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第6話 眠らない熊(8)

「兄貴、助けに来たぞ!」

 考えるのがだるくなってきた頭に元気な声が響く。


 閉じかけていた目を再び開くと、すぐ目の前を人が落ちていく。

「……。ギジロウ、助けに来た。」

 落ちていった人物は持っていた手に持った短剣をそのままクマの首の付け根に押し当てる。


「落下する力を使ってもダメか。」

 どこか落ち着いた声が状況を説明する。


「ギジロウ、クマが少し離れたわ、今なら降りられるわ。」

 ルースがギジロウに下に降りるように叫ぶ。

 足を離し腕だけでぶら下がり、下に何もないことを確認してギジロウは手を放して地面に降りる。

「はぁ、はあ、死ぬかと思った。」

 ギジロウは両膝と両手を地面につきながら息を整える。


「ギジロウ、大丈夫?」

「ギジロウ様、大丈夫か?」

 ルースとポーラがギジロウの両側にしゃがみ顔を覗き込む。

「何とか生きてる。クマは?」

「ベンとシノが相手をしている。」


 少し離れた位置ではベンが剣を両手で構えてクマと対峙している。シノもすぐ側で短剣を手に持って構えている。


「ポーラ、一応クマの腹なら魔法が展開が使われていないかもしれないぞ。」

 ルースの攻撃魔法が魔法が効果を発揮した状況をポーラに伝える。

「しかし。どうやってクマを再び立ち上がらせるかだが。一度、腹に攻撃を受けているなら二度目はないだろ。」

 ベンとシノの様子を見ると、確かにマンテングマはなるべくお腹を見せないように立ち振る舞っているように感じる。

 ベンがマンテングマの隙を見て剣で突くように仕掛ける。マンテングマは一歩下がり攻撃をかわすと飛び出してきたベンにすぐに襲い掛かる。

「あ、あぶねぇ。」

 ベンがギリギリのところでマンテングマが振り下ろしてきた右腕を交わす。

「ベン、失礼。」

 ベンの背後からシノが飛び出し、振り下ろされた右腕に対して短剣を突き立てるが刃が立たない。

 そして、マンテングマはシノを跳ね除けるように腕を振る。

 シノは振られた腕を短剣で受け止め、勢いを受け流すように後ろに転がりながら受け身を取り、そのままポーラの元まで行く。

「……刃物を当てれば傷はつく……ぽい。」

 シノはクマの血が付いた刃物をギジロウに見せる。

「それはよい発見だ。シノ、ありがとう。」

 ポーラは短く返事をするといつも使っている剣ではなくギジロウが鍛えた重くて切れ味の悪い剣を腰から抜く。

「あれ、その剣は。」

「クマ公相手では私の細身の剣では折れてしまうからな。ギジロウ様、ルース様一旦お下がりください。」

 ポーラに言われてルースとギジロウは側の藪の中へ逃げ込む。

「ベン、こちらにおびき寄せろ!」


 ポーラが叫ぶとベンがポーラの居る方に移動するように徐々に下がって行く。

そして最後には背中を見せて全力でポーラの居る方に走る。

 あと少しでベンが追い付くというところでポーラも背中を見せてベンの前を走り始める。

「え? えぇ、師匠! 逃げないで!」

 状況が理解できないベンが間の抜けた声で叫びながらポーラの背中を追いかける。

「逃げているわけでない! 私の斬撃でも逓減魔法を突破するなんてこんなんだ。当てれば少しは斬れるとシノが言っていたがそんな斬り方でちまちま切っていたら、こっちの体力が持たん。」

「なら、どうするんだ! おい!」

 

 その様子を茂みからギジロウとルースは眺めていた。

「助太刀しなくて良いのかしら。」

 ルースはあたふたとしながら藪から顔を出す。

「大丈夫だろ、恐らくポーラがやりたいことは直ぐにわかるはずだ。」

 

 ポーラは急に立ち止まり剣を握る。

「ここだ!」

 ポーラは振り向きざまにマンテングマの胴体に剣を向ける。

 マンテングマは剣ごとポーラを突き飛ばすように体当たりをする。

 ポーラはマンテングマにぶつかるかどうかというタイミングで剣を手放し身をかわす。

 

