第7話 クマさんクマさん火薬の鳴る方へ(2)
爆発音と爆圧が通り過ぎるのを肌で感じたギジロウは子の影から身を乗り出しマンテングマの様子を確認する。
「まじか……万全な状態だと手榴弾程度だと効かないのか……。」
黒煙の中からマンテングマがゆっくりと歩いて出てくる。何が起こったのか理解できていないのか、マンテングマは四つん這いのままキョロキョロと辺りを見渡していた。
「ルース! 大丈夫か?」
すぐ側で身をかがめていたルースを立ち上がらせてギジロウは走り出す。
「マンテングマはこの状態じゃ倒せない! とにかく逃げるぞ。」
ギジロウは後ろにいたシノ、前にいるベンとポーラに合図を送り、採掘拠点を目指して走り出す。
少し走るとフローレンス達の拠点との往来に使っている広い道に出る。
「ギジロウ、クマが1匹しか追いかけてきていない。」
「なら、良かったじゃない。1匹だけな何とか相手できそうね。」
「そうも言っていられないです。ルース様。」
ポーラが引きつった声を挙げながら進もうとしていた道をゆっくりと後ろ向きに歩きながら戻ってくる。
進みたい方向にはマンテングマが1匹待ち伏せていた。
「どうする、2匹よ。」
「正面のクマを無理やり突破するか。」
昼も過ぎ、曇りの森は徐々に薄暗くなってきている。進む方向が見えなくなるような暗闇になる前にせめて水晶洞窟の採掘拠点までは戻りたいと誰もが感じていた。
「ギジロウ、後ろからもきてる。」
後ろ向きに下がってきたシノの背中がギジロウの背中にぶつかる。
「まずい、道が断たれた。」
ギジロウ達のいる場所から3方向にある道は全てマンテングマに防がれてしまう。
「ギジロウ様、開拓地方向の熊を倒せば良いか?」
ギジロウは額に指を当てて少し考える。
(せめて、採掘拠点まで逃げ切りたいが、前の1頭を相手している間に他の2頭が静かに待ってくれている保証はない。)
「森に入って迂回しよう。」
ギジロウはすぐ側の藪を目指して走り出す。ルース達もそれを追いかけ森のなかに入っていく。
「みんな、熊は追いかけてきているか?」
「兄貴、後ろからは2頭が追いかけてきている。」
「ギジロウ、左側の少し離れたところで並走するよう1頭走っているわ。」
マンテングマもギジロウ達を捕まえようと森の中を追いかけてくる。
左側を走っていたマンテングマがルースを狙って一気に距離を詰めるように迫ってくる。
「飛びかかろうとするなら、まだまだダメね。」
近づいてきたマンテングマが前足を挙げたわずかなタイミングでルースがマンテングマのお腹に向かって攻撃魔法を放つ。
攻撃魔法が効いたらしく近づこうとしたマンテングマがその場で足を止める。
「やっぱり、堅いな。」
マンテングマは速度を落としながらも再びギジロウ達を追いかける。
ギジロウは元の道から適度に離れたら大きく弧を描いてもとの位置の方向へ転換する。
幸いにも木の多い森の中のためマンテングマも全速力で走れないため距離は縮まっていない。
「シノ、飛び道具があると言っていたな。何が残っている?」
「ギジロウが作ってくれた。マキビシって言う道具。」
「あ、あぁ、あれか。」
ギジロウは鉄の精錬の実験をするなかで出た砂利くらいの脆くてトケトゲした塊のことを思い出す。寄せ集めて溶かしてとも良かったが、ギジロウがマキビシっぽいと考えて使えそうなシノに武器として渡していた。
「とりあえず、それをクマの足元めがけて投げろ。踏んでくれれば効果はあるはずだ。」
「ギジロウ様、1頭が先回りしたらしく前から走ってむかってきてます。また、進路を変えますか?」
ギジロウはよく目を凝らして前の方を見てみるがあまりよく見えなかった。
「わからんが、前方から向かってきているのだな?」
「えぇ。1頭だけ向かってきてます!」
「後ろの状況は?」
「シノの巻いたやつを踏んだらしくて、追いかけてきていないわ!」
ルースの報告がギジロウの後から聞こえてくる。
「1頭ならこの勢いまま、突破するぞ!」
「ギジロウ、どうするのかしら?」
「ルース、懐中灯ほ持っているよな?」
ギジロウ達は速度をかなり落としゆっくりと歩く。少しするとマンテングマの姿が見え、あっという間に大きく全身が見えるようになる。
「今だ! クマの顔をめがけて明かりを照らせ!」
ギジロウ、ルース、ポーラの3人が一斉に懐中電灯をマンテングマに向ける。
薄暗い森のなか懐中灯の光が集まった場所は一気に白くなりなにも見えない状態になる。
そして、上の方にうっすらとクマの前足と頭が見える。
「よし、光を消せ!」
今度は急に暗くなり目が眩んだギジロウ達には真っ黒い空間が現れたようになる。
「べん、シノ! 目を開けて良いぞ! 腹を見せて怯えていそうか?」
事前に目を閉じさせて置いたシノとベンにマンテングマの様子を確認させる。
「兄貴、全部の足が地面についているが、首を振ってるぞ!」
「ルース、ポーラは、走れそうか?」
「まだよく見えないけど、大丈夫そうよ!」
「私も同じ状況です。」
ギジロウはベンに、ルースとポーラはシノに手を引かれなが目が眩んでふらついているマンテングマの側を通り抜ける。
「クマは追いかけてこなさそうね!」
「あと少しで元の道に出るぞ!」
マキビシと懐中灯でマンテングマをなんとか撒いたギジロウ達の目の前に道らしき空間が見えてくる。
それと同時にギジロウの視界の右端から1頭のマンテングマが迫ってくるのが見える。
(あぁ、しつこい。クマって、こんなに執着するのか。)
ギジロウはインターネットでみた、クマによる獣害事件の記事がチラッと頭に浮かぶ。
(記事で読んだときにはそうなのかくらいしか思わなかったが、当事者になると堪える。)
「ギジロウ、さっきと同じような対応で良い?」
「お、おう。そうだな。」
シノとベンはギジロウ達の少し前の方にさがり、ギジロウ達も迎え撃つためにその場に立ち止まる。
また、マンテングマが大きく見えてきたところて懐中灯を強く握りしめる。
「よし、クマを照らーー」
「2頭いるわ!」
ルースの言葉を聞きながらをギジロウ達は明かりを見える位置にいたマンテングマに向ける。1頭目は先程と同様に目が眩んだようでありその場に立ち止まっていたが、2頭目がそのマンテングマがすぐ後から飛び出してギジロウ達の横をすり抜けていく。
そのさきには目を瞑ったままのベンがいる。





