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第1話 助けを求める少女(5)

 総督との面会が終わり少しすると宿泊する部屋に案内される。ルースは大きな部屋が、使用人であるギジロウには小さな部屋が与えられる。

 ギジロウはベッドに横になり今後のことを考える。

(成り行きでニーテツまで来たが今後どうするか。ルースには一緒に逃げてほしいと言われたがいつまで一緒に居るべきなんだ?)

 ギジロウが今後の方針を考え込んでいるとルースが相談のために部屋にやってくる。部屋に招き入れると落ち込んだ声でルースは話し始める。

「あのね、行先は決めかねているのだけどどこかに逃げるつもりだから、移動できるように準備を整えてもらえるかしら。」

「ルースは何かやることがあるのか?」

「私は気持ちを落ち着けたいのと、今後どうしたいのか少し考えたいわ。自分勝手でごめんなさい。」

 そういって、準備するためのお金を置いて部屋を出ていく。

「まあ、そう頼まれたらやるしかないよな。」


 次の日からギジロウは目的地未定の逃避行の準備のため数日かけて車を渡河させ、ニーテツの中心地区に近い場所に車を移動させていた。

「これで、準備物を持ってきやすくなるな。」

 夕方、作業を終えて総督の館に戻るとルースと出会う。

「お疲れ様、準備はどうかしら?」

「ようやく、車の移動を終えて居住性を良くしようとしているところだ。明日からは軽トラの荷台に屋根でもつけようと思う。ルースの方こそ気分はもう落ち着いたか?」

「総督の家のこと手伝ったりして少しは気分が紛れたわ。」

「それならよかった。無理せずに、ゆっくり休んでくれ。」

「ありがとう。ところで、あなた、かなり重労働だったようね。汗がちょっと臭うわ。」

「それは……申し訳ない。替えの服もないし、お風呂にも入っていないからかなり汚れているだろうな。」

「私もしばらくお風呂に入っていないから同じね。あとで一緒に公衆浴場に行きましょう。着替えは館の人からもらってくるわ。」

 夕食後、ルースと一緒に公衆浴場に向かう。

「出たら、その辺で待っていてちょうだい。」

 入口でルースと別れてお風呂に入る。扉を抜けた先は湯気が立ち昇り視界が悪いが久ぶり風呂にギジロウは年甲斐もなくはしゃぐ。

「久しぶりの風呂、生き返るぅぅ!」

 ギジロウが湯船につかっていると、側にいた青年から話しかけられる。

「お兄さん、見かけない顔だね。どこから来たの? 冒険者の一行かい?」

「東の町から逃げてきた。」

「そうか、それは大変だったな。あの町は占領されてしまったと聞いたが、家族と一緒に逃げてきたのか。」

 ギジロウはこの世界に家族はいないため答えに戸惑っていると青年が謝る。

「悪いことを聞いてしまったな。すまない。まあ、とりあえずこの町でゆっくりしてくれ。俺はすぐそばの商店街で家具屋を営んでいる。もし、新居を構えるなら是非うちで家具を調達してくれ。割引はできないけど、最高の商品を取り揃えているよ。」

「それは、是非とも利用させてもらうよ。ところで、あなたはニーテツから逃げないのか。総督から避難勧告が出されていると聞いているが。」

「俺は他の町に逃げる当てがなくてね。それに、死んだ嫁の墓もニーテツにあるのでなるべくなら離れたくないのだよな。家族は娘がいるから娘だけでも逃がしてあげたいがお金がないから誰かに託すこともできない。もし戦いになったら、娘を守るために戦うつもりだ。」

(そうか、逃げるにもお金がかかるのか。厳しい世界だな。)

「すまんな。お兄さんこんな話をしてしまって。なんとなく話したくなってしまってな。」

「話して元気なるなら話した方がよい。あなたも娘さんを守るために頑張ってくれ。」


 お風呂から戻り部屋でくつろいでいると、執事長がギジロウの部屋を訪ねてくる。

「夜分遅くに失礼します。総督がお呼びですので総督室にご案内いたします。」

「使用人である俺にか? ルース様ではなく?」

「はい。総督はあなたをお呼びです。」

 総督室に入ると軽食が用意されていた。

「よく、来られたギジロウ殿。まあ、座ってくれ。そんなに警戒しなくてよい。あなたに危害を加えるつもりはない。」

 案内されるままギジロウは席に着く。

「ルース様から話を聞いたのだが、ギジロウ殿はとても賢く様々な知識をお持ちのようだ。少し知識をお借りできればと思い、お呼びした。」

 そう言って鉱石と金属の棒を取り出して、くっつけて見せた。

(これまた、強い天然磁石だな。)

「この金属はこのニーテツで採れた金属を製錬したものです。」

「ニーテツでは銅が採れるとルースから聞いていましたが、鉄も採れるのですか?」

「えぇ、そもそもニーテツは鉄を取るために開拓された場所なのです。それまで連邦はニーテツから南側にある鉱山で鉄を採掘していたのですが量も少なかったのですよ。しかしあるとき、この地に鉄鉱石が露出していることを冒険者が見つけ、一気に開拓を進めたというのがニーテツの開拓の歴史です。」