「そんな場所はさっきもシノが攻撃していたけど全然効いていなかったじゃない…………え、ほんと!」

 ルースが驚きの声を上げ唖然とした表情でその状況を見つめる。


 今まで刃が立たなかったマンテングマの肩に剣が刺さっていた。


「え、なんで、なんで。」

 いつの間にかギジロウの隣にしゃがんでいたシノも目を見開いてクマに剣が突き刺さる様子を見つめる。


「さ、さすが師匠……て、う、うわ!」

 少し離れた位置で立ち止まっていたベンに向かって勢いがついたマンテングマが突っ込んでいくため、ベンは慌てて横に飛び込む。

 マンテングマはそのまま木に頭から突っ込んでいく。


 

「流石ポーラだ。」

 ギジロウ達は折れた剣の柄部分を手に持って佇むポーラに近づきその技量を讃える。

「申し訳ありません。ギジロウ様せっかくいただいた剣を折ってしまいました。」

「大丈夫だ。また打ち直せばよい。」

 ギジロウは剣の柄部分をポーラから受け取る。

「まだ、生きているわ。」

 ルースがまだ息があるマンテングマに向かって攻撃魔法を撃ちこむ。

「まだ、攻撃魔法に対する防御は健在のようね……あら?」

「どうした、ルース?」

「様子がおかしい。魔法のすべてが拡散されている感じがせず、一部攻撃が届いているような。」

 ギジロウが魔法が撃ちこまれている様子を見ると、普段に比べて拡散光が弱いように感じる。

「疲れて、ルースの攻撃威力が落ちているだけでは?」

「そ、そんなことはないわ!」

 ルースは一旦攻撃魔法を止める。そして呼吸を整える。


 マンテングマはルースの方を振り向く。

「で、でも、ちょっとずつしか効いていないから普通に動けるようね。」

 ルースは声を震わせながらじりじりと後ろに下がる。

 マンテングマはゆっくりと体全体をギジロウ達の方に向ける。

 その肩の付け根部分には折れた剣が刺さりっぱなしになっている。

「まだ動けるのか? ポーラ同じ事はまだできるか?」

「ギジロウさんの剣自体、2振りしかないです。」

「そ、そうだった。」

 どうすればよいのか考えている間にマンテングマは向きを変え前足を庇うようにして別の方向に歩いていく。


「逃げるわ。今のうちに倒しきっちゃいましょう。」

 ルースに引っ張られギジロウ達はマンテングマを追いかけていく。


「あの洞窟に住んでいるようだな。」

 少し歩くとギジロウ達はクマの巣穴になっているだろう洞窟に辿り着く。

 手負いのマンテングマは洞窟から身を少しだし周囲の様子を覗っている。


「洞窟にいるなら、あれを使うか。シノ持ってきているか。」

「うん。」

 シノが改良した手榴弾を手に取る。

「これを含めて全部で3つ。」

「ギジロウ様、これは?」

「改良型の手投げ爆弾だ。」

 ギジロウは、ニーテツで作った簡易手榴弾のうち持ち帰れたものをフローレンス達の陶器に詰め替え、湿気を防ぐようにした改良型の手榴弾を作っていた。

「シノ、頼んだぞ。」

 ルッチは手榴弾に火を着けられるように火種を用意する。

 

 用意ができたシノが火種と手榴弾を手にもち慎重に洞窟の入り口に近づく。

 そして、点火して洞窟の中に投げ込む。


 爆発音が森にこだまする。


「かなり近距離で爆発させられたはず。」

 シノがすぐにギジロウの元に帰ってきて状況を報告する。

「よくやったぞ。」

 ギジロウはシノの頭をわしゃわしゃと撫でる。


「クマが出てくるぞ。」

 ベンがよろよろと出てくるマンテングマを見つけ剣の柄を握る。

 しかし、そのままマンテングマの四肢から力が抜けてその全身が地面につく。

 

 森には静寂が帰ってくる。


「やった! 倒したわ!」

 しばらく待ってもマンテングマが動かないことから、討伐完了を確信したギジロウ達は喜びを分かち合う。

「ようやく、フローレンス達のところに安心していけるようになるな。」

「ポーラ、さすがね。その剣術はどこで覚えたのかしら?」


「ギジロウ、ギジロウ。」

「どうした、シノ? シノもよく頑張ったな。最後の止めはありがとう。」

「なんか増えてる。」

「えぇ?」 

 

 ギジロウがもう一度洞窟に視線を戻すと――


 倒したクマを取り囲むように3匹のクマがいた。

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