し込みは終わったようだな。」
ハイドが手で額を拭う様子を見てギジロウとカイナは鋳造小屋を後にする。
「以前頼んだものは、どこにある。」
「向かいの小屋です。ギジロウ殿にはまだ見せていませんでしたね。かなりの自信作ですよ。」
そういって、向かいの小屋の扉をあけると大きな車輪を持った砲架が目に映る。
「素晴らしいな。これなら重い砲身を載せて問題なさそうだな。」
「えぇ、人が乗っても大丈夫なくらいです。あとは砲身の耳に合わせて固定するだけですね。」
ギジロウは、自分のが設計したものが徐々に組みあがっていく様子を見て、達成感を感じる。
数日後、温度の下がった砲身をやすりで磨きカイナの作った砲架に載せる。
「砲身の下に足とかは置かないようにな!」
小屋の中に設置されたクレーンで砲身を吊るし、その下に砲架を移動させてゆっくりと降ろす。
砲身の耳の位置にあわせてカイナが砲架の一部を加工して大砲を組み立てていく。
「よし、完成しましたよ!」
最後の楔をハンマーでたたいたカイナがギジロウの方を向いて、作業終了を漫勉の笑みで伝える。
その顔は達成感と満足感にあふれていた。
「それで、この武器はどうやって扱うのかしら?」
組立小屋にやってきたルースが磨かれた青銅の砲身をじっと見つめながらギジロウに話しかける。
「火薬がないから実際に発射できないけど、それでもよいか?」
「良いわよ。」
ギジロウとルースは大砲を挟んで向かい合わせに立つ。まずは大砲の構造から順番に説明していき、発射の方法を教える。
「まず、砲身の後ろ側の蓋をはずす。」
「閂を抜いてとじている部分をはずせば良いのよね。」
ルースが閉めている蓋(尾栓)を持ち上げる。
「結構重いわね。」
「青銅の塊だかなら。」
ギジロウは重そうに持ち上げるルースを手伝い一緒に尾栓をはずす。
そして、外した尾栓を砲身のそばに置く。
「次に、砲弾を装填する。」
ギジロウは2メートルくらいはなれたところに置いてある箱を指差す。
ルースは言われた箱のところまで行き、蓋をはずしてなかを覗く。
「これが、砲弾と言うのね。説明されていたけれどいまいち理解できていなかったわ。思っていたより小さいわね。」
ギジロウが日本の現代の大砲の話をしていたため大きなイメージで伝えてしまっていたが、砲身の鋳造が大変なため、今回は直径4センチメートルの砲弾とそれに合う大きさの大砲で設計した。
「これを砲身のなかに入れれば良いのかしら? 持っても大丈夫かしら?」
「大丈夫だ。」
ルースが興味深そうに砲弾を手に取り少し眺めたあと、砲弾を大砲のところまで戻ってくる。
そして砲弾を尾栓の穴のなかに入れる。
「これで良いのかしら?」
「それでよい。そしたらこの後に火薬を詰め込んで尾栓を閉める。」
ギジロウは火薬を入れる素振りをしたあとに、尾栓を床から持ち上げてもとの位置に戻して閂を差し込む。
「これで、発射準備は完了だ。」
「使用するまでになかなか準備作業が大変ね。この後はどうするのかしら?」
「この後は、目標に向かって大砲を向ける。」
ギジロウは大砲を掴んで右に回そうとするが、少し動かしたところで息が切れる。
「誰か呼んでこようかしら?」
「頼んだ。」
ルースは鋳造小屋からハイド、カイナ等数人をつれてくる。
「ハイド、あなたが大砲の操作を覚えてね。」
やってきて早々、ルースがハイドにたいして無茶振りを始める。
「え、えぇ。」
ハイドはなにか言いたそうに口をパクパクさせるが、そんなことを無視してルースは覚えたばかりの大砲の説明を始める。
「あ、あの、私は武器の扱いがそんなにうまくないのですが。」
「大丈夫よ、この武器を扱ったことのある人はここにはいないわ。」
「そういう意味ではなくて。」
その様子を、カイナ達は笑いながら眺めていた。
「さて、砲弾が込められたら目標に向かって大砲を向けるのよね。」
「そうだ。みんな回すのを手伝ってくれ。」
数人がかりで押すことでゆっくりと大砲は右を向く。
「目標の方を向いたら、後はこの穴に向かって攻撃魔法を撃ち込んで火薬に点火させる。」
ギジロウが砲身の横に空いた小さな穴を指差すとみんながその穴のをみようと顔を近づける。
「こんな小さな穴をつくれるなんて、ハイドの技術はすごいわね。」
ルースが思わず感嘆の声を漏らす。
「あ、ありがとうございます。」
「発射の手順はこれで終わりだ。」
ギジロウは使用後の手入れと注意事項を説明していく。
(まあ、おれも魔道書の簡単な解説をみただけなんだがな。)
「ハイド、火薬はまだないけどよろしく頼んだわね。火薬が到着したら1回試しに使ってみましょう。」
「は、はい。練習に励んでおきます。」
その日以降、ハイドを中震とした金属加工のメンバーは定期的に大砲の練習をするようになった。
「そろそろ、ナターシャ達が帰ってきてもよいころだと思うのだけど。」
「そうだな、硫黄が見つかっていればスグに帰ってくると思っていたが。」
(今回は期日を決めていなかったな。状況がどうであれば20日後くらいには一度帰ってきてもらうようにしても良かったかもな。)
ギジロウはまだまだマネジメントには向いていないなと思い、少しと遠い目をする。
「ルース様、ナターシャさん達が帰ってきました。」
エイダがノックもせずに大慌てで実験小屋にはいってくる。
「丁度良いタイミングできたな。よし、ご飯を少し豪華にーー」
「招かれざる客も一緒につれてきてしまったようです。」