「なるほど。そえで、お話というのは」

「我が国では砂鉄や鉄鉱石を利用して鉄の生産を行っております。」

 そういうと、総督は図面を広げながら、ニーテツでの鉄の作り方の説明を始めた。

 魔法による補助や魔法陣の展開術式など聞きなれない説明が出てくるが、砂鉄や鉄鉱石を木炭と混ぜて塊錬鉄を取り出しそれを鍛える、いわゆる古代から続く製鉄法である。元居た世界の炉に比べて風を送る機構に発展がみられないのは魔法の補助によって高温を得るという方向に発展しているからなのであろう。

「なるほど、ニーテツではこの種類の炉で鉄を作っているのですね。」

「はい、古くから伝わる鉄の製法を徐々に改良しながら製錬しているのですが、なかなか鉄の生産量を大きく向上させることができておりません。ここ最近の情勢により中央より鉄の生産量を増やすように通達が来ているのでそれに対応したいので、ギジロウ殿から見て何かご指摘をいただけたらと思いまして。」

「わかりました。そしたらもう少し詳しく教えていただけますでしょか。」

 その後、ギジロウは特に技術的に遅れがあると思われる送風機構に関して改良案などを提示する。

(正直、製鉄はあまり詳しくないのでそこまで詳細な説明はできないのだが。)

 しばらく総督からの質問に答えていき、夜も更けるころギジロウは解放される。

「ギジロウ殿ありがとうございます。とても参考になりました。」

「いえいえ、こちらこそ楽しかったです。それでは失礼します。」

 ギジロウが部屋を退出する。


「技術長、ギジロウ殿の知識はどう思う。」

 隣の部屋で話を聞いていた技師長と呼ばれる男が総督の前に現れる。

「最近、研究所で考え出された手法に酷似しています。いえ、何ならば研究所で発明された技法以上の話ですね。また、鉄づくりをしたことがないという割には、作業の工程1つ1つについても私や研究所の人間並みに理解がある。私が長年の経験と勘で得ていた火と鉄の色に関しても知っていたようです。」

「やはり、技師長の目でみてもすごい知識を持っていると感じるか。私が気になる点は2つある。1つ目は鉄とそれを引き付ける石を見ても驚かなかったこと、2つ目は「この種類の炉を使っている」と言っていたことだ。」

「もしかして我々が知らない炉の形状を知っているのかもしれないですね。」

「確かにな。彼の知識の底が見えない。」

「何者なのですかね。」

「わからん。なぜ、ルース様はあのような男性を連れているのだろうな。技師長、ここでの会話は王都にも秘密にするのだぞ。」

「わかりました。」





 オステナート周辺では着々と侵攻の準備が進んでいた。

「司令官、全部隊が到着、出撃準備が整いました。」

「本部より通達、明けの明星に従い、各部隊攻撃を開始せよ。なお、ワイバーンが向かっているため、攻略時には見方ワイバーンにも気を付けるようにとのこと。」

「ワイバーンまでやってくるとは本国も全力のようなだな。」

 明け方、司令官の命令で攻撃が開始される。

「全部隊、攻撃開始。」

「復唱します。全部隊攻撃開始」


 オステナートの見張りがファナスティアル王国の攻撃に気付き襲撃を知らせる鐘を鳴らす。町の3方向からほぼ同時に鐘が鳴る。

「全兵力をたたき起こせ! 総員戦闘準備。敵を蹴散らせ!」

「どうした、一体、何が起きている。」

「伯爵様、ファナスティアル王国が攻めてきました。今回は3方向から同時です。」

「なに。すぐに指揮を執る。町民も起こせ。このままでは蹂躙されるぞ。」


 南門では兵士がワイバーンが向かってくるのを確認する。


 ギャォォォ


「まさか、ワイバーン部隊か?」

「本部へ連絡しろ。敵はワイバーンを投入してきーー」

 城壁上の兵士に向かって容赦なくワイバーンが炎を吐く。


 北門ではファナスティアル王国が投石器を持ってきて攻撃に使用する。

「敵、投石器から石を投射しました。」

 黒い塊が宙を舞う。

「思っていたよりもかなり小さいな。ファナスティアル王国の技術はそんなもんなのか? 気を付けろ! 小さいが当たれば死ぬぞ。」

 兵たちは落下位置を予測してすばやく落下予想地点から離れる。落下地点には誰もおらず被害はないかに思われた瞬間。


 ドーーーン


 落下地点で石が爆発し、破片が周囲に飛び散り、近くにいた人々に被害を与える。

「な、なんだ? 爆発魔法を封じ込めた石なのか? そんなもの聞いたことがないぞ。」

 爆発と言えば戦術魔導士が前線まで来て詠唱するのが当たり前であった兵士たちにとって、未知の爆発兵器の投入は士気も低下させるには充分であった。


「領主様、未知の兵器が使用されています! 損害不明! 前線では勝てないと兵士が感じて士気が低下しています。」

「なんなんだ……。なぜ彼らはこんなに急に力をつけたのだ……。我々はいったい何と戦っているのだ。」

 領主は未知の兵器に対峙しながら懸命に指揮を執るが、その顔は焦りと恐怖に支配されていた。


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